記事のポイント
スウォッチとオーデマピゲの異色コラボ「ロイヤルポップ」が時計業界で大きな話題を呼んでいる。
オーデマピゲは「時計界の三大ブランド」の一角であり、ムーンスウォッチ以上の衝撃との見方も強い。
低価格化で新規層を取り込みつつ、リセール市場の過熱やブランド希釈リスクも注目されている。


5月9日〜10日、スウォッチグループ(Swatch Group)がSNS投稿と印刷広告を通じて予想外のコラボレーションをティーザー発信したことにより、時計コレクターコミュニティは騒然となった。

5月11日には、ニュースが正式に発表された。スウォッチ(Swatch)は、もっとも尊敬される高級スイス時計ブランドのひとつであるオーデマピゲ(Audemars Piguet、以下AP)との製品コラボレーションを、5月16日にリリースした。

年間製造本数が5万本未満で、平均価格3万6000ドル(約540万円)の時計を作るブランドであるAPが、マスマーケット向け低価格時計の最大級メーカーのひとつと組むのは、意外な動きだ。

時計コレクター、再販業者、ディーラー、そしてインフルエンサーたちは皆、この動きが時計業界の方向性にとって何を意味するのか、そして自分たちがどうやってこの時計を手に入れるかについて、憶測を巡らせている。

「ロイヤルポップ」は何が新しいのか



コラボレーションについて公式に明らかになっている情報はほとんどないものの、その名前だけですでに憶測が広がっている。

「ロイヤルポップ(Royal Pop)」は、おそらくAPの人気時計「ロイヤルオーク(Royal Oak)」からインスピレーションを得つつ、1980年代のポップアートに着想を得た時計シリーズで、ケースをストラップから取り外して衣服やバッグにクリップで留めることができたスウォッチポップ(Swatch Pop)と組み合わせたものになる可能性が高い。

スウォッチは、世界最大級の高級時計見本市「ウォッチズ&ワンダーズ(Watches&Wonders)」期間中に出稿したプリント広告で、このコラボレーションを予告した。

広告には、オリジナルのスウォッチポップに付属していたような色とりどりのランヤード(ネックストラップ)が並び、「本当の『驚き』は、5月にやってくる(The real wonders are coming in May.)」というテキストが添えられていた。

「これは多くの人々が予想していたものではない。しかし今、これはかつてないほどの話題を呼んでいる」と、時計マーケットプレイスであるウォッチガイズ(WatchGuys)CEOのロベルティーノ・アルティエリ氏は語った。

なぜAPコラボはムーンスウォッチ以上の衝撃なのか



スウォッチは過去にも高級ブランドとコラボレーションした経験があり、2022年にはスウォッチ×オメガ(Omega)のムーンスウォッチ(Moonswatch)が登場している。これは両ブランドにとって大ヒットとなり、その後も非常に高い人気を博する商品を生み出した。

しかし、APとのコラボレーションにはいくつかの重要な相違点がある。

APは、はるかにプレステージが高く、より高価なブランドであり、APの時計の平均価格はオメガの時計の平均価格よりも約2万ドル(約300万円)高い。

また、APはパテック・フィリップ(Patek Philippe)、ヴァシュロン・コンスタンタン(Vacheron Constantin)と並ぶ、スイス時計製造の頂点に立ついわゆる「三大ブランド」のひとつでもある。

そして、オメガがスウォッチの姉妹ブランドであるのに対し、APは独立系のスイス時計ブランドである。

リセール市場の過熱と両ブランドの戦略



このコラボレーションに対する熱狂はすでに、ホディンキー(Hodinkee)のような時計ブログ、ユーザーが時計を確保するためにスウォッチ店舗にどれだけ早く並ぶべきかを議論しているレディット(Reddit)、そして小売価格の何倍もの値段で売れるであろうこの時計で利益を上げようとする再販業者にまで広がっている。

アルティエリ氏によれば、ムーンスウォッチの小売価格は250ドル(約3万7500円)だったが、ピーク時にリセール市場では2500ドル(約37万5000円)で取引されていたという。

同氏は、ロイヤルポップは小売価格が約300ドル(約4万5000円)であるにもかかわらず、リセール市場では最大5000ドル(約75万円)で売れる可能性があると見ている。

「Royal Pop」とラベル付けされた箱は、すでに世界中のスウォッチブティックで目撃されている。

両ブランドにとっての戦略は明白だ。時計コレクションという趣味が成長している今、これまで以上に多くの人々が時計に関心を持ちはじめている。

スウォッチはAPのプレステージから恩恵を受け、APはスウォッチのスケールから恩恵を受けている。

また、低価格設定によって、APはメインブランドのイメージを損なうことなく、新規およびエントリーレベルの時計コレクターを引き寄せることを可能にする。これは、すでにオメガが成功を収めている戦略だ。

「ムーンスウォッチの成功後、オメガのスピードマスター(Speedmaster)の売上は50%増加した」とアルティエリ氏は語った。

「APもおそらく、このおかげでこれまでAPの時計を所有したことがない新しい顧客をより多く獲得するだろう」。

ブランド希釈リスクと他社追随の見通し



このような高級ブランドと低価格ブランドのコラボレーションは、常にブランドイメージの希薄化というリスクを伴う。一部の人々はすでに、ロイヤルポップをロイヤルオークの「貧者の代替品」として「ロイヤルブローク(Royal Broke)」と呼んでいる。

しかし、オーデマピゲCEOのフランソワ=アンリ・ベナミアス氏は2022年に、スウォッチとオメガのコラボレーションを公に称賛し、それはブランドイメージを希薄化させるものではなく、「若い世代を教育する」素晴らしい方法であると述べていた。

とはいえ、ほかの主要なスイスブランドが近い将来このようなことを試みる可能性は低い。

ロレックス(Rolex)はすでに、すでに定評がありながらも低価格帯のブランドであるチューダー(Tudor)を通じて、エントリーレベルの市場に足を踏み入れている。そこでロレックスの時計に採用される新機能の試験導入を行い、低所得層の消費者を惹きつけている。

「ほかのどのブランドもこのようなことを検討しているとは思わない。しかし、もしこれが成功すれば、状況は変わるかもしれない」とアルティエリ氏は語った。

価値を左右する「ブレスレット」の行方



アルティエリ氏は、この時計の価値と成功の評価を変えうるひとつの懸念点として、ブレスレットを挙げた。

オリジナルのスウォッチポップはストラップから取り外すことができ、ランヤードに付けて懐中時計のように身につけることができた。

新しいロイヤルポップも、色とりどりのランヤードをフィーチャーしたプリント広告に示されているように、同じ仕組みを採用する可能性がある。

しかしアルティエリ氏は、目新しい懐中時計の市場は小さく、APがその特徴として知られる一体型のブレスレットを採用したほうが、リセール価格は大きく押し上げられるだろうと述べている。

[原文:Why Swatch's collaboration with Audemars Piguet is creating 'the most hype ever' for a new watch]

Danny Parisi(翻訳、編集:藏西隆介)
image: https://www.instagram.com/swatch/