自治体を変えていく「ごみ分別アプリ」、自治体と住民を繋ぐサービスへ、成長続けるG-Placeの挑戦
地方自治体に「ごみ分別アプリ」というものがある。
ごみの分別を支援するアプリなのだが、自治体ごとに仕様がカスタマイズされ、自治体のサービス向上に役立っているという。
「ごみ分別アプリ」とは、一体どんなものなのか?
このアプリを提供している株式会社G-Place(ジープレイス)では、アプリのリリース件数100自治体、累計ダウンロード数100万ダウンロードをこの夏には超える見込みだ。同社を訪問してみた。
■幅広い環境関連事業に取り組んでいる企業
株式会社G-Placeは、創業以来50年にわたり自治体の廃棄物行政の業務支援に取り組んでいる企業だ。自治体からの様々な要望に応えるため、
・ごみ処理の有料化の導入支援
・有料化関連業務のアウトソーシング
・ごみ処理の流通や収納管理システムの構築
などのサポートも行っている。
そんなG-Placeが開発したのが、
ごみ分別アプリ構築サービス「ごみスケ」だ。
なお、株式会社G-Placeは、2019年5月16日付で創業時の「日本グリーンパックス株式会社」から社名を変更した。社名変更は1968年の創業以来、初の試みとなる。
今回、ごみ分別アプリについて取材させていただいたのは、
株式会社G-Place 東京支社 公共イノベーション事業部 営業課 菊地絵里子氏。
株式会社G-Place 東京支社 公共イノベーション事業部 営業課 菊地絵里子氏
菊地絵里子氏
「私どもの会社は、今から約50年前に京都府で創業いたしました。
1970年に開催された大阪万博で、会場のごみ収集に利用するごみ袋を採用いただいたことがきっかけとなり、全国自治体様のごみ収集やリサイクル促進の支援をする、という仕事が一つの軸になってます。
例えば、指定のごみ袋を導入して実施するごみの有料化事業では、注文受付センター、指定袋の流通、公金徴収、システム開発など北海道から九州まで、50件程の自治体様とお取引をさせていただいています。
また、生分解性の高い洗剤や、オーガニック認証を取っているコスメ、太陽光発電関連の機器販売など、環境関連分野を中心に、人や社会の持つ様々な課題の解決のためのビジネスを行っています。」
■自治体の要望から誕生した ごみ分別アプリを作る「ごみスケ」
ごみ分別アプリ構築サービス「ごみスケ」は、「ごみ分別」に関する機能をパッケージ化して、自治体ごとのアプリを作ることが目的のサービスだ。
なお、同じサービスを利用して構築しても、それぞれのアプリのリリース元は各市区町村となり、名称もアプリごとに異なる。そのため、スマートフォンのアプリストアで「ごみスケ」と検索しても、該当するアプリは表示されない。あくまでも、各自治体のオリジナルアプリをリリースすることを支援するサービスなのである。
「ごみスケ」を利用することで、
・ごみ収集日のカレンダー
・ごみ出し忘れ防止アラート機能
・ごみの出し方を検索できる辞典機能
といった、日々の生活で発生するごみに関する不便を解決するためのアプリを簡単に構築できる。
ちなみに「ごみスケ」のネーミングは、「ごみのスケジュール管理」に由来する。
ごみ収集日のカレンダーや、ごみ出し忘れ防止アラート機能などを備える「ごみ分別アプリ」
菊地絵里子氏
「2013年頃に、有料化業務支援におけるお客さまである東京都多摩地区の西東京市さんから、
『ごみの分別カレンダーを作成しているが、なかなか周知徹底が難しい。分別徹底するにあたって、もっと市民さんに使いやすい別の周知媒体はないか』というご相談をいただきました。
社内のシステム開発部署においても、ちょうど新しい分野の商材開発をしていきたいと考えていたタイミングだったため、実証実験のかたちでごみのスケジュール管理アプリの開発がスタートしました。」
ごみスケでは住民が住んでいるエリアを選択することで、そのエリアのごみ捨てカレンダーを見ることができ、またごみの分別も調べることができる。ごみの分別ルールは自治体毎に異なっているが、その詳細を事典のような冊子で配布している自治体は限られている。
したがって、ごみの分別がわからないときには自治体に問い合わせることになるため、年末の大掃除時期などは入電本数が非常に多くなり、苦労している自治体も少なくない。
