もう「お母さん」をやめてしまいたいです…年金22万円・65歳パート主婦が漏らした、悲痛な本音。実家にへばりつく38歳長男・32歳長女へ注いだ〈重い愛情〉のツケ
「何歳になっても我が子は可愛い」という親心。しかし、その優しさが30歳を過ぎた我が子の「自活する力」を奪っているとしたら、それは愛情ではなく「共依存」かもしれません。今回は、年金暮らしの65歳夫婦と二人の子どもの事例を通し、川淵ゆかりFPが「共依存関係」の落とし穴と脱却のヒントを紐解いていきます。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。
実家に居座る30代の子どもたちの存在
「うちの息子と娘は、ずっと実家に居ついているんです」
Aさんはそういって、疲れ切った表情でため息をつきます。
65歳でパート勤めのAさんは、同い年の夫Bさんと38歳の長男Cさん、32歳の長女Dさんの4人家族です。住まいは郊外にある戸建てで、住宅ローンはすでに完済しています。
夫は中小企業に長年勤め、定年を迎えたあとも再雇用制度で働いてきましたが、「もう十分働いた。これ以上働きたくない」と65歳でリタイアすることに。Aさんも、家庭を支えるため長くパートを続けてきましたが、体力的にキツくなってきたこともあり、この機会に仕事を辞め、夫と二人で静かな老後を過ごしたいと考えています。
しかしAさん夫婦には、その夢を実現できない理由があります。それは、いまだに家を出ない子どもたちの存在です。長男Cさんは、高校を卒業後、地元の工場に就職。いまも仕事は続けており、月収は20万円ほどあります。
「家には毎月5万円だけ入れてくれていますが、残りはどうしているかわかりません。仕事から帰ると、夕飯もそこそこに部屋に直行して深夜までゲームをしているようで、おそらく給料の大半はゲームやアニメといった私にはよくわからないものに使っているんじゃないかと……。料理や洗濯を頼んだこともありますが、ゲーム中にしゃべりかけると不機嫌になるので、もう諦めています。息子の将来のことが心配なので、もらった5万円はそのまま貯金しているんですが……」
一方、長女Dさんは、大学を卒業後一度上京したものの、失恋をきっかけに仕事を辞めて実家に出戻りし、それ以来ほとんど引きこもり状態です。
「家事だけはしていますが、私に説教されたくないのかあまり顔を合わせようとはしませんし、食事もバラバラです。夫と相談して、一度お見合いを勧めたことがあるのですが、本人がほっといてほしいといって聞きません」
周囲から「お子さんはどうしているの」と聞かれたときは、息子は“婚活中”、娘は“花嫁修業”という体で家にいると説明してきましたが、年齢的にも説明が苦しく、近所の目も気になるようになりました。
「何歳になっても我が子には変わりありませんから仕方ないなぁ程度に思ってきました。ですが、状況が変わる様子もなく、数年前からは自分たちの老後を考えると重荷に思えてきたんです。それに私たちがいなくなったあと、子どもたちはどうなってしまうんでしょう。夫に相談しても知らんぷりで、『お前に任せた』としかいわれません。正直もう、『お母さん』をやめてしまいたいです……」
親も子もなかなか抜け出せない「共依存」の闇
Aさんの家庭は、いわゆる「共依存」の状態に陥っている可能性があります。「共依存」とは、親と子が互いに依存し合い、関係を断ち切れなくなる状態を指し、具体的には次のような例が挙げられます。
〇親が子どもの生活を全面的に支え続けている(家事・食事・生活費など)
〇子どもは自立の必要性を感じず、働かない、あるいは最低限しか家にお金を入れない
〇親は「心配だから」などと理由をつけて支援を続ける
〇家族内のコミュニケーションが断絶しているのに、現状を変えられない
お互いが納得しており、外部に迷惑をかけていないうちは家庭内の問題で済みますが、親の収入が減ったり、親が亡くなったりすると、こうした問題は一気に表面化します。
