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近年、会社を定年退職して、65歳を過ぎても、再雇用や再就職で働き続ける人が増えています。総務省の「労働力調査」によると、2024年度時点で、65〜69歳の就業率は53.6%と半数を超えています。通常、65歳から年金受給が始まるため、年金をもらいながら働くことになりますが、その際に一つ注意点があります。給与の月収と老齢厚生年金の合計額が一定金額を超えると、「老齢厚生年金」の一部または全部がカット(支給停止)されます。本記事では、65歳再雇用で働くサラリーマンのモデルケースをもとに、在職老齢年金の仕組みとカットされる金額、年金をカットされないための対策をFPの服部貞昭氏が解説します。

65歳再雇用サラリーマンの「年金カット」シミュレーション

【モデルケース】

・性別:男性

・年齢:65歳(65歳定年退職後、再雇用で継続勤務)

・月収:52万円、年間賞与:120万円

・65歳から年金受給開始

・年金受給額:月20万円(老齢基礎年金7万円+老齢厚生年金13万円)

この再雇用サラリーマンのモデルケースでは、月収52万円、年間賞与120万円であり、年収は、52万円×12ヵ月+120万円=744万円となります。

一般の方より多い年収ですが、何らかの役職に就いていたり、特別なスキル・資格を持っていたりすると、再雇用でも年収が高くなる傾向にあります。

老齢厚生年金の月額は13万円であり、厚生労働省のモデル年金額(約9.6万円)より多い金額です。老齢厚生年金の金額は、一般的には、会社員として働いた際の生涯年収に比例しますので、生涯年収が多い方は老齢厚生年金の金額も多くなります。

多くもらえると思っていたのに…年金カットで〈まさかの振込額〉

給与年収が高く、年金額も多く、悠々自適に暮らせると思うかもしれませんが、実は、振り込まれる年金額はかなり低い金額になります。

在職老齢年金では、給与の月収と老齢厚生年金の合計額が65万円(2026年度時点)を超えると、その超えた分の2分の1の年金がカット(支給停止)されます。

今回のモデルケースでは、次のような計算になります。

給与の月額(賞与含む)=52万円+120万円÷12=62万円

給与の月額+老齢厚生年金の月額=62万円+13万円=75万円

カットされる金額=(75万円−65万円)÷2=5万円

つまり、老齢厚生年金13万円のうち、5万円がカットされて、実際に支給される金額は8万円に減ります。

現役時代に一生懸命に働いて、たくさん厚生年金保険料を支払って、年金を多くもらえると予想していたのに、その年金の一部がカットされてしまったら、大変ショックですね。

【2026年4月制度改正】いくら稼ぐと年金はカットされる?「在職老齢年金」の仕組みと計算式

2026年4月から、在職老齢年金制度の改正で基準額が65万円に

「在職老齢年金制度」とは、60歳以降、働きながら年金をもらうと、給与の月収と老齢厚生年金の合計額が一定金額を超えた際に、年金の一部または全部がカット(支給停止)されることを指します。

「年金」という言葉が入っていますが、もらえる年金ではなく、逆に、減る年金のことです。そういうと身構えてしまうかもしれませんが、ご安心ください。上記の一定金額について、以前は「51万円」でしたが、制度改正により、2026年4月から「65万円」に引き上げられました。

在職老齢年金の基準額の引き上げの目的は、平均寿命・平均余命が延びるなかで、「働き損」を解消して、高齢者の就労を促進することです。

改正以前は、在職老齢年金制度により年金カットされる人が多くいました。厚生労働省によると、2022年度末時点で、65歳以上で働きながら年金をもらっている人が308万人いましたが、そのうち16%にあたる約50万人が年金をカットされていました。

今回の改正により、約20万人が年金カットの対象から外れると推測されています。それでも、まだ残り約30万人が年金カットの対象となっています。

在職老齢年金でカットされる年金はいくら?