菊地絵里子氏
「細かいことですが、ごみの分別アプリでは、ふりがなをいくつか設定できるので、
たとえば、『プチプチ』とか、『緩衝材』とか、
どちらでも調べられるようになっています。
些細なことですが、紙媒体からアプリにすることで便利になったところだと思います。
また、ごみの出し忘れ防止に、ごみ出し日の前日と当日にアラートを設定できるといったことなどもアプリならではの機能であり、ユーザーからのレビューでも“便利”というご評価をいただいています。
一方、自治体のご担当者様からは、テンプレート機能やプッシュ通知機能が好評ですね。アプリは出して終わりではなく、出してから如何に活用していくかが重要だと考えています。」
ごみスケの特徴の一つが、リリース後もメニュー構成を随時変更するなど、時々の要請に応じて改善していける点だ。CMS上からMAPやPDFなどのテンプレートを自由に組み合わせることで情報の追加が可能となる。
もうひとつ、アプリならではの機能としてお知らせ配信も活用されている。
たとえば、以下のような通知が各自治体から配信されている。
・雪ですが、収集はいつもどおりに行います
・年末年始の収集はイレギュラーになるので、気をつけてください
・ガス缶など捨て方によっては火災の原因になります。缶の出し方を確認してください。
このように、自治体のごみ収集の情報を、アプリから知ることができるのだ。
■自治体に向けた事業は、民間とは異なる難しさがある
菊地絵里子氏
「自治体向けの仕事の特徴としては、成約までのスケジュール感があげられます。
3月末の時点で次年度の予算項目と額をすべて組み立てますが、その予算範囲でしか次年度は物の購入ができません。
今ご提案して採用の意向が決まっても、実施は来年度以降というのが基本のスケジュールになります。なので民間の仕事と比べて、提案の時期などで違いがありますね。」
とくにごみの有料化の業務受託などは、そもそも自治体の有料化制度実施が前提となるため、業者選定の以前に選挙結果や議会決定の結果にも影響を受け、自治体によっては、提案してから10年越しで実現するケースもあるそう。
菊地絵里子氏
「また、民間でいうところの口座開設に似た仕組みで、入札参加資格申請という手続きがあります。
自治体がサービスや商品を購買するときには、業者名簿に載っている会社からしか購入ができません。
業者名簿に載るために、決算書や業績、社員数、別の自治体との過去の実績などの情報提出が必要になります。
弊社は全国の自治体とお付き合いがあり、広く登録をしているので、何か案件があったときにはすぐに参加することができますが、この登録作業は自治体ごとに書式も異なり、手続きは想像を絶するぐらいに手間がかかります。」
自治体のアプリだからこそ、民間のアプリと違うところもありそうだ。
菊地絵里子氏
「自治体が配信するアプリには、原則広告がありません。特定の民間企業に偏った利益を出すことができないためです。」
自治体ならではのアプリになっているようだ。
■「ごみ分別アプリ」からの広がり
ごみ分別アプリが広がる中で、新たな展開が生まれていったという。
「自治体向けのアプリ開発を行うに当たり、一つのアプリに複数の自治体が参加するプラットフォーム型という選択肢もありました。ですが弊社は『自治体専用のアプリ』という打ち出しをしています。」
この「専用アプリである」という特徴が、その後の大きな発展に繋がった。自治体ごとの要望に応え個別に改修が可能であることにより、様々な要望が出てくることになったのだ。
菊地絵里子氏
「ごみスケの紹介をしている中で、
『住民さんに情報発信したいのは、ごみの分野だけじゃない』
と話が広がってきました。
『子育てや防災に関しても能動的な発信ツールが欲しい。』
ということから、今は広報窓口とか、企画政策課とか、全自治体業務に関わる部署からもご相談をいただいています。」
こうして、ごみだけでなく自治体全体で利用可能な全庁型アプリ構築サービス「パーズ」が開発されるに至った。
