約6000体の遺体を解剖した法医学者が警告「お酒を飲んで身体にいいことは一つもない」飲酒がもたらす本当のリスク
6000体近くの遺体と向き合ってきた法医学者は、「死の予兆」を知っている。サウナ、飲酒、タバコ、過重労働、睡眠不足……私たちが見過ごしがちな習慣が、どこで身体の「綱渡り」を崩すのか。
東北医科薬科大学教授で、ドラマ『ガリレオ』の法医学監修でも知られる高木徹也氏が、新著『私たちはなぜ死ぬのか 法医学者が語る「永く、よく生きるための技術」』(CEメディアハウス)で、日本人に多い死因や突然死のメカニズム、災害・事故で生死を分けた行動などを、法医学の視点で解説する。
適度なお酒は「本当に身体にいい」のか?
解剖したときにもっとも多く観察される嗜好品があります。それは「お酒」です。お酒の主成分であるアルコール(エタノール)には脱脂作用があるため、血液中に入ると動脈硬化症の原因となる脂質成分を洗い流してくれます。そのため、適度に飲酒をしている人はきれいな血管であることが多いです。
こう書くと、お酒は身体によさそうにみえますが、そうではありません。洗い流され た脂質成分は血流に乗って肝臓に溜まるため、いわゆる「脂肪肝」になります。脂肪肝の原因には非アルコール性のものもありますが、動脈硬化症がひどくなく、脂肪肝が認められると、法医学者は「この人はお酒好きだったのだろう」と考えます。
脂肪肝だけで死に至ることはありませんが、脂質成分が溜まると肝臓は物理的に弱くなってしまうので、炎症反応を起こして「補強工事」を始めます。これが肝硬変の始まりです。脂肪肝が肝硬変に移行して重症化すると、肝臓は表面がボコボコになり、カチカチに硬くなります。悪化すると肝機能障害やアミノ酸バランスの不均衡などによってやがて死に至ります。
また、肝硬変から肝がんになることもあります。肝硬変から食道静脈瘤破裂を引き起こして亡くなる人もいます。
よくあるのが、一人暮らしの方が家で倒れて血を吐いて亡くなっているケースです。吐血した跡から殺人現場と勘違いされがちですが、全身の皮膚が緑色に変色していて、よくみると家の中にはお酒の缶や瓶がゴロゴロと転がっていたりします。
こういう人は普段からお酒を飲んでいて、隣近所との付き合いが薄いので、発見されるまでに時間がかかって、みつかったときにはご遺体の腐敗が進行していることが多いようです。
法医学者がみた「急性アルコール中毒」
また、お酒を飲み過ぎると、急性アルコール中毒を起こして突然死につながることもあるのはみなさんもご存じのとおりです。
1980年代から1990年代にかけて、大学生の一気飲みが社会問題となりました。近年はさすがに数はかなり減りましたが、若年者がアルコール中毒で救急搬送されたり、亡くなったりするケースはいまでもあります。健康な若者の肝臓は丈夫ですが、アルコールを飲み慣れていないために耐性が低く、中毒になりやすいのです。
急性アルコール中毒で亡くなった方の死因を特定する場合、血液、胃の内容物、尿などのアルコール濃度を調べます。
最後に飲んで3時間以内だと尿中よりも血中のアルコール濃度のほうが高く、3時間で血中と尿中のアルコール濃度はほぼ同じになります。3時間を過ぎると、今度はアルコールが尿に移行して、尿中のアルコール濃度のほうが高くなります。こうして、最後に飲んでから何時間後に亡くなったかを判断するのです。
高濃度の急性アルコール中毒の場合、解剖でおなかを開けた瞬間に消毒液のような強 烈なエタノールのにおいがします。解剖している私たちが酔っ払ってしまうのではないかというほどのにおいです。
また、ゆっくりアルコール中毒になったり、酒酔いで吐いたものを気道内に詰まらせて亡くなったりした場合だと、お酒が代謝されて甘ったるいにおいになります。そのため、解剖時のにおいで「これは飲んですぐだね」「飲んでから結構経っているかも」と推測することができます。
若者の命を奪う「一気飲み」
急性アルコール中毒で亡くなる学生のご遺体が、いまでも時々、私のところにも運ばれてくることがあります。
この場合、彼らはたいてい複数人で飲んでいます。最初から飛ばして一気飲みをしていた学生が途中で寝始めると、仲間が「ゲロ吐いたら窒息して危ないから横向きにしとこう」と横向きにして放置し、会がお開きになった時点で「あれ、息をしてない ! 」とようやく気づいてあわてて救急車を呼ぶのです。
