新時代チェキはチェキキラーなのか、新しい写真の世界を開くのか? あえて革新を選んだ富士フイルムの決断を聞く
チェキは、この20年を超える時間の中、常に進化し続けてきた。
最新のチェキ「instax mini LiPlay」(インスタックス ミニ リプレイ)では、
・スマートフォンとの連携に対応
・音声が録音できる機能の追加
これまでの「チェキ」とは、大きく方向性が異なる一線を画す超多機能なモデルとなっている。
キャッチコピーは「新時代チェキ」。
チェキといえば、
これまで
「シンプル」
「使いやすさ」
「ファッショナブル」
こうした誰でもがわかる、誰でも使える、そうした特長を持つ製品として人気を獲得してきた。
一方で、最新モデルは「多機能」だ。
この「多機能」な部分だけに注目すると「新時代チェキ」は、
これまでの20年にわたる「チェキ」を否定しかねないモデルともいえる。
なぜ富士フイルムは、「新時代チェキ」を世に送り出したのか?
富士フイルムの決断と開発に込めた想いに迫ってみた。
■チェキの価値観は万国共通
今回のインタビューに応じていただいたのは、入社以来、国内外でチェキ(海外ではinstax)の商品化やマーケティングなどに関わっている富士フイルム イメージング事業部 インスタント事業グループ マネージャー 高井隆一郎氏(42歳)。

富士フイルム イメージング事業部 インスタント事業グループ マネージャー 高井隆一郎氏
高井隆一郎氏は、
2001年4月に富士フイルムに入社。イメージング事業部に所属する。
2009年からはドイツに駐在。欧州のイメージング事業部に8年間在席し、チェキを含め、イメージングの商品全体に関わる。
帰国後、現在はイメージング事業部でチェキの商品化とマーケティングを統括している。
日本では「チェキ」の愛称で親しまれているが、海外では「instax」(インスタックス)と呼ばれ、ヨーロッパ、アメリカ、中国、東南アジアなど世界100カ国以上で販売されている。
海外での出荷台数は日本よりも圧倒的に多く、今回の新製品「instax mini LiPlay」は世界で同時発売された。
高井隆一郎氏
「国によって文化は異なりますが、チェキに感じていただいている価値は一緒です。簡単で、シンプルで、撮ったらその場ですぐプリントが出る、というものです。独特の風合いが感じられるチェキプリントが好きだと言われます。そこは万国共通です。」

チェキは様々な製品をラインアップする
■チェキのラインアップとブレイク
今から20年余り前の1998年11月、初代チェキ「instax mini 10」が富士フイルムから発売された。