「パーズ」では、「ごみスケ」の持っていたお知らせ機能を拡充し、「ユーザーの属性に絞り込んだ配信」ができるようになった。またお知らせだけでなく、イベント情報の配信にも対応しており、カレンダー形式で年間イベントを見せる形をとっている。イベント情報はスマホ端末内のカレンダーに転記できるようになっており、アプリで配信した情報を日頃使い慣れたツールで活用してもらうように設計した。
複数部署での利用を想定し、汎用性の高いテンプレートやメニュー管理CMSを整備する一方で、ごみ分野に加え、子育て支援分野などに向けても専用機能をオプションとして整備した。予防接種の受診状況の管理などができるという。
菊地絵里子氏
「子育ての部署からもご意見をいただいて、子どもの予防接種の受診状況や推奨スケジュールなどを確認できる機能をつけました。
子育てアプリ分野は民間が配信するものも多く競合の多い分野ですが
弊社としては、自治体の公式アプリだからこそできることに重点を置き、自治体からの公式な情報提供に活用いただけるものを目指しています。」
自治体の配信するアプリの多様化が進み、ひとつの自治体が複数アプリを配信する流れの中、あらためてひとつのアプリに集約したいというニーズもあり全庁統合型のアプリは少しずつ増えてきているそうだ。
菊地絵里子氏
「ごみ分別アプリからの広がりは全庁統合型へ対象範囲を広げるだけでなく、情報発信ツールとしてのアプリから、双方向コミュニケーションツールとしてのアプリへと役割自体も広がってきています。
きっかけは、崖崩れの懸念のある箇所を事前に把握したいという自治体からの要望でした。パトロールに限界がある中、住民からの情報通報をうけるための機能を実装しました。
スマホであれば、発見場所の位置情報を取得したり、写真を撮影して添付したりすることができますので、正確な情報提供を受けることができます。」
不法投棄などを通報するアプリ画面
この通報機能は、今ではさまざまな用途で活用されている。
・ごみの不法投棄
・道路の危険箇所
・公園の遊具の破損
・放置自転車
他にもまだ事例はないが、桜の見どころ投稿など、観光用途への展開の相談なども入ってきている。
菊地絵里子氏
「さらにこの通報機能は、通報された内容を住民に公開する形でも活用され始めています。」
G-Placeでは、自治体が住民から問題点を上げてもらい、行政の対応状況を公開しながら解決していくという「Perze Share」というサービスを展開している。
「Perze Share」では、投稿された内容を地図上に落とし、対応進捗に従いピンの色が変わるように設計されている。住民は投稿内容に対して対応がどのような状況にあるか確認することができる仕組みだ。
ごみ分別アプリの中には、自治体のイベント情報を通知する機能を備えているものもある
自治体の公式アプリを維持し続けることには苦労もあるそう。
菊地絵里子氏
「Android版もiOS版も、バージョンアップしたら、それに合わせて改修しています。
なるべくバージョン固有の機能を使わないようにしていますが、それでも想定外のところに変更が加わり、これまでと表示が違ってしまうなどの事象が起きることもあります。
そういう場合には一律修正を加えています。
自治体の正式アプリとして安定稼働し続けることを最優先に考えています。」
自治体用アプリとしては、提供して終わりではなく、継続したサポート体制も重要ということなのだ。
奈良市のごみ分別アプリには「ごみの分別ゲーム」が搭載されている
こうした取り組みの結果、ごみ分別アプリだけでなく、自治体と住民を繋ぐアプリ、サービスへと広がっているという。
菊地絵里子氏
「商品を提案する中で、様々な課題やご要望を聞くことができるのはとてもやりがいを感じる点です。災害が起きると災害対策の機能のご要望が出ますし、ごみ処理の制度改正の際には専用メニューの追加が必要となったりします。
他にも公式ホームページのRSSによる情報配信と連携したり、外国語版を出したりと個別の事情に合わせ多様なアプリをご提供しています。自治体の抱える課題は広範に渡ります。自治体を支援することで地域の支援につながればと考えています。」
■新規事業を作ることが企業理念
アプリひとつとっても、顧客である自治体の要望にこたえる形でサービスを広げてきた様子が分かる。これは株式会社G-Placeの企業理念にも深く関わっているようだ。
菊地絵里子氏
