日経平均6万円突破に潜む「カラクリ」…世界で進む「中国外し」の恩恵を受ける日本株の「死角」

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日経平均株価が史上初の6万円台に到達した。バブル崩壊から35年かけて4万円を回復したのに、5万円から6万円まではわずか4カ月--。少子高齢化が進み、賃金上昇が物価高に追いつかないこの国で、なぜ株だけが上がるのか。生活実感との落差が激しいこの上昇相場の裏には、ある「カラクリ」が潜んでいる。日本株を待ち受ける“死角”とは。『マネーの代理人たち』の著者で、経済ジャーナリストの小出・フィッシャー・美奈氏が明かす。

日本株、ついに6万3000円台に

日本株が史上初めて6万円を超えた。4月27日に日経平均株価が終値で6万円台をつけた後、いったん利食い売りが出たが、連休明けの今月7日には猛烈に買われて、6万3000円近くに急騰した(原稿執筆時)。

*その後、5月13日に終値で6万3272円をつけ、日経平均株価最高値を更新した

それにしても、このところの日本株の躍進は目覚ましい。1989年暮れに4万円にもうちょっとのところでバブルが崩壊した後、それを回復するのに実に35年もかかったのに、おととし2月にそれを達成した後は、昨年10月にあっさりと5万円に到達。そこから6万円をつけるまでに4カ月しかかからなかった。

ここで、株なんて関係ないわぁーー、と冷めた反応をする人もいることだろう。日本で株をやる人の比率は、3割弱(「株の学校ドットコム」の1万人調査)。増加傾向にはあるが、株をやらない人の方が圧倒的多数派だ。株投資をする人でも、その過半数は300万円未満(日本証券業協会による2025年の意識調査)。持たない人にとっては、株価高騰は持てる人との資産格差拡大を意味するだけだから、白けてしまうことになる。

それに、日本株が上がっているらしいのに手持ち株はさっぱり、という人も多いかもしれない。米国の超巨額AI投資(参考記事:ソフトバンクG「株価4割」下落の深層…オープンAIが進める「200兆円投資」は回収可能か、それともバブル崩壊の序章か-4ページ)を背景に、一部の半導体関連や機械、電子部品、金属銘柄などが爆騰した一方で、コスト高にあえぐ一般消費財やサービスなど内需型「ドメ銘柄」や小型株は苦戦し、両極化したからだ。

それにしてもーー。人口高齢化が進み、インフレに賃金上昇がまだ追い付かず、ホルムズ海峡封鎖の影響をもろに受け、プラスチック容器の供給不足でプリンまで販売休止が検討されるこの国で、株だけがなぜ上がるのだろう? 生活感との落差の激しいこの現象は、株をやらない人でも、一度考えてみてもよいかもしれない。

外国人投資家はなぜ日本を買うのか?ー「サナエノミクス」への期待

まず、日本株を動かすのは日本人、ではなくて、海外機関投資家だという現実がある。

「日本人ファースト」の選挙スローガンでは、「日本が外国に乗っ取られたら怖い」ということが漠然と強調されるが、日本株売買の6、7割(時期によってはそれ以上)が外国人投資家によるものだという状況は「金融ビッグバン」の90年代から続いているし、上場日本企業の資本構成でも、外国人による株式保有が25%を超える状況が、すでに20年近く続いている(近年の保有率は3割超)。

外国人が日本株を売買したり、少数株主として株を保有することと、外国人が日本企業の資本の過半を押さえて「経営支配」することは別問題なので、そこはきっちりと線引きをしなければならない。でも、すでに日本株市場はどっぷりと世界の金融市場の中に組み入れられていて、外国人の投資抜きで日本株を考えることは現実的ではない。

このところの日本株上昇も、外国勢による右肩上がりの買いに支えられてきた。2025年度の外国人による買い越し額は10兆円規模(東京証券取引所)と、2013年頃の「アベノミクス」当時の日本ブームに匹敵する。

では、なぜ海外勢は今、日本を買うのか?

足元では「サナエノミクス」がカタリストになっている。

まず、デフレ脱却という「構造変化」が日本に起きているという期待がある。そして、AIが国際的な投資テーマとなる中、関連分野ですでに世界シェアの高い日本企業の競争力が、円安によってさらに強まった。上場大企業には輸出産業が多いので、総じて業績は堅調だ。さらに、東京証券取引所がPBR(株価純資産倍率)1倍を下回る「簿価割れ」企業に資本効率向上を強く求め、配当引き上げや自社株買いなどの株主還元が増えていることも評価された。

デフレ脱却期待と企業の業績回復、経済成長重視を含めて株式市場にフレンドリーな政策という三点セットは、2013年頃の「アベノミクス」での日本買いと、条件が共通する。かつて、故安倍晋三首相はダボスの世界経済フォーラムで「Japan is Back」と宣言したが、今海外投資家が日本に期待するのも、一過性の変化を超える構造的な「日本再生」だ。

「日本買い」のもう一つの要因

ただ、忘れてはならないのは、世界中のあらゆる資産に投資するグローバル投資家にとっては、日本株はあまたの選択肢の一つにすぎず、彼らは常に、他の選択肢に比べて日本株がより魅力的かどうかという「相対的な視点」で日本に投資していることだ。

例えば、今の米国株は今期予想PER(株価収益率)が22倍近くまで上がっているが、日本株はまだ18倍以下なので、相対的な割安感があることが買い材料の一つとなっている。

さらに、この「相対的」目線の中でもう一つ重要な変化として、近年、海外投資家による「中国外し」が進み、その代替先の一つとして日本株に資本が流れてきたことがある。

グローバル投資家の中国離れは、世界の株価指数や、それに連動するETF(上場投資信託、インデックスファンドの一つ)にはっきりと現れている。

例えば、全世界の株価指数である「MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(ACWI)」を見ると、2020年には中国株ウェイトが5%程度あったのが、今では2.7%と、ピークの半分近くまで低下している。