初代チェキ「instax mini 10」(画像提供:富士フイルム)
1999年5月、それまでのチェキプリントの2倍サイズでプリントを可能にしたinstax WIDEシリーズの初代チェキ「instax WIDE 100」が登場。
2000年12月には、電動式の3段沈銅レンズの採用によって初代機「instax mini 10」と比較して体積をおよそ20%カットした「instax mini 20」を発売。
その後もチェキは、様々な進化を遂げ、多くのモデルを市場に投入していった。
近年では、スマートフォンで撮影した写真を、スマートフォンアプリを通じてチェキプリントが得られるスマートフォンプリンターも市場に送り出した。
2014年2月に初代機「instax SHARE SP-1」
2016年7月に2代目の「instax SHARE SP-2」
2017年11月には、スクエアフォーマットフィルム「instax SQUAREフィルム」に対応した3代目の「instax SHARE SP-3」を発売
着実にスマートフォンプリンターでも進化を遂げている。
さらに2018年11月にはモーションモードを搭載した、
ハイブリッドインスタントカメラ「instax SQUARE SQ20」を発売した。
モーションモードは、動く被写体を動画で撮影して、お気に入りの瞬間を選択して、チェキプリントができるというもの。
現在のスマートフォンもそうだが、カメラ付き携帯電話は日進月歩の勢いで進化を遂げ、写真の楽しみ方を大きく変えた。
写真の楽しみ方、多様性の広がりは、チェキの追い風ともなってきた。
チェキの最大の特長である
・撮影してすぐにプリントできる
・プリントにメッセージを書き込める
写真をプリントという「モノ」を使って、人と人とがコミュニケーションできる付加価値と特長が利用者に受け入れられたからだ。
そして「チェキ」文化は、東アジアを起点に再燃し、欧米でも需要が急激に拡大する。
ユーザーターゲットをしっかり絞り込んだ製品作りと市場展開によって、チェキは着実に世界中に浸透していった。
高井隆一郎氏
「2007年頃に韓国のドラマの中でチェキが使われたんですよ。
それまでは静かなトレンドを歩んでいたのですが、
そこで若い子が『何これ?』とチェキを見つけてくれて、少しずつジワジワと浸透していきました。弊社内でもその動きを捉えて、再起させたのです。」
発売20周年を迎えた昨年、チェキの年間販売台数は1000万台(2018年度)を超えた。
■スマホと連携!新時代チェキ「instax mini LiPlay」は圧倒的な多機能モデル
今年の6月に発売を開始した、「instax mini LiPlay」は、好きな画像を選んで何回でもプリントできるハイブリッドインスタントカメラ。
突起部を除いた本体サイズは82.5mm×122.9mm×36.7mm、フィルムパックや記録メディアを含まない本体質量は約255gと、小型で軽量な点も大きな特長だ。
カラーバリエーションは、エレガントブラック、ブラッシュゴールド、ストーンホワイトの3色だが、本体表面に凹凸のはっきりしたテクスチャーが施されていたり、滑らかだったりと、持ったときの質感がそれぞれ異なるモデルとなっている。

instax mini LiPlayとアクセサリー製品
新機能の目玉が、最大10秒の音声を録音できるサウンド機能だ。
録音データをQRコード化して、画像と一緒にチェキフィルムにプリントされる。
スマートフォンでプリントのQRコードを読み取れば、その場で音声を再生できるのだ。
サウンド機能を実現するために欠かせなかったのが「スマートフォンとの連携」である。
これが、これまでのチェキではできなかった、大きな変革だ。
チェキは、スマートフォンと連携することで、実に様々な使い方と機能を実現できたのだ。
instax mini LiPlayとスマートフォンをBluetoothで接続する。
これでスマートフォン内の画像データを、instax mini LiPlayに送信してプリントできる。
つまり、別売りだったスマートフォンプリンター「instax SHARE」シリーズと同じことが新チェキでもできるのである。
さらにリモート(遠隔操作)機能にも対応した。
これは、instax mini LiPlayで集合写真を撮影する際、本体から離れた場所でスマートフォンアプリを操作して写真が撮れる機能だ。
そのほかにも、スマートフォンと連携することで、撮影時やプリント時に選択できる
「フレーム」
「フィルター」
これらも拡充させることができる。
また本体にmicroSDカードスロットを搭載しているので、デジタル一眼カメラで撮影したデータをmicroSDカード経由でプリントすることもできる。
instax mini LiPlayは
スマートフォンアプリを基点にして、ユーザーが求める様々な機能やデータの追加・強化ができるようになったのだ。
instax mini LiPlayが「新時代チェキ」といわれる理由がそこにある。
・従来のチェキと同様にカメラで撮影してプリントして楽しむ
・音付きチェキプリントで、チェキプリントの表現の幅や価値を広げた
・スマートフォンやmicroSDカードを利用して様々な写真データをプリントできるプリンターとして利用できる
「新時代チェキ」は、オールインワンなチェキに進化しているのだ。
■新時代チェキが誕生した背景
instax mini LiPlayは、チェキの「シンプル」という特長を踏襲しながらも、これまでのチェキとは大きく異なる製品といえる。
見方によっては、多機能すぎて、本当にチェキといえるのか?
そう感じる人もいるかもしれない。
なぜ富士フイルムは、
チェキのイメージを大きく変える「新時代チェキ」の発売を決めたのか?
高井隆一郎氏
「すべてのアイデアを入れたわけではないんです。
もの凄い数のアイデアがあり、かなり選りすぐっています。
商品企画の立場からいうと、これは全部入りではないんですよ。
全部を入れたら、もの凄く複雑なモノができてしまうと思います。」
商品企画の過程では、かなりの数の新しいアイデアが集まった。その数、10畳程度の会議室の壁がいっぱいになるほどだったという。
そんな膨大な数のアイデアを持ちながらも、譲れなかったキーワードが
「シンプルな操作」
これを実現することだった。