このような場合、民事裁判になってご遺族がいっしょに飲んでいた学生を訴えたり、大学側の管理者責任が問われたりします。そのため、亡くなった学生がどれくらい飲まされたのか、寝始めてからどれくらい放置されていたのか、いつ息をしていないことに気づいたのか、病院や救急車を呼んで適切に対応したのか、といった点が争われることになります。
裁判では解剖時の所見と警察の捜査情報、関係者の証言などを突き合わせて矛盾して いないかどうかをみていくことになるため、法医学者にも繊細な判断が求められます。たとえば、ご遺体の血中アルコール濃度が高いだけでなく、それ以上に尿中のアルコール濃度が高い場合には、「最後に飲んでから3時間以上放置した可能性が高い」と言えます。
ところが、いっしょにいた仲間が「横にしてからすぐに救急車を呼びました」と主張しているとしたら? それはウソです。横にしてすぐに救急車を呼んだなら、血中のアルコール濃度のほうが尿中のそれより高いはずだからです。
お酒を飲んで身体によいことは一つもない
お酒には、身体的・精神的依存性が高い、という問題もあります。依存症になると、アルコール過多による脱水状態となり、今度は逆に動脈硬化症が進み、虚血性心疾患や脳血管疾患を引き起こすこともあります。また、アルコールの直接の毒性作用によってアルコール心筋症、ウェルニッケ脳症といった疾患を発症して死に至ることもあります。
アルコール依存症になれば、家族からも見放されて社会的に孤立したり、下手すると暴力沙汰を起こしたり、殺人事件にまで発展したりすることもあります。自分の身体を壊してしまうだけでなく、周りとの関係性も壊してしまうのがお酒の怖いところです。
現在、医師の間では、お酒は身体にとってよいことは何一つないというのが常識と なっています。ただ、そのことが一般に広く知られているようには思えません。
たとえば、「寝つきが悪いときに少し飲むくらいはよい」と言われていたことがありますが、現在、医療の世界ではこの説は否定されています。お酒を飲んで眠くなるのは血管を拡張させることによって脳の血流が下がることや、アルコールの精神作用で多幸感があるからで、決して安眠に誘ってくれているわけではありません。どちらかというと、医学的には「睡眠」というより「気絶」に近い状態です。
何より、アルコールはたとえ1滴でも脳を萎縮させます。理屈から考えて、身体にいいわけがないのです。タバコのCMは禁止になったり、規制が強化されたりしているのに、お酒のCMは流していいのだろうかと思うくらいです。
酒はタバコより危険?
近年はアルコール度数が8%以上と高い缶チューハイがスーパーで130円ほどと、ジュースよりも安価で売られています。私が医師になったばかりの平成の初期、アルコール依存症の人が飲んでいたのは日本酒の一升入り紙パックでした。
しばらくすると、4リットル入りペットボトルの焼酎となり、近年アルコール依存症で亡くなった人の家に転がっているのはストロング系チューハイの缶へと変わってきています。法医学者をしていると、アルコール依存症の人が好むお酒の種類にも流行り廃りがあることに気づかされます。
最後に、お酒と並ぶ嗜好品の代表ともいえる、タバコについてです。
タバコによって動脈硬化や肺がんになることはありますし、受動喫煙によって心筋梗塞や狭心症などのリスクが3割ほど高くなることも明らかになっています。
ただ、法医学の視点でみれば、タバコが原因で亡くなる人よりアルコール関連死のご遺体をみる機会のほうがはるかに多いです。
私もお酒をたしなむので気をつけなければならないのですが、飲酒は喫煙よりはるかに身体に負荷をかける、ということは知っておいて損はないでしょう。アルコール飲料はくれぐれも適量を守って楽しんでいただければと思います。それが健康を維持し、人間関係も良好に保つ秘訣です。
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【つづきを読む】サウナの「整う」は気絶と同じ…約6000体の遺体を解剖した法医学者が教える「サウナで突然死しない」ためにやるべきこと
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