新興国だけを見るともっと極端で、「MSCIエマージング・マーケット(EM)」指数では、2020年に4割を占めていた中国株比率が、今では25%と大きく後退。反対に台湾株のウェイトが12.5%から2割を超えて急伸している。

きわめつきは、「中国除外型」のETFがブームになったことだ。「MSCIエマージング・マーケット・エックス・チャイナ (EMXC)」、つまり「中国を除く新興国」指数に連動するファンドには、中国不動産危機の深刻化が表面化した2023年の秋口から急に資金が集まるようになり、大きな資金流入がしばらく続いた。

これは、海外投資家が政治的に中国を外したというよりも、不動産バブル崩壊による景気悪化、欧米の先端技術サプライチェーンからの中国企業の排除、それに中国の国内政治リスクもあいまって、中国に資本を投下する不確実性やリスクが高まったことが要因だ。これらを背景に、中国を回避した投資資金が日本株にも流れてきたと考えられる。

ちなみに、「パッシブ」と呼ばれる上記の株価指数連動型ETFをiSharesブランドで提供するのがブラックロックという世界最大の金融会社だ。その運用資産額は最新開示で約14兆ドル(約2200兆円)。日本のGDPの3.7倍という、とてつもない規模だ。株式投資だけでも8兆ドル(約1250兆円)と、日本GDPの倍になる。

したがって、この巨大金融会社がある国の株を買いだ、とか売りだ、と推奨した時の投資家心理へのインパクトは推して図るべしだ。そのブラックロックが2023年2月に中国株を「オーバーウェイト」から「中立」に引き下げ、同年秋には日本を「中立」から「オーバーウェイト」に引き上げた。今でも日本株買いスタンスを変えていない。これも外国人による日本買いの大きな後押し要因となっている。

「今度は違う」のか?

筆者はグローバルな資産運用会社に勤務したことがあり、日本株が世界に投資する運用者から見放される場面も見てきた。そういう時は、ランチタイムの社内の日本株プレゼンにピザまで用意しても、同僚は米国株や新興国株のリサーチに忙しくて集まってくれない。

では、今度は違うのか?

「今度は違う」という見方もある。投資家の日本に対する見方が構造的に変わり、今までのようなヘッジファンドの中心の短期波乗りトレードから長期保有へと、質の異なる日本投資が増えているという説だ。

こうしたポジティブな見方の証左として引き合いに出されるのは、「オマハの賢人」、日本では「投資の神様」と呼ばれるウォーレン・バフェット氏の日本投資だ。バフェット氏が昨年までCEOを務めたバークシャー・ハサウェイは、2020年8月に日本の5大商社株を5%超保有したと公表し、世界の投資家が日本を見直す大きな契機となった。今ではその保有額は10%前後と、倍に積み増されている。

この投資がいかに確実性の高い高利回り投資だったか、ということについては当時の解説記事(バフェットが投資した総合商社、株価は「伊藤忠」が独り勝ちのワケ)をご参照いただきたいが、今では含み益が200億ドル(3兆円)以上とも言われるから、この眼力はさすが「投資の神様」というしかない。

しかも、昨年のバークシャー・ハサウェイの株主総会では、日本商社への投資は「50年もしくは永久に」保有するという発言があり、「超長期」投資と位置づけられている。さらに、今年3月に発表された同社の東京海上ホールディングスへの投資(2.5%)はさらに踏み込んでおり、再保険分野で提携したり共同で海外M&A(合併・買収)を進める計画など、単なる投資を超えたパートナシップを打ち出している。

懸念材料もある

一方で、日本株の今後には懸念材料も少なくない。

一般的に日本株は「リスク・オン」資産と言われて、景気が良くて金利が上がり、株も上がって海外投資家が「上げ」気分の時に、すでに保有する米国株は上がっちゃったから次はどうしようか、という「出遅れ物色」目線で買われやすい。過去の経験則では、景気サイクルの最後に買われる資産なのだ。

したがって、米国景気に陰りが出て、世界の投資家がリスクに敏感になり、為替が円高に振れる局面では日本株には危険信号がともる。

さらに今の市場では、株が上がるからさらに買われる、下がるからさらに売られるといった「モメンタム」投資(世界の株式市場はなぜ総崩れに?露呈した「モメンタム投資」の弱点)がコンピュータアルゴリズムによって増幅されている。その中で、日本株はことリスクに弱い(リスク感応度が高い)資産だということを覚えておきたい。

長期運用の大手年金などが日本投資を構造的に増やしているから日本株の底堅さは続く、という見方もあるが、どうだろうか。多くの年金が運用を委託するグローバルファンドでは、ファンドマネージャーがMSCIワールドインデックスなどの「ベンチマーク」と比べた運用成績で評価される。

日本株が世界でアウトパフォームしている時は、日本株を世界株指数の6%程度よりも多めに保有した方が成績が上がるので、彼らは日本株を一気に買い増すが、反対に日本株の相対パフォーマンスが悪化すれば、保有比率をベンチマーク以下に下げた方が運用成績が上がるので、一気に売りに回ることになる。

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最近の日本株ラリーを見て、普段株をやっていなかった人まで、これから買おうかと迷っているかもしれない。でも、個人相手の証券会社のセールスなどは、さんざん株が上がった後で、ことに上がった株を推奨してきたりするので、要注意だ。どうしてもというなら、今は出遅れている株の中から競争力のある企業を吟味した方が、長期的な投資妙味があるだろう。

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