私の人生は、ドラマなしには語れない。

常にドラマチックな人生を送り、周囲をゴシップで沸かせてきた由香(ユカ)

32歳バツイチにも関わらず、童顔の可愛い顔と自由奔放な振る舞いで、「モテ女」や「悪女」の異名を欲しいままにしている。

港区の男たちを手玉に取るのも、朝飯前。

「SATCみたいに、都会のお洒落や仕事を楽しみたい。素敵なメンズと、劇的に恋に落ちたい」

そんな戯言を口にする由香の秘密は、常にドラマの中にある。




「崖っぷち結婚相談所」で話題をさらったモテ女・由香が登場!


「ふぅ。」

荷解きが終わり、ゆっくりと溜息をついた。

今日は記念すべき引っ越しの日であり、私は恵比寿から白金高輪に移ったのだ。

「由香さん、疲れましたよね。大丈夫ですか?お部屋はだいぶ整いましたね!」

由香を担当した不動産会社の結城くんが、可愛い笑顔を向けて言った。彼は今日、一日中私に付き合い、引っ越しの手伝いをしてくれた。

重たい本を運んでくれたり、テレビ台を組み立ててくれたり。結城くんはスーツの白いシャツを腕まくりして、額に汗をかいている。ジャニーズ風味の整った幼い顔立ちが、少し色気を帯びていた。

もちろん、私が手伝いを頼んだわけではない。まだ27歳の彼は、ピュアでお人好しで、私に淡い下心を抱いているのだ。

この品の良いマンションの部屋の家賃だって、25万円を18万円にまで落としてくれた。

「結城くん、お手伝いありがとう。出前でも取るから、一緒にどう?ここはUber EATSは使えるよね?」

「はい、使えます!ありがとうございます!!」

結城くんは、元気に答えた。

―可愛いな。

彼の喜ぶ笑顔を見ると、心がほっこりとした。年下にはあまり興味はないけど、ちょっとくらい味見してもいいかも知れない。

私はそんな不謹慎なことを考えながら、『バーガーマニア』をオーダーした。


新生活で、由香が何より楽しみにしていたことは...?


中途半端な男と遊ぶくらいなら、家で海外ドラマを観る方がずっと楽しい


結城くんが帰ったのは、夜の10時近くになってしまった。

日が暮れるにつれて段々と男の顔になっていく結城くんを眺めるのが面白くて、つい話し込んでしまったからだ。でも、彼が恐る恐る私の手に触れたとき、何の芸もないその行為に、急に気持ちがシラけた。

そもそも、何かさせてあげる気など、これっぽっちもなかったのだが。

まだダンボールが残る部屋は乱雑だが、私は新居が気に入った。広々としたリビングに高級感を与えてくれるカッシーナのソファと、フランク・ロイド・ライトのタリアセン。

どちらも、かつて新婚だった頃に、元夫が私の我儘に付き合い購入してくれたものだ。

結婚相手への気持ちが冷めてしまったことも、我慢できずに離婚したことも、どちらも後悔などしていない。

その都度都度で、私は精一杯自分に正直に生きてきただけであり、悪いことをしたとか、間違ったことをしたとも思っていない。

新しい部屋を見渡しながら、自分の現状を冷静に考えてみる。

私はバックオフィスだが外資金融に勤め、平均以上の収入があり、離婚時の財産分与でそれなりの額を手にした。

小さい頃からバレエを習っていたおかげで、体力や健康には自信があるし、30歳を過ぎても身体のたるみや老化は感じられない。

何より、バツイチになっても、男の人たちは相変わらず、私にとても優しかった。




新しい部屋で、テレビをつける。

新居を自分の城のように心地よく整えて、ゆっくりとドラマを観るのを、ずっと楽しみにしていた。中途半端な男と中途半端なデートをするくらいなら、海外ドラマを観るほうが、断然に有意義で至福の時を過ごせる。