instax mini LiPlayは、多機能だが、複雑な操作にならないように開発された
高井隆一郎氏
「新しい商品を生み出す上で、新機能には
『これは楽しいね』という情緒的な価値を上げる機能やサービス、
『これは便利』という利便性を向上させる機能やサービス、
この2つの方向性がありますよね、この両方をちゃんと叶えたいなと。
その両方を叶えられるものをグッと集めてまとめたときに、
結果的に『複雑』なものになっていない、
そういうバランスを持った商品にしたい。
というのが、この新製品における開発のこだわりなんです。」
膨大なアイデアの中には、
・今回は採用を見送ったアイデア
・今後の製品で採用の可能性があるアイデア
が、たくさんあるという。
どのようなアイデアがあったのかお聞きしたが、残念ながら具体的なアイデアを伺うことはできなかった。
■写真プラス音声による新しい価値の創出
instax mini LiPlayの最大の特長といえるのが「音声録音機能」だ。
「音声付きのチェキプリント」
この新しい試みには、どんな想いが込められているのだろうか?
高井隆一郎氏
「人が感動するのは、五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)を刺激するものです。
現行のチェキでも
『目で見る(視覚)』
『触る(触覚)』
には凄くこだわっています。
これまでのチェキで、できてないことを考えたとき、味覚や嗅覚はハードルが高く、音(聴覚)に焦点を当てることにしました。
動画プラス音は、普通じゃないですか。
一方で、静止画プラス音は、少し違う感覚を得られると思います。
音は想像力を増幅させる効果がある。
静止画は、動画に比べると、圧倒的に情報量が少ないですよね。その情報量が少ない静止画を見ながら音を聞くと、自分の内面でイメージが膨れあがる。
この感覚は、動画を見ているのとは違うモノです。
この音付きプリントをオンデマンドで作れるのは、やはり新しいものになります。
もの凄く新しい価値が生まれると。」