さらに、このままの生活がしばらく続くと、「8050問題」へと発展する危険性があります。「8050問題」とは、80代前後の高齢の親が、50代前後の無職・引きこもり状態の子どもを支え続ける状況を指します。親子ともに生活が困窮したり、社会から孤立したりするだけでなく、介護や医療の負担が重なり、虐待リスクが高まることもある深刻な社会問題です。
息子Cさんには「自分は働いて家にお金も入れている」という自負があり、食事や洗濯などを親がやってくれるのは当然だと感じている様子。
一方、娘Dさんは自室からあまり出てきませんが、両親が仕事に出ているあいだは部屋から出てきて、洗い物や洗濯などの家事をこなすことができます。内心は母親が大好きで、母親を尊敬し、母親のようになりたいと思っていましたが、長年ひきこもっている恥ずかしさから反発しており、自責の念とともに「なんとかしたいけどできない」という葛藤に苛まれているようです。
それぞれの内面は異なれど、このまま関係が固定化すれば、共依存が高齢期まで持ち越され、A家においても、8050問題に発展しかねません。
金銭面では、Aさん夫婦の年金収入は夫が月約16万円、Aさんが約6万円で、あわせて月22万円ほどです。夫婦は、子どもたちのせいでこれまで旅行にも行けず、子の結婚に伴う援助などの出費もなかったため、それなりの貯蓄もあります。しかし、それだけでは「家族4人分」の将来の生活を支えるには、どうしても心許ないものです。
「温泉旅行」が、娘の意識を変えるきっかけに
退職してから毎日家にいることで、子どもたちを目の当たりにするようになった夫Bさん。業を煮やして、Aさんにある日、次のように持ちかけました。
「二人を置いて、1週間くらい旅行でも行こう」
Aさんはとても心配しましたが、夫は「腹が減ったら自分たちでなんとでもするだろ。ほっとけ」といい、強行することに。荷造りをしているあいだもCさんはなにもいいませんが、Dさんはなにやら焦っている様子。珍しく両親の前に姿をみせると、「ちょっと待って。どこ行くの? 兄さんと二人きりなんて無理。私も連れていってよ」といいました。
娘が久しぶりに外出する気になってくれたことを嬉しく思い、結局、夫婦はDさんを連れて3人で旅行に行くことに。
そうして、3人でおいしい食事を楽しみ、温泉で心身を温め、帰路についた3人。これまではなにも話さなかったDさんですが、夕暮れの後部座席でポツポツと心のうちを話しはじめました。
「あの……いままで、本当にごめんなさい。『このままじゃいけない』ってずっと思ってたんだけど、どうしても動けなくて。でも旅先でも気を遣ってくれる二人をみて、本当にこのままじゃいけないんだって思った。私、これからは外に出るようにします」
夫Bさんはこのとき、「娘は、本当は外に出たかったのか」と気づいたそうです。さらに、「息子も働けるんだから、母親と引き離せさえすれば、一人でなんとか生きていけるんじゃないか」と考えるきっかけとなりました。夫Bさんは息子について、「男は一人で暮らすことも大事なんだ。お前もいい加減に子離れしなさい」とAさんに告げます。初めは泣いてしまったAさんですが、次第に夫から息子にこれからについて話をすることを了承しました。
それからしばらくして、Dさんは病院の調理係のパートを見つけ、週3日・1日3時間ずつ働くようになりました。心なしか表情も少しずつ明るくなり、夕食は家族3人で囲むように。聞けば、同じ勤務先の技師の男性と懇意な様子。Dさんは男性の存在も影響しているのか自立することに前向きで、慣れたら勤務時間を伸ばす予定です。
一方、Cさんも妹の変化に刺激を受けたからか、父親からの叱咤を受けたからか、実家を出て、工場の寮に住むことに。寮では相変わらずゲームをしているようですが、同じ寮の仲間と飲みに出ることもあるそうです。
こうして、ゆっくり自立への道を歩きはじめた子どもたち。その一歩は小さくとも、ようやく長く続いた共依存の関係に変化の兆しがみえはじめました。親が高齢になってからの「共依存」は、誰の家庭にも起こり得る問題です。最悪の事態を防ぐためにも、親子が互いに自立し、老後を安心して過ごすための準備を早めに始めることが大切です。
川淵 ゆかり
川淵ゆかり事務所
代表
