中国で最も貧しい省から「世界抹茶の都」に…「本家」日本の技術・品種導入、生産量4年で6倍に
中国内陸部にある貴州省銅仁市は、抹茶の原料となるてん茶の栽培を拡大させている。
抹茶生産量は4年間で6倍超となり、農家の所得向上につなげるとともに、日本産に匹敵する高品質化に取り組む。「本家」の日本は海外で広まる模倣品を排除し、日本ブランドを保護する対策を講じている。(貴州省銅仁市 遠藤信葉、写真も)
「仕事が急増」
海抜1000メートルの高地、低緯度といった茶葉の栽培に適した条件がそろう銅仁市。健康志向の高まりやラテ、スイーツなど抹茶を使った嗜好(しこう)品人気による世界的な需要拡大を受け、市は2010年代半ば、「世界抹茶の都」を目指して生産拡大にかじを切った。
同市最大の抹茶製造業者は高品質な抹茶を生産するため、日本から専門家を招いた。技術を学び、日本品種を導入。増産体制を一気に整備した。欧米や日本への輸出に必要な残留農薬などの基準をクリアし、輸出量を拡大させた。
製茶関連の会社で働く女性(30)は「数年で抹茶の仕事が急速に増えた。欧米や日本からよく商談に来る」と明かした。
貧困対策
習近平(シージンピン)政権は15年、「20年までに農村の貧困人口を全てなくす」と表明した。貴州省は山岳と丘陵地に覆われ、最も貧しい省の一つとされる。打つ手が少ない中、付加価値の高い抹茶産業を貧困対策の一つに位置づけた。
銅仁市によると、21年に1万7000畝(約1100万平方メートル)だったてん茶の生産面積は、25年に8万5000畝(約5700万平方メートル)まで拡大。抹茶の生産量は400トンから2500トンに増えた。
25年に同市で生産された抹茶は日本を含む54の国・地域に輸出された。26年の生産量は5000トンを超える見込みで、同市だけで日本の24年の国内生産量(5336トン)に匹敵する量になったと主張する。
米調査会社グランドビューリサーチによると、世界の抹茶市場規模は拡大の一途をたどり、25年には推定50億7000万ドル(約8100億円)に上る。33年には88億6000万ドル(約1兆4200億円)に達するとも予想する。こうした抹茶ブームが後押しし、銅仁市政府はこれまでに約10万人の平均年収を約2500元(約5万9000円)増加させたとし、さらなる所得増加も見込んでいる。
屋号に「宇治」
中国茶葉流通協会幹部は昨年12月の講演で、「日本の抹茶は深い文化がある」と認めている。だが、日本の抹茶産業は、担い手不足や高齢化で急拡大する需要に生産が追いついていない。豊富な労働力を持つ中国は、このギャップを狙ってシェアを拡大させる。
日本が警戒するのは、日本産と誤信させる販売方法だ。5月上旬、広東省広州市であった商談会に出展した抹茶専門商社の屋号には、京都の宇治抹茶を連想させる「宇治」の文字があった。担当者によると、取り扱いは中国産で日本産はないという。
日本茶業中央会などによると、海外の模倣品を排除し、日本茶のブランド保護を図るため、同会は地域の特産品を国が保護する「地理的表示(GI)保護制度」に「日本茶」を申請した。登録されれば、海外でも不正使用の取り締まりが可能となる。
鈴木貞美・専務理事は「海外で日本茶ブランドを守ることに大きな意味がある。量と質を確保しながら日本茶の安定供給を図っていきたい」と話している。
◆てん茶(抹茶)=収穫前によしずなどで茶園を2〜3週間程度覆い、うまみが増した茶葉を蒸し、もまずに乾燥させて製造したもの。てん茶を茶臼などで微粉末状に製造したものが「抹茶」となる。日本の主要産地は鹿児島や京都、静岡など。