「弊社の企業理念は、“人が育ち、集まり、あらたな事業を生み出していくための場所であること”。このG-Placeという場を活用して世の中のためになる事業を生み出すことが社員には求められています。」
現在はアプリという形にもとらわれず、取り扱い製品の幅を広げている。
その一つがAIチャットボット「スグレス」だ。「スグレス」は株式会社ALBERTの開発するAIチャットボット構築サービスだ。
アプリも広報の部署に提案することが多いが、ここ数年で情報発信ツールの選択肢も増え、アプリ、LINE、チャットボットなど広く比較検討する自治体が増えてきた。
「スグレス」を使うことで口語の質問にも回答でき、その内容を確認すれば住民の隠れたニーズを把握することも可能だ。AIによる自然言語処理により、シンプルなQAリストを用意するだけで一定の回答精度が出せることが特徴だ。
菊地絵里子氏
「行政×テクノロジーでガブテックという言葉が聞かれるようになってきましたが、自治体もテクノロジーを活用していくことに非常に積極的になってきています。
他方、人口減少や、相次ぐ災害、自治体職員数の減少など、自治体の抱える課題は多く、行政業務の効率化や住民コミュニケーションの見直しなどの必要性は高まっています。
私たちは創業以来、自治体の業務支援を行ってきましたので、今、そして今後出てくる課題に対しても、自治体と一緒に向き合っていきたいと考えています」
・ごみスケ
導入している自治体は100以上。ごみに関する問題を解決するための無料アプリを構築するサービス。
・ごみサク
導入している自治体は80以上。ごみ分別辞典Webサイトを無料で構築できるサービス
・Perze Share(パーズ シェア)
自治体独自のアプリを制作できる「PEARZE(パーズ)」に組み込み可能なシェアリングエコノミーアプリ。観光地やおすすめスポットのシェアや、道路や公園などの破損箇所の発見・早期対応、放置自転車や不法投棄などの課題解決に役立てることができる
・スグレス
住民からの問い合わせに自動応答するAIチャットボット。Web上やLINE上で活用でき、業務効率化を図れるサービス
・G-Place
執筆:ITライフハック 関口哲司
撮影:2106bpm、関口哲司
ごみの分別を支援するアプリなのだが、自治体ごとに仕様がカスタマイズされ、自治体のサービス向上に役立っているという。
「ごみ分別アプリ」とは、一体どんなものなのか?
このアプリを提供している株式会社G-Place(ジープレイス)では、アプリのリリース件数100自治体、累計ダウンロード数100万ダウンロードをこの夏には超える見込みだ。同社を訪問してみた。
■幅広い環境関連事業に取り組んでいる企業
株式会社G-Placeは、創業以来50年にわたり自治体の廃棄物行政の業務支援に取り組んでいる企業だ。自治体からの様々な要望に応えるため、
・ごみ処理の有料化の導入支援
・有料化関連業務のアウトソーシング
・ごみ処理の流通や収納管理システムの構築
などのサポートも行っている。
そんなG-Placeが開発したのが、
ごみ分別アプリ構築サービス「ごみスケ」だ。
なお、株式会社G-Placeは、2019年5月16日付で創業時の「日本グリーンパックス株式会社」から社名を変更した。社名変更は1968年の創業以来、初の試みとなる。
今回、ごみ分別アプリについて取材させていただいたのは、
株式会社G-Place 東京支社 公共イノベーション事業部 営業課 菊地絵里子氏。
株式会社G-Place 東京支社 公共イノベーション事業部 営業課 菊地絵里子氏
菊地絵里子氏
「私どもの会社は、今から約50年前に京都府で創業いたしました。
1970年に開催された大阪万博で、会場のごみ収集に利用するごみ袋を採用いただいたことがきっかけとなり、全国自治体様のごみ収集やリサイクル促進の支援をする、という仕事が一つの軸になってます。
例えば、指定のごみ袋を導入して実施するごみの有料化事業では、注文受付センター、指定袋の流通、公金徴収、システム開発など北海道から九州まで、50件程の自治体様とお取引をさせていただいています。
また、生分解性の高い洗剤や、オーガニック認証を取っているコスメ、太陽光発電関連の機器販売など、環境関連分野を中心に、人や社会の持つ様々な課題の解決のためのビジネスを行っています。」