instax mini LiPlayは、QRコード付きのチェキプリントで音声を楽しめる
実際にQRコード付きのチェキプリントを試してみると、
たとえば食べ物の写真の場合、
食べ物の写真だけを見るより、その食べ物を撮影した店内の声や、もしくは食べ物を作っている料理中の音を、写真を見ながら聴くことで、写真が撮られた店の情景が広がり、その場の臨場感を体験したような効果があった。
動画とは異なり、写真を見ながら、その場の音声を聴くことは、新しい体験と感覚を生み出す可能性があるのかもしれない。
ちなみに、チェキプリントに表示される音声用のQRコードは、5カ所の好きなポジションに設置でき、色も変えられて、写真の雰囲気を邪魔しない。
この写真と音声の融合は、今の時代だからできた。
スマートフォンとQRコードの普及が、その大きな理由だ。
QRコードは標準化され、スマートフォンでQRコードを読み取ることも特別なことではない。
多くの人が自然に使える今の時代だからこそ、
「複雑な使い方にしない」という開発ポリシーとも合致したのだ。
富士フイルムには、
「instaxの価値をもっと広めたい」
こうした想いが強くあるそうだ。
今ある楽しみ方だけでなく、誰も考えたことのない、まったく違う価値を実現していく。
この理念から、録音機能の搭載を決めたのだという。
■複製はできてもオンリーワンなチェキプリント
今までのチェキは「プリントの希少性」という付加価値が、人気を支えてきた。
しかしinstax mini LiPlayでは、ユーザーが選んだ画像を何枚でもプリントすることができる。
こうした価値の違いについて、どう考えているのだろうか?
社内での反発はなかったのだろうか?
高井隆一郎氏
「ハイブリッド(instax SQUARE SQ10 / SQ20)を出したときも、
スマートフォン用プリンター(instax SHARE SP-1 / SP-2 / SP-3 SQ)を出したときも、
そういった(希少性を損なうという)意見はもの凄くありました。
チェキユーザーでも、
希少性やアナログ感を大事にしている方と、
お気に入りの撮影画像を選んでプリントしたい方、
に分かれます。
我々は、其々の価値を大事にし、ラインアップとして、この両方に対応するという考え方を持っています。
希少性というのは、プリントしただけでも、もの凄く希少性が高い。
プリントの余白部分にメッセージを書いたら、そのプリントは既にオンリーワンになります。
だから、写真の複製はできても、その方がプリントするものって、そもそも選りすぐりの1枚だと思うんですよ。
なんでもかんでも複製して渡すのではなく、
やっぱり一番いいものをプリントするじゃないですか。
だから、出てきたプリントの価値というのは、変わらないんじゃないかなと思います。」

チェキフィルムにも様々な工夫が施されている。写真は「instax mini film コンフェッティ」
「同じ写真を複数枚プリントできるものは、チェキではない」
これを理由に商品化をやめてしまうと、
写真の楽しみ方の広がりも失われてしまう。
もちろん社内でも様々な意見がでたのも事実だという。
新製品を開発するにあたっては、開発、営業、デザイン、スマホアプリ、それぞれの部署のスタッフが集まり、徹底的に話し合ったという。
高井隆一郎氏
「シンプルな操作で、その場ですぐにプリントが得られるという、チェキ本来の価値を損なわないように。一方で新たな価値もご提供できるように、柔軟に商品企画をしていくことが重要だと考えています。」
■市場の盛り上がりは歓迎
キヤノンマーケティングジャパンは、スマートフォンとBluetooth連携が可能なカメラ機能付きプリンター「iNSPiC ZV-123」を6月に発売した。また、スマートフォン連携機能がないカメラ機能付きプリンター「iNSPiC CV-123」も、7月に発売している。
こうした製品が他社から登場することについては、どのように見ているのだろうか?
高井隆一郎氏
「写真をプリントにして楽しむ方が増え、写真市場全体が盛り上がってきたなと感じています。
我々もずっと写真のサービスを続けさせていただいています。
写真って、プリントしてより楽しめるものだと思う。だから、写真をプリントして、みんなが楽しめるように、ほかの企業も盛り上げてくれるのは良いことだと思います。」
チェキは、日本において長らくインスタントカメラ市場を牽引してきた。
それは言い返せば、強力なライバルがいない中で独自の成長を続けてきたともいえる。
他社と切磋琢磨して良い製品の開発や、市場の活性化に繋がるのではないかと見ているという。
■ユーザーを驚かせる製品を送り出していきたい
チェキにかける思いや今後の展開について聞いてみた。

高井隆一郎氏
高井隆一郎氏
「『シンプルで、簡単で、ポチッと押したらプリントがジワっと出てくる』
というチェキ独自のコンセプトは一貫して守っていきたい。
その上で、まったく新しい価値を乗せ、常に新製品を出したらお客さんが『ワオ!』と驚くような、そういう商品やサービスを心がけていきたいと考えています。
気になって自然と手に取ってしまうような、使う人の期待値の半歩先を行く、商品化を目指します。」
関連リンク
・インスタントカメラ【instax<チェキ>】公式サイト
執筆:ITライフハック 関口哲司
撮影:2106bpm、関口哲司