周りの女たちは婚活に奮闘していたり、港区で激しくマウンティングし合ったり、恵比寿で男漁りに精を出したり、実に忙しそうだ。

嫌味ではなく、私はもう、そんな世界には飽きてしまった。

高校時代は慶応幼稚舎の御曹司と付き合い、大学時代はミスター東大の素敵な彼と、経営者のオジサンとの同時進行を楽しんだ。(自分でもかなり器用な時間を過ごしたと思う)

社会人になると、社内の上質な男の子たちが、より取り見取りだった。そして、若手の大御所と言われるような同業の男と結婚し、最終的にはすべて手放した。

「私は、退屈することが一番恐ろしい」

これはマリー・アントワネットの言葉だが、過不足なく満たされた女にとって一番の恐怖は、「退屈」することだと思う。

恋人も結婚も、いったん手に入れてしまうと、たちまち「刺激」から「退屈」へと早変わりした。

私は大昔のフランスの王妃に、大いに共感する。


引っ越し初夜。由香が夜のお供にピックアップしたのは...?


SATC好きな女がモテないなんて、嘘っぱち。嫌いな女なんて、どこにいる?


結城くんがテレビの配線や設定も上手く済ませてくれたので、テレビでアプリ画面を開くと私の大好きな3つのアプリがきちんと並んでいた。

「Amazon プライム・ビデオ」
「Netflix」
「Hulu」

今日は土曜日で、明日は特に予定は入れていない。

引っ越し初夜は、やはり大御所ドラマ「SEX and the CITY」を夜通しで観ることに決めた。

冒頭の曲が流れるだけで、自動的に心がウキウキと踊り始める。

SATC好きな女はモテないなんて風潮が強まっているが、そんなのは嘘っぱちだ。逆に、SATC嫌いな女なんて、一体どこにいるだろう?

私が思うに、そのモテない女というのは、SATCの「にわかファン」たちだと思う。所詮アジア人が付け焼き刃でキャリーのファッションやトークを真似たところで、それは「痛い女」になるだけだからだ。

本当の意味でこのドラマを理解している女は、美しく賢く強く、自分の弱さや痛さもちゃんと自覚していて、ゴージャスであるはずだ。

ちなみに私は、SATCの原作本を英文で読み込んだほど、コアなファンである。




このドラマがスタートしたのは、もう20年近くも前だ。なのに、なぜ私たちは、未だにあの4人に共感し、感情移入してしまうのだろう?

それはきっと、女のドロドロとした心情や重すぎて吐露できない悩みを、あれほどコミカルに明るく、かつオシャレに表現したドラマは、長いドラマ史をくまなく探してみても、他にないからだ。

そしてSATCの最大の魅力は、「女の友情」であると思う。

あの4人の生活や思考は基本的にどうしようもないが、ストーリーの中で「友情」だけは絶対に揺るがない。

They say nothing lasts forever; dreams change, trends come and go, but friendships never go out of style.


人は「永遠なんて存在しない」って言う。夢は変わるし、トレンドは移り変わる。でも、友情は決して古くなって廃れたりしないのよ。

しかし女は、本能的に知っている。男より仕事より、女の友情を存続させることが、人生で一番難しいことを。

大晦日の雪の日に、精神的に弱ったミランダの家にキャリーが駆けつけるシーンがある。あれは涙なしには観られなかった。

正直私には、SATCのように心の底までさらけ出せる親友はいない。いや、かつてはいた。

しかし、就職、結婚、出産と、女たちはアラサーで環境が変わるにつれて、お互いに少しずつ距離が出来ていく。

友情は変化を遂げ、気づけば疎遠になり、心は離れて行くのだ。悲しい現実だ。

それが分かっているからこそ、女たちは、環境の変化に一切動じずに友情を貫き最優先するあの4人組に、痛いくらいに感動する。

私が手にできない、たった一つのもの。

「女の友情」

このドラマは、私にそれを存分に与えてくれる。

次週12月25日日曜更新
震えるほど興奮する?CIAスパイドラマ「ホームランド」にハマる由香