「凡庸なサイドハーフ」が大変身。プレミア屈指のSBが生まれるまで

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文 足立真俊

プレミアに彗星のごとく現れたサイドバックの新鋭

 タックル数129回、タックル成功数90回、インターセプト数84回--。

 今季を終えたプレミアリーグでそれぞれDF最多となる数字を記録したのは、クリスタル・パレスに所属するアーロン・ワン・ビサカだ。彗星のごとく現れた21歳の若手サイドバックは、「蜘蛛」のように長いリーチで獲物に襲いかかり、パレスの右サイドを封鎖。瞬く間にエースのウィルフリード・ザハと肩を並べるチームの顔となった。

 右サイドバックとしてスターダムを駆け上がるワン・ビサカだが、パレス公式のドキュメンタリーで意外な事実が明かされている。幼少時にはフォワード、ユース時代にはサイドハーフとしてプレーしていたため、トップチームで練習するまではサイドバックでのプレー経験が一切なかったというのだ。

 そんな彼をサイドバックに大抜擢したのが、当時トップチームでコーチを務めていたケビン・キーンだった。毎週木曜日に10対10の練習をすることが多かったトップチームは、頭数を合わせるためにU-23から数人の選手を練習参加させていた。ある木曜日、右サイドバックを務められる選手を探していたキーンは、「右サイドハーフとしてはこれといって抜きんでた長所もない凡庸な選手」と評しながらも目をつけていたワン・ビサカを呼ぶことを決断した。

「『アーロンを呼んでみよう。トップチーム相手に右サイドバックでプレーさせてみたい』と声を上げてみたら、彼がやってきた。『僕がサイドバックだって?』とでも言いたげだったね。最初はぎこちなかったよ」

「彼は完璧なアスリートだね。非常に素早いし、十分な瞬発力と持久力を備えているから、文句のつけようがない」

初挑戦でいきなりザハを完封

 その翌週、いきなりトップチームでザハと対峙することになったワン・ビサカ。そこでエースは衝撃のプレーを目の当たりにしたという。

「僕への対応のうまさに度肝を抜かれたよ。正直、今まで対峙してきた中でまともなサイドバックは数人に限られるけど、彼はそのうちの1人に入るね。抜いても、いつも粘り強くついてきて鋭いタックルを繰り出してくるんだ」

「どうやって右サイドハーフから右サイドバックに大化けしたのか見当もつかないけどね。誰にも分からないよ(笑)。彼は守備が抜群にうまいからね。右サイドバックは彼の天職だと思うよ」

 初挑戦のサイドバックでいきなりエースを完封した「凡庸なサイドハーフ」。期待が確信に変わったキーンは、これを皮切りに「サイドバック改造計画」を開始した。毎週木曜日にワン・ビサカをトップチームの練習に参加させ、ザハに次ぐパレス屈指のドリブラー、アンドロス・タウンゼントとも対峙させながら右サイドバックとして育て上げていったのだ。

 当初はコンバートに懐疑的だったU-23の監督も、この隠れた才能に目をつむるわけにはいかなかった。じきにワン・ビサカは、トップチームに続いてU-23でもサイドバックを務めることになっていった。

 着実に成長していった「秘密兵器」は、ついに今季トップチームのレギュラーを掴みとって大ブレイク。その評価はうなぎ上りで、マンチェスター・ユナイテッドを始めとする数々のビッククラブが熱視線を注いでいるほどだ。「凡庸なサイドハーフ」から「プレミアリーグ屈指のサイドバック」へと大変身を遂げたワン・ビサカ。ビッククラブの争奪戦が予想される今夏の動向から目が離せない。

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Photos: Getty Images