焼肉界の王者「牛角」の閉店ラッシュが止まらない…絶好調な「焼肉きんぐ」との決定的な違い
焼肉店の「倒産ラッシュ」
「焼肉店」の倒産ラッシュが続いている。
東京商工リサーチの調査によると、2025年度の「焼肉店」の倒産(負債1000万円以上)は57件にのぼり、これは前年度比14.0%増の数字であり、2年連続で過去最多を更新したそうだ。原材料費や人件費の高騰に加え、消費者の節約志向も重なり、いま、焼肉業界は明確な逆風下にある。
そうしたなか、ひときわ象徴的な存在がある。かつて全国に800店舗以上を展開し、世界展開も果たした焼肉チェーンの王者だった『牛角』だ。
なんと現在(2026年4月)、牛角の国内店舗数は約480店舗にまで減少しており、かつての勢いは見られなくなっている。
だが、その一方で最近変化も見られている。
4月下旬にグランドメニューを刷新し、トッピングやタレを全16種類に拡充。復刻メニューの投入やサイズ展開の強化など、商品面でのテコ入れにも踏み切った模様。値上げによる客数減少に歯止めをかけ、幅広い層の来店を促す狙いがあるとみられている。
さらに、『牛角焼肉食堂』や『牛角食べ放題専門店』といった新業態の出店を加速させたり、既存店舗の整理をしたりと、業態転換も進めているようだ。
牛角のこれらの動きは衰退の過程なのか、それとも再成長に向けた布石なのか。フードアナリストの重盛高雄氏に話を聞いた。(以下、「」内は重盛氏のコメント)
コロナ禍で“勝ち組”だった焼肉業界だが…
焼肉業界で倒産が相次ぐ背景について、重盛氏はまず「コロナ禍との反動」を指摘する。
「コロナ禍の時期、外食全体が落ち込むなかでも、焼肉業界は比較的好調でした。というのも、焼肉は“家で代替しにくい外食”だったからです。煙や匂いの問題もあり、“わざわざ店に行く価値がある”業態でした。同じように、揚げ物や回転寿司なども“自宅では手間がかかる”という理由で支持を集めていましたが、焼肉は特に“非日常性”が強い分、コロナ禍においても一定の需要が維持されていたのです。
ただ、コロナが明けると状況は一変します。他の外食業態が一斉に回復し、選択肢が一気に増え、その結果、焼肉の優位性は相対的に低下しました。特にファミリーレストラン業態は価格を抑えやすく、メニューの幅も広い。コロナ禍では苦戦していましたが、現在は“回復組”として焼肉と競合する存在になっているんです。
そこに加えて、原材料費や人件費の高騰が直撃しています。焼肉はもともと客単価が高くなりやすい業態ですが、消費者の予算が限られるなかで、“より安く済む選択肢”に流れやすくなってきた結果として、焼肉業界は業界全体で苦戦が目立ってきています」
牛角ならではの不調の原因
こうした逆風のなかで牛角が店舗数を減らしているのは、業界全体の問題だけなのだろうか。それとも焼肉業界の問題に加え、牛角固有の要因もあるのだろうか。
「原因は業界の問題と牛角の問題、両方にあります。業界全体の環境悪化は前提としてありますが、牛角ならではの構造的な要因も無視できません。
もともと牛角は“美味しい・手頃・雰囲気がいい”という三要素を高いレベルで成立させていました。牛角が登場する前までの焼肉店は、明るくて大衆的なイメージが強かったのですが、牛角はそこに半個室のテーブルや薄暗いムードのある照明などで“雰囲気のよさ”を持ち込んだ。結果として、“デートでも使える焼肉店”という革新的な新しいポジションを確立したわけです。
価格・商品・空間を一体で設計したこの戦略は明確で、他チェーンとの差別化にも成功しました。ただその分、ターゲットは自然と絞られていくことになり、言い換えれば“店が客を選ぶ”ブランドになっていった側面があったんです」
好調な『焼肉きんぐ』との決定的な違い
一方で、近年も好調を維持しているチェーンとして、しばしば比較されるのが『焼肉きんぐ』だ。焼肉きんぐはテーブルオーダー形式の焼肉食べ放題店。2025年8月時点で国内355店舗を展開している。
この数字だけを見ると、現在の牛角の国内店舗数(約480店)には及ばない。しかし、注目すべきはその“増え方”にある。2008年にわずか6店舗だった焼肉きんぐは、2025年には350店舗超へと急拡大。売上も右肩上がりで伸び続けており、焼肉チェーンのなかでもトップクラスの規模に成長しているのだ。
他チェーンが苦戦するなかでも出店を続け、店舗数・売上ともに拡大を維持している点は、焼肉きんぐの現在の強さを示していると言えるだろう。
「焼肉きんぐは“誰にとっても選びやすい店”として設計されています。価格体系が明確で、コースもわかりやすく、子どもや高齢者向けの仕組みも整っている。特に“祖父母が支払い、孫も一緒に楽しむ”といった家族三世代でも利用しやすい設計です。もちろん少人数でも利用しやすい。間口の広さがそのまま集客力につながっています。
一方の牛角は、2人〜4人といった少人数での利用、友人同士やカップルといったシーンに最適化されています。また、店舗や時間帯によってはネット予約で“2名以上”といった制限が設けられているケースもあり、“おひとり様需要”を取り込めていない印象もある。
両社を比較すると、“誰でも気軽に選べるか”という観点で差が生まれているのは事実でしょう。かつては強みとして機能していた牛角のポジショニングが、現在の牛角の“選ばれにくさ”へと転じてしまっている。客層の広がりという点で制約にもなりつつあるのです」
【つづきを読む】店舗数が激減した「牛角」に生じていた「小さなミスマッチ」、「わざわざ選ばれる店」ではなくなってしまったワケ
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