「利益がかなり落ちます」“世界最高峰のフランス料理店”を継いだ安發伸太郎さんが“稼げるランチ営業”を減らした深い理由《ミシュラン三つ星店》
パリのフランス料理店「ランブロワジー」を安發伸太郎さんが引き継いだのは、2025年10月のことだ。同店はミシュランガイドの三つ星を37年にわたり獲得してきた超名門で、「世界最高峰のフレンチ」と評されてきた。この伝統あるフランス料理店を引き継いだ安發さんが、独自の料理哲学を語った。
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「料理は総合芸術」
私は料理をアートとして捉えています。試作を繰り返して味の決まる瞬間がこのうえなくうれしい。厚く切ったり、薄く切って添えたり、試作を重ねてどんどん美しくなっていく。少年がプラモデルで遊んでいるような、そんな感覚です。幸いにもパリには伝統とモダンの美が密集しています。美術館を訪れて刺激を受けたり、ファッションショーを見て盛り付けの参考にしたり、インスピレーションを得られる場所が至る所にあります。ランブロワジーはスタッフが多くないので、カトラリーやお皿、グラスなどのコーディネートもすべて私が決めています。テーブルにはもともと胡蝶蘭があったのですが、今はお花屋さんに色合いなどを相談しながら小さめのブーケを作ってもらっています。料理は総合芸術です。ゲストが満足できる心地よい空間も欠かせません。

安發伸太郎さん Ⓒ文藝春秋
ありがたいことに、そのような変化にスタッフも興味を持って参加してくれます。エピキュールではスタッフが大人数だったこともあり、ときに足を引っ張り合う緊迫した戦場でした。ランブロワジーは若い人もいればベテランのかたもいる、家族のような雰囲気です。お店はもともとパコーさんが親しい友人を呼ぶビストロから始まりました。彼の温かな人柄はスタッフにも向けられ、給料をしっかり上げたり、困っていれば助けたりしていました。三つ星を獲得しただけでなく、誰に対しても敬意ある姿勢が、偉大なシェフとして皆から慕われている理由なのだと思います。
ランチを減らす英断
大切なスタッフが疲れては困るので、最近はランチの営業を1日減らしました。ランチもディナーもメニューや価格は変わりません。そのため三つ星クラスで半日閉めると、利益がかなり落ちます。それはもうびっくりするぐらい。そこをオーナーに理解してもらうために、昼と夜で25名の予約が入るときは夜を30名にして作業を集中させるようにしました。また、料理面では実力のばらつきをなくすため、わからないスタッフには実演して見せる。「この状態にしてほしい」と一緒にフライパンを握りながら説明します。ランブロワジーの卒業後に恥ずかしくない料理人であっても欲しいですから。
まかない料理も手を抜きません。料理人にとって、たとえ時間がなくてもおいしい料理を作るのが絶対条件です。自分の力にもなるので、まかないでもトップクラスの食材を調理してみんなで食事します。フランス料理に欠かせないソースはとても原価がかかります。赤字になってはいけませんが、でもやっぱりおいしいものを食べるとみんなが幸せになる。幸せな気分のまま調理もサービスも始められます。そして、どんなときでも私は年下でも年上でも敬語で話します。家族のようとは言えど馴れ合いにならない距離を保つ。敬意を持って話せば、相手も丁寧に接してくれます。
※約7000字の全文では、フランスでの料理修行を安發伸太郎さんが振り返っています。全文は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と「文藝春秋」2026年5月号に掲載されています(安發伸太郎「パリ三つ星店継承者のミシュラン論」)。
※このほかにも、「文藝春秋PLUS」では料理人の記事を多数掲載。
神田裕行「ミシュラン三つ星、コメ騒動に一家言あり」
松久信幸「僕の寿司を食べた世界のスター」
村田吉弘「和食のうま味を世界が認めた」
(安發 伸太郎/文藝春秋 2026年5月号)
