背中に「お皿」が載ったカタチの飛行機E-2C。戦闘機のような戦闘を行う航空機ではありませんが、E-2Cの警戒監視能力は、現代戦には欠かせないものといわれています。どんな飛行機なのか、搭乗する現役自衛官に話を聞きました。

E-2Cが飛ぶ理由、それは地球が丸いから

 航空自衛隊の那覇基地(沖縄県)にはE-2C「ホークアイ」早期警戒機(AEW)と呼ばれる、一風変わった外見をした自衛隊機が配備されています。背中に「お皿」を搭載した飛行機、といえば、ピンとくる人も少なくないでしょう。

E-2C「ホークアイ」早期警戒機。距離にして最大2550kmを飛び続け、日本の上空を監視する(写真出典:航空自衛隊)。

 沖縄とその周辺の防空を担う「南西航空混成団」の司令、荒木淳一空将(取材当時。「荒」は正しくは「ボウ」の部分が「トツ」)をして「彼らがいないと我々は仕事にならない。我々の任務には欠かせない存在」とまで言わしめるこのE-2Cは、一体どのような飛行機なのでしょうか。

 E-2Cの背中に搭載された「お皿」は、正式には「ロートドーム」と呼ばれる繊維強化プラスチック製のカバーであり、その内部にはレーダーのアンテナが格納されています。そしてロートドームごとアンテナが回転することによって、E-2Cは自機の周囲360度、距離にして数百kmの空域を監視することができます。

 これについて、那覇基地で同機を運用する第603飛行隊の隊長、小池裕晃2等空佐に話を聞きました。

「E-2Cがなぜ必要かといいますと、それは『地球は丸い』ことに理由があります。地上に設置されたレーダーサイトからですと、遠くを低く飛んでいる飛行機はどうしても地球の丸みによって、水平線の下に隠れて見えないのです。そこでレーダーを高いところに持っていき、そうした遠くの低く飛んでいる飛行機を見つけ出すことが我々の最大の役割になります」(第603飛行隊長 小池裕晃2佐)

 水平線までの距離は意外に短く、目の高さ150cmの人が海岸線(海抜0m)に立ち遠くの海を望んだ場合、わずか4.6kmでしかありません。それ以上の距離ではどんなに高性能な望遠鏡やレーダーを使っても、海面ギリギリに存在する物体を見つけることはできません。しかし高度9000mまで上がると水平線は359km先になり、より遠くまで見通すことができます。この“視界の広さ”を実現するための飛行機がE-2Cなのです。

ときには通信(データリンク)の中継機として

 E-2Cは飛行機を探すだけではなく、艦船と艦船、ないし地上との通信の中継を行うことも重要な役割です。また、F-15J戦闘機やイージス艦などと探知した情報を互いにやりとりしあうデータリンクも有しており、E-2Cが在空することで、より広範囲におけるデータリンクの連接が可能となります。

 加えて、戦闘機は基本的に地上の「DC(防空指令所)」で勤務する管制官から誘導を受けて飛行しますが、何らかの状況によってこれができない場合は、戦闘機の誘導を引き継ぎます。

「E-2Cの乗員は、パイロットが機長と副機長の2人、それに3人の管制官が搭乗しています。管制官のうち、ひとりはシステムやコンピュータ、レーダーを管理する者、もうひとりは戦闘機と地上のDCを調整しながらどこへ戦闘機を誘導するか指揮統制を行う者、そして最後に戦闘機の管制を直接行う者です。元々、システムが複雑なのでかなり自動化されており、なるべく人を介在しなくてもできるようになってはおりますが、大型のE-767『AWACS(早期警戒管制機)』で監視するのと同じボリュームの仕事を3人でやらなくてはならないので、ひとり当たりの労力は少し高くなっています」(第603飛行隊長 小池裕晃2佐)

E-2C早期警戒機(手前)とE-767早期警戒管制機(奥)。E-767は大型であり、E-2Cと比較し管制能力などに優れる(関 賢太郎撮影)。

 またE-2Cには、あまり知られていない装備として、「ESM(電子戦支援装置)」が搭載されています。「ESM」とは、空中を飛び交う電波を探知しその情報を記録するためのシステムです。

もし、本格的な武力事態に至ったら… 無くてはならない「ホークアイ」

 E-2Cは空域を警戒監視するという任務を行うことから、その飛行は通常数時間におよぶものとなります。そのあいだ、食事は弁当を持参し任務の合間にとることができますが、機内に一般的な旅客機のようなトイレはないといいます。

「トイレはありますがオマルのようなもので、通常は路上での渋滞時に使うような市販の携帯用簡易トイレを使用します」(第603飛行隊長 小池裕晃2佐)

 E-2Cは表立って言えない、もうひとつの重大な役割があります。それは本格的な武力事態に至った場合の“目”としての役割です。飛行機やレーダーが登場した20世紀以降の戦争において、真っ先に攻撃を受けるのは地上のレーダーサイトであり、まず相手の目潰しをすることが定石になっています。つまり本格的な武力事態に至った場合、レーダーサイトは使えなくなる可能性が高く、空中の警戒はE-2Cや浜松基地に所在するE-767「AWACS」が頼りとなります。

 E-2Cの愛称「ホークアイ」は、高い視力を持つことで知られる「タカの目」を意味し、その機体には、闇夜において超音波で獲物を探すコウモリの部隊章が描かれています。「ホークアイ」の優れた“目と耳(センサー)”は、日本の空の安全と防衛において、まさに無くてはならないものなのです。

【画像】まさに「ホークアイ」 E-2Cを運用する那覇基地・第603飛行隊のマーク

E-2C「ホークアイ」を運用する航空自衛隊・那覇基地に所属する警戒航空隊第603飛行隊のマーク。眼光鋭いタカが描かれている(画像出典:航空自衛隊)。