■自治体の要望から誕生した ごみ分別アプリを作る「ごみスケ」
ごみ分別アプリ構築サービス「ごみスケ」は、「ごみ分別」に関する機能をパッケージ化して、自治体ごとのアプリを作ることが目的のサービスだ。
なお、同じサービスを利用して構築しても、それぞれのアプリのリリース元は各市区町村となり、名称もアプリごとに異なる。そのため、スマートフォンのアプリストアで「ごみスケ」と検索しても、該当するアプリは表示されない。あくまでも、各自治体のオリジナルアプリをリリースすることを支援するサービスなのである。
「ごみスケ」を利用することで、
・ごみ収集日のカレンダー
・ごみ出し忘れ防止アラート機能
・ごみの出し方を検索できる辞典機能
といった、日々の生活で発生するごみに関する不便を解決するためのアプリを簡単に構築できる。
ちなみに「ごみスケ」のネーミングは、「ごみのスケジュール管理」に由来する。
ごみ収集日のカレンダーや、ごみ出し忘れ防止アラート機能などを備える「ごみ分別アプリ」
菊地絵里子氏
「2013年頃に、有料化業務支援におけるお客さまである東京都多摩地区の西東京市さんから、
『ごみの分別カレンダーを作成しているが、なかなか周知徹底が難しい。分別徹底するにあたって、もっと市民さんに使いやすい別の周知媒体はないか』というご相談をいただきました。
社内のシステム開発部署においても、ちょうど新しい分野の商材開発をしていきたいと考えていたタイミングだったため、実証実験のかたちでごみのスケジュール管理アプリの開発がスタートしました。」
ごみスケでは住民が住んでいるエリアを選択することで、そのエリアのごみ捨てカレンダーを見ることができ、またごみの分別も調べることができる。ごみの分別ルールは自治体毎に異なっているが、その詳細を事典のような冊子で配布している自治体は限られている。
したがって、ごみの分別がわからないときには自治体に問い合わせることになるため、年末の大掃除時期などは入電本数が非常に多くなり、苦労している自治体も少なくない。
菊地絵里子氏
「細かいことですが、ごみの分別アプリでは、ふりがなをいくつか設定できるので、
たとえば、『プチプチ』とか、『緩衝材』とか、
どちらでも調べられるようになっています。
些細なことですが、紙媒体からアプリにすることで便利になったところだと思います。
また、ごみの出し忘れ防止に、ごみ出し日の前日と当日にアラートを設定できるといったことなどもアプリならではの機能であり、ユーザーからのレビューでも“便利”というご評価をいただいています。
一方、自治体のご担当者様からは、テンプレート機能やプッシュ通知機能が好評ですね。アプリは出して終わりではなく、出してから如何に活用していくかが重要だと考えています。」
ごみスケの特徴の一つが、リリース後もメニュー構成を随時変更するなど、時々の要請に応じて改善していける点だ。CMS上からMAPやPDFなどのテンプレートを自由に組み合わせることで情報の追加が可能となる。
もうひとつ、アプリならではの機能としてお知らせ配信も活用されている。
たとえば、以下のような通知が各自治体から配信されている。
・雪ですが、収集はいつもどおりに行います
・年末年始の収集はイレギュラーになるので、気をつけてください
・ガス缶など捨て方によっては火災の原因になります。缶の出し方を確認してください。
このように、自治体のごみ収集の情報を、アプリから知ることができるのだ。
■自治体に向けた事業は、民間とは異なる難しさがある
菊地絵里子氏
「自治体向けの仕事の特徴としては、成約までのスケジュール感があげられます。
3月末の時点で次年度の予算項目と額をすべて組み立てますが、その予算範囲でしか次年度は物の購入ができません。
今ご提案して採用の意向が決まっても、実施は来年度以降というのが基本のスケジュールになります。なので民間の仕事と比べて、提案の時期などで違いがありますね。」
とくにごみの有料化の業務受託などは、そもそも自治体の有料化制度実施が前提となるため、業者選定の以前に選挙結果や議会決定の結果にも影響を受け、自治体によっては、提案してから10年越しで実現するケースもあるそう。
菊地絵里子氏