ここで、在職老齢年金の計算方法について詳しく解説します。

まず、給与について、毎月の給与額(社会保険料の計算に用いる標準報酬月額)と1年間の賞与を12で割った金額を足します。これを「総報酬月額相当額」といいます(以下、「給与の月額」と呼ぶことにします)。

次に、加給年金額を除いた老齢厚生年金の報酬比例部分を12で割った額を「基本月額」といいます(以下、「老齢厚生年金の月額」と呼ぶことにします)。共済年金がある場合は、それらもすべて足し合わせます。

給与の月額(総報酬月額相当額)=毎月の給与額(標準報酬月額)+賞与÷12

老齢厚生年金の月額(基本月額)=年間の老齢厚生年金の報酬比例部分÷12

そして、給与の月額と、老齢厚生年金の月額が65万円を超える場合には、超えた部分の金額のうち2分の1の金額が老齢厚生年金からカット(支給停止)されます。

カットされる金額=(給与の月額+老齢厚生年金の月額−65万円)÷2

「全額カットで年金0円」にも…具体的なモデルケース

・月収:53万円、賞与:120万円

・老齢厚生年金の月額:10万円

給与の月額=53万円+120万円÷12=63万円

給与の月額+老齢厚生年金の月額=73万円

カットされる金額=(73万円−65万円)÷2=4万円

支給される金額=10万円−4万円=6万円

参考までに、この例で、給与の月額が75万円である場合には、老齢厚生年金の全額がカットされます。

給与の月額+老齢厚生年金の月額=85万円

カットされる金額=(85万円−65万円)÷2=10万円

支給される金額=10万円−10万円=0円(全額カット)

年金カットを回避するための「3つの対策」

1. 収入を減らす

在職老齢年金制度により老齢厚生年金をカットされないための対策ですが、年金額そのものを変更することはできないため、最も効果的なのは収入を減らすことです。具体的には、週の労働時間や日数を減らしたり、残業を減らしたりします。

仮に、老齢厚生年金の月額が10万円の場合、毎月の給与と賞与を合わせて、月額55万円(年収換算660万円)以下であれば、年金カットされることはありません。

[図表1]給与の月額(総報酬月額相当額)と老齢厚生年金の月額に対する、年金カットの金額早見表を掲載しますので、ご参考ください(緑色に塗った領域であれば年金カットされません)。

[図表1]給与の月額(総報酬月額相当額)と老齢厚生年金の月額に対する、年金カットの金額早見表

ただ、十分働くことができるのに、無理に勤務時間を減らして、収入を減らすのは得策とはいえません。たとえ、年金がカットされたとしても、超高収入な場合を除けば、収入を増やしたほうが最終的な手取り額は多くなります。働く意思があり体力もある方は、思いっきり働いて稼いだほうがよいでしょう。

2. 働き方・雇用形態を変える

在職老齢年金の計算で用いるのは、サラリーマンの給与だけです。個人事業主・フリーランスとして受け取る報酬は、計算の対象外です。よって、会社と相談し、雇用契約から業務委託契約に切り替えて働くという方法もあります。

ただ、厚生年金の加入条件から外れて国民健康保険に加入すると、保険料の負担が重くなりますし、確定申告の作業も必要になります。世帯構成によっても異なりますので、慎重な判断が必要です。

3. 年金を繰下げる

一部の年金がカットされて、繰下げの増額対象にならないことにより、損益分岐点の年齢が通常より延びますが、その年齢を許容できるのであれば、繰下げるという選択肢もあります。

いずれにしても、「働き方・雇用形態を変える」と「年金を繰下げる」については、個別に詳細なシミュレーションをすることが大切です。ご自身の健康状態や、家族の状況も考慮しながら、慎重に検討しましょう。

服部 貞昭

ファイナンシャル・プランナー(CFP®)

新宿・はっとりFP事務所 代表

エファタ株式会社 取締役