2024年8月末にフジテレビを退社した元アナウンサーの渡邊渚さん(Instagramより)

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 2024年8月末にフジテレビを退社した元アナウンサー渡邊渚さん(29)。2020年の入社後、多くの人気番組を担当したが、2023年7月に体調不良を理由に休業を発表。退社後に、SNSでPTSD(心的外傷後ストレス障害)であったことを公表した。約1年の闘病期間を経て、再び前に踏み出し、NEWSポストセブンのエッセイ連載『ひたむきに咲く』も好評だ。そんな渡邊さんが、最近Xで話題になった痴漢に関する投稿について思うことや、サウジアラビアと日本の「女性専用車両」の違いについて綴ります。

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 先日、Xで「痴漢されたら安全ピンで刺す」というポストが話題になっていた。本来、公共交通機関は、誰もが安心して移動できる場所であるべきだ。にもかかわらず、日本では「安全ピンで自己防衛するべきか」を真剣に議論している。

残念ながら痴漢盗撮など、公共の場所や交通機関で相手の意に反して身体を触る、または卑わいな言動や性的な嫌がらせを行なう重大な性犯罪が、後を絶たない。

 痴漢をされても、怖くて動けなかったり、周囲に信じてもらえない不安や逆ギレや報復への恐怖で被害を申告できなかったり、声を上げたとしても証拠がない・示談金目当て・冤罪だと言われて、被害者が悪者にされることもある。痴漢犯が「被害者のスカートが短かったから」「被害者が抵抗しなかったから」と供述しているニュースを、これまで幾度となく見てきた。

 そんな現状から、安全ピンで刺すのは自己防衛のための手段だと思う人もいる。そもそも痴漢する人がいなくなれば安全ピンで自己防衛なんてしなくて済む話なのだが、痴漢をする側の人にとっては安全ピンがどうやらとっても怖いようで、賛否が分かれている。

痴漢は犯罪」「やめましょう」と言い続けても性犯罪が一向に減っていないならば、次なるアプローチをするべきではないかと思う。私は、終日、女性専用車両を導入してほしい、と切に願っている。

サウジアラビアの「男性のみが乗れる車両」と「女性と家族連れが乗る車両」

 以前、サウジアラビアのリヤドへ行った時のこと。サウジアラビアはイスラム教の教えが社会制度にも強く影響していて、見知らぬ男女が密着すること自体を避ける社会規範が存在する。そのため、電車(メトロ)は終日、男性のみが乗れるSingleという車両と、女性と家族連れが乗れるFamilyという車両に分かれている。

 日本の女性専用車両は痴漢対策が主な目的だが、サウジアラビアは宗教や文化的礼節とプライバシー確保のために、男女別の車両になっているのだ。

 実際、Family車両に乗ってみると、驚くほど快適だった。終日車両が分かれていることで、ラッシュの時間帯はもちろん、そうじゃない時も、知らない異性と密着することへの恐怖や緊張がなく、盗撮などの被害に遭う心配もない。移動がこんなにストレスなく、心穏やかに過ごせるのは初めてで、びっくりした。

 日本の満員電車のように、異性の汗が自分に付着することもないし(逆も然り)、またサウジアラビアは飲酒も禁止のため、酔っ払いや車内でアルコールを飲む人もいないため、絡まれることもない。まさに、安心安全な空間だった。

 あのサウジアラビアの電車を一度体験したら、これでいいじゃないか、分けることで被害もなくなるし、冤罪を恐れる必要もなくなるのだから、早く終日女性専用車両を導入してほしいと心の底から思った。

 サウジアラビアの価値観すべてに賛同しているわけではないが、「安心して移動できる空間」という点において、日本が学ぶべき部分は大いにあると感じた。

「減るもんじゃないんだから」

 現状、日本では朝の時間帯のみ女性専用車両が存在するが、痴漢の恐怖は朝だけではない。朝から異性に触りたい欲求や衝動が抑えられない人間は異常だが、そんな人は昼も夜も関係なく存在し、いつの時間帯も理性を働かせることができない。

 通勤ラッシュほど人が乗ってないのに、なぜか密着してくる人、カメラをバッグに忍ばせてスカートの中を撮ろうとしてくる人など、危険人物は24時間ずっといて、その危険に終日晒され続けている。

 ただ、女性専用車両の話になると、急に論理的思考を失ったかように反発する人間が一定数現われる。女性だけ優遇されている、男性全体を加害者扱いしている、と。

 だが、今一度考えてほしい。女性専用車両は優遇ではなく、安全対策であり、痴漢が減らないから安心のために仕方なくやるのだ。女性専用車両が終日あれば痴漢される心配もないし、安全ピンで刺されたり冤罪を生み出す心配もなくなる。男性保護になるわけだから、どちらにとっても悪いことではないと思う。

 真っ当な男性からしたら「自分はそんなことしないのに」と不平等感を抱く人もいるだろうが、毎日の移動で恐怖を感じ続けている女性がいることも無視するべきではない。日本は、自分たちが思っているほど美しくもないし、安全でもない。女性たちは、日々「どうやって被害に遭わないか」を考えながら移動している。

 さらに昨年、被害女性が面識のない男にエレベーター内で襲われ命を奪われた事件もあり、電車内だけではなく、あらゆる場面で危険や不安を感じ、対策をしながら生活している。

 これまで、痴漢盗撮をされても「減るもんじゃないんだから」と女性を言いくるめて、被害を黙殺してきた。「触られて減るもんじゃない」は加害する側の主観でしかなく、被害に遭う側の心は確実にすり減っていく。明確な意思をもって行なわれている性犯罪を過小評価して、それを無かったことのようにしてきた結果が、今回の"安全ピンで自己防衛"につながっているのだと思う。

 安全ピンで自己防衛するべきかを議論しなければならない国が、本当に安全な社会であるようには思えない。今こそ、"女性が我慢することで成り立つ安全神話"を終わらせるべきではないだろうか。

【プロフィール】
渡邊渚(わたなべ・なぎさ)/1997年生まれ、新潟県出身。2020年に慶大卒業後、フジテレビ入社。『めざましテレビ』『もしもツアーズ』など人気番組を担当するも、2023年に体調不良で休業。2024年8月末で同局を退社した。今後はフリーで活動していく。2025年1月29日に初のフォトエッセイ『透明を満たす』を発売。同年6月には写真集『水平線』(集英社刊)も発売。渡邊渚アナの連載エッセイ「ひたむきに咲く」は「NEWSポストセブン」より好評配信中。