「また、民間でいうところの口座開設に似た仕組みで、入札参加資格申請という手続きがあります。
自治体がサービスや商品を購買するときには、業者名簿に載っている会社からしか購入ができません。
業者名簿に載るために、決算書や業績、社員数、別の自治体との過去の実績などの情報提出が必要になります。
弊社は全国の自治体とお付き合いがあり、広く登録をしているので、何か案件があったときにはすぐに参加することができますが、この登録作業は自治体ごとに書式も異なり、手続きは想像を絶するぐらいに手間がかかります。」
自治体のアプリだからこそ、民間のアプリと違うところもありそうだ。
菊地絵里子氏
「自治体が配信するアプリには、原則広告がありません。特定の民間企業に偏った利益を出すことができないためです。」
自治体ならではのアプリになっているようだ。
■「ごみ分別アプリ」からの広がり
ごみ分別アプリが広がる中で、新たな展開が生まれていったという。
「自治体向けのアプリ開発を行うに当たり、一つのアプリに複数の自治体が参加するプラットフォーム型という選択肢もありました。ですが弊社は『自治体専用のアプリ』という打ち出しをしています。」
この「専用アプリである」という特徴が、その後の大きな発展に繋がった。自治体ごとの要望に応え個別に改修が可能であることにより、様々な要望が出てくることになったのだ。
菊地絵里子氏
「ごみスケの紹介をしている中で、
『住民さんに情報発信したいのは、ごみの分野だけじゃない』
と話が広がってきました。
『子育てや防災に関しても能動的な発信ツールが欲しい。』
ということから、今は広報窓口とか、企画政策課とか、全自治体業務に関わる部署からもご相談をいただいています。」
こうして、ごみだけでなく自治体全体で利用可能な全庁型アプリ構築サービス「パーズ」が開発されるに至った。
「パーズ」では、「ごみスケ」の持っていたお知らせ機能を拡充し、「ユーザーの属性に絞り込んだ配信」ができるようになった。またお知らせだけでなく、イベント情報の配信にも対応しており、カレンダー形式で年間イベントを見せる形をとっている。イベント情報はスマホ端末内のカレンダーに転記できるようになっており、アプリで配信した情報を日頃使い慣れたツールで活用してもらうように設計した。
複数部署での利用を想定し、汎用性の高いテンプレートやメニュー管理CMSを整備する一方で、ごみ分野に加え、子育て支援分野などに向けても専用機能をオプションとして整備した。予防接種の受診状況の管理などができるという。
菊地絵里子氏
「子育ての部署からもご意見をいただいて、子どもの予防接種の受診状況や推奨スケジュールなどを確認できる機能をつけました。
子育てアプリ分野は民間が配信するものも多く競合の多い分野ですが
弊社としては、自治体の公式アプリだからこそできることに重点を置き、自治体からの公式な情報提供に活用いただけるものを目指しています。」
自治体の配信するアプリの多様化が進み、ひとつの自治体が複数アプリを配信する流れの中、あらためてひとつのアプリに集約したいというニーズもあり全庁統合型のアプリは少しずつ増えてきているそうだ。
菊地絵里子氏
「ごみ分別アプリからの広がりは全庁統合型へ対象範囲を広げるだけでなく、情報発信ツールとしてのアプリから、双方向コミュニケーションツールとしてのアプリへと役割自体も広がってきています。
きっかけは、崖崩れの懸念のある箇所を事前に把握したいという自治体からの要望でした。パトロールに限界がある中、住民からの情報通報をうけるための機能を実装しました。
スマホであれば、発見場所の位置情報を取得したり、写真を撮影して添付したりすることができますので、正確な情報提供を受けることができます。」
不法投棄などを通報するアプリ画面
この通報機能は、今ではさまざまな用途で活用されている。
・ごみの不法投棄
・道路の危険箇所
・公園の遊具の破損
・放置自転車
他にもまだ事例はないが、桜の見どころ投稿など、観光用途への展開の相談なども入ってきている。
菊地絵里子氏
「さらにこの通報機能は、通報された内容を住民に公開する形でも活用され始めています。」
G-Placeでは、自治体が住民から問題点を上げてもらい、行政の対応状況を公開しながら解決していくという「Perze Share」というサービスを展開している。
