RSK

写真拡大

「味方だと思っていた細胞が、別のがんを助けてしまう」

【写真を見る】「味方だと思っていた細胞が別のがんを助けてしまう」がん免疫療法で「隠れていたリンパ腫」の細胞増殖が促されるメカニズムの一端を解明【岡山大学などの研究グループ】

そんな意外な現象が、がん免疫療法の現場で起きている可能性があることが、最新の研究で明らかになりました。

岡山大学・愛媛県立中央病院・九州大学病院の研究グループは、5月18日付の国際学術誌『Clinical Cancer Research』に、この発見を発表しました。

研究グループは「がん免疫療法の効果に比べると、リスクはごくわずかで過度に恐れる必要はない。あらかじめリスクを認識しておけば、注意深く観察でき素早く対応できる」とコメントしています。

そもそも「がん免疫療法」とは?

がんの治療といえば、手術・抗がん剤・放射線が3本柱として知られています。それに加えて近年、広く使われるようになったのが「免疫チェックポイント阻害薬(ICI)」と呼ばれる薬です。

私たちの体には、自分自身の免疫が過剰に働きすぎないよう「ブレーキ」をかける仕組みが備わっています。

ICIは、このブレーキを意図的に外すことで、患者自身の免疫細胞ががん細胞を攻撃しやすくする薬です。

代表的なものが「抗PD-1抗体」で、2018年にノーベル賞を受賞した研究をきっかけに一躍注目を集めました。肺がんをはじめ、さまざまながん種の治療で世界中で広く使われています。

免疫療法を受けた人は「リンパ腫」が見つかるリスクがやや高い

研究グループは、日本の大規模な医療データベースを分析しました。

その結果、ICIを投与された肺がん患者は、投与を受けていない患者と比べて、「リンパ腫」という血液のがんが見つかるリスクが、低頻度ながら有意に高いことがわかりました。

リンパ腫とは、血液中の免疫細胞の一種「リンパ球」ががん化して増える病気で、リンパ節のしこりとして見つかることが多いものです。

「味方のはずの細胞」が別のがんを助けていた

なぜこのような現象が起きるのでしょうか?

ICIが免疫のブレーキを外すと、「濾胞性ヘルパーT細胞」という免疫細胞も一緒に活性化されます。

この細胞は、本来はリンパ節でB細胞(体内に侵入したウイルスや細菌などの病原体を排除するために「抗体」をつくり出す免疫細胞)を助け、感染症への防御に重要な役割を果たす「味方」です。

ところが、体の中にひっそりと潜んでいたリンパ腫の細胞(B細胞由来)に対しても、この細胞が「サポート物質」を送り込み、増殖を促してしまうことがあるというのです。

「敵のがん(肺がん)に立ち向かうために応援を送り込んだら、その応援部隊が、別の場所に潜む敵(リンパ腫)まで元気にしてしまった」というイメージです。

このメカニズムを世界で初めて明らかにしたのが、今回の研究成果です。

それでも「過度に恐れる必要はない」理由

「リンパ腫が見つかるリスクが高い」とはいえ、研究グループは「非常に低頻度」「ごくわずかなリスク」と強調しています。

肺がんに対するICIの治療効果は非常に高く、多くの患者の命を救っています。そのメリットと比較したとき、このリスクは非常に小さなものだといいます。

岡山大学の冨樫庸介教授は「そのリスクは、一般的ながん免疫療法のメリットに比較するとても低いので、過度に恐れる必要はない」とコメントしています。