「Perze Share」では、投稿された内容を地図上に落とし、対応進捗に従いピンの色が変わるように設計されている。住民は投稿内容に対して対応がどのような状況にあるか確認することができる仕組みだ。
ごみ分別アプリの中には、自治体のイベント情報を通知する機能を備えているものもある
自治体の公式アプリを維持し続けることには苦労もあるそう。
菊地絵里子氏
「Android版もiOS版も、バージョンアップしたら、それに合わせて改修しています。
なるべくバージョン固有の機能を使わないようにしていますが、それでも想定外のところに変更が加わり、これまでと表示が違ってしまうなどの事象が起きることもあります。
そういう場合には一律修正を加えています。
自治体の正式アプリとして安定稼働し続けることを最優先に考えています。」
自治体用アプリとしては、提供して終わりではなく、継続したサポート体制も重要ということなのだ。
奈良市のごみ分別アプリには「ごみの分別ゲーム」が搭載されている
こうした取り組みの結果、ごみ分別アプリだけでなく、自治体と住民を繋ぐアプリ、サービスへと広がっているという。
菊地絵里子氏
「商品を提案する中で、様々な課題やご要望を聞くことができるのはとてもやりがいを感じる点です。災害が起きると災害対策の機能のご要望が出ますし、ごみ処理の制度改正の際には専用メニューの追加が必要となったりします。
他にも公式ホームページのRSSによる情報配信と連携したり、外国語版を出したりと個別の事情に合わせ多様なアプリをご提供しています。自治体の抱える課題は広範に渡ります。自治体を支援することで地域の支援につながればと考えています。」
■新規事業を作ることが企業理念
アプリひとつとっても、顧客である自治体の要望にこたえる形でサービスを広げてきた様子が分かる。これは株式会社G-Placeの企業理念にも深く関わっているようだ。
菊地絵里子氏
「弊社の企業理念は、“人が育ち、集まり、あらたな事業を生み出していくための場所であること”。このG-Placeという場を活用して世の中のためになる事業を生み出すことが社員には求められています。」
現在はアプリという形にもとらわれず、取り扱い製品の幅を広げている。
その一つがAIチャットボット「スグレス」だ。「スグレス」は株式会社ALBERTの開発するAIチャットボット構築サービスだ。
アプリも広報の部署に提案することが多いが、ここ数年で情報発信ツールの選択肢も増え、アプリ、LINE、チャットボットなど広く比較検討する自治体が増えてきた。
「スグレス」を使うことで口語の質問にも回答でき、その内容を確認すれば住民の隠れたニーズを把握することも可能だ。AIによる自然言語処理により、シンプルなQAリストを用意するだけで一定の回答精度が出せることが特徴だ。
菊地絵里子氏
「行政×テクノロジーでガブテックという言葉が聞かれるようになってきましたが、自治体もテクノロジーを活用していくことに非常に積極的になってきています。
他方、人口減少や、相次ぐ災害、自治体職員数の減少など、自治体の抱える課題は多く、行政業務の効率化や住民コミュニケーションの見直しなどの必要性は高まっています。
私たちは創業以来、自治体の業務支援を行ってきましたので、今、そして今後出てくる課題に対しても、自治体と一緒に向き合っていきたいと考えています」
・ごみスケ
導入している自治体は100以上。ごみに関する問題を解決するための無料アプリを構築するサービス。
・ごみサク
導入している自治体は80以上。ごみ分別辞典Webサイトを無料で構築できるサービス
・Perze Share(パーズ シェア)
自治体独自のアプリを制作できる「PEARZE(パーズ)」に組み込み可能なシェアリングエコノミーアプリ。観光地やおすすめスポットのシェアや、道路や公園などの破損箇所の発見・早期対応、放置自転車や不法投棄などの課題解決に役立てることができる
・スグレス
住民からの問い合わせに自動応答するAIチャットボット。Web上やLINE上で活用でき、業務効率化を図れるサービス
・G-Place
執筆:ITライフハック 関口哲司
撮影:2106bpm、関口哲司