「北朝鮮よりも恐ろしい世界かもしれません」“影の米大統領”ピーター・ティールが危惧する「反キリスト」が跋扈する社会像
ソ連崩壊、リーマンショック、トランプ大統領誕生などを次々に予言し、“現代最高の知識人”と称されるフランスの歴史人口学者・家族人類学者のエマニュエル・トッド氏(74)。一方、PayPalやPalantirの共同創業者にして“シリコンバレーのドン”の異名をもち、いち早くトランプ支持を表明してJ・D・ヴァンス副大統領就任にも深く関与し、“影の米大統領”とも評されるピーター・ティール氏(58)。
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人類滅亡の危機を煽って権力を握る反キリスト
会田 ティールさんが「世界の終わりへの航海」を書かれたのはどんな経緯からですか。
ティール 私がこのエッセイで、いくつかの文学作品を通じて捉えようとしたのは、「後期近代」が直面する奇妙な状況についてです。

ピーター・ティール氏 Ⓒ文藝春秋
こうした「人類滅亡のリスク」について話をする時、私は科学がはらむ危険性や環境問題といったリスクを過小評価しているわけではありません。「これは嘘だ」とか「作り話だ」と言っているわけではないのです。
例えば、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリに対して私は批判することも多いのですが、ある意味で彼女は正しい。私たちにはこの地球しかなく、別の惑星を簡単に手に入れられるわけではないからです。
しかし、私が強調したいのは、こうしたリスクを考えるなら、もう一つの非常に危険で深刻なリスクも考えるべきだということです。それは私が「全地球的な全体主義国家のリスク」と呼ぶものです。つまり、全世界を支配する独裁的な政府が生まれ、地球全体を「逃げられない監獄」に変えてしまうリスクです。
これは北朝鮮よりも恐ろしい世界かもしれません。北朝鮮なら逃げられますが、地球全体がそうなれば脱出不可能です。私はこれを「政治的な存亡のリスク」、あるいは「黙示録的な政治リスク」だと考えています。
聖書の言葉で言えば、「反キリスト」です。反キリストは、聖書では、「歴史の最後に現れ、全世界を支配する独裁者」として描かれます。
ここで重要な問いは、「反キリストはいかに権力を握るのか」です。私の考えでは、「後期近代」において反キリストは、人々に絶えず破滅や滅亡のリスクを語り続けることで権力を握ります。
「初期近代」のフランシス・ベーコンの時代や17〜18世紀なら、科学技術によって世界を支配できたかもしれません。しかし現代では、人々は科学技術を恐れている。だから「反キリスト」や「世界統一国家」は、「科学技術の統制」を約束することで権力を握る。科学技術を阻止し、制御するには、世界が一つになる必要がある、と訴えるわけです。
「終末論的な歴史観」の起源
会田 そもそも今日の世界において、キリスト教はいかなる意味をもっているとお考えですか。
ティール キリスト教やユダヤ教には、「不可逆な一度きりの世界史」という視点があります。旧約聖書のダニエル書の預言者ダニエルは、ある意味で「最初の歴史家」です。彼によれば、四つの帝国が順に現れ、ローマ帝国が最終的な帝国として世界史に登場します。一度きりの世界史的次元がそこにある。さらに聖書が記している「黙示録」の側面もあります。だから、私たちが常に考えるべきなのは、今の時代の「特異性」と「独自性」です。
「事態は常に、良くなると同時に悪くもなっている」と語ったのは、20世紀前半を代表する新トマス主義者だったジャック・マリタンでした。「20世紀は19世紀よりも偉大であると同時に、より恐ろしい時代だった」というような捉え方です。つまり、歴史にはある種の「歴史的次元」が存在し、永遠の循環ではない。
そこで私はこう考えます。もし21世紀が20世紀よりもはるかに恐ろしい時代になったら、おそらく20世紀以上に偉大な時代にはなり得ないだろう、と。つまり、物事が良くなると同時に悪くなっていくなかで、どこかの時点で「終わり」を迎える可能性がある。これこそが私が重視する「歴史的次元」です。
キリスト教には「終末論的な歴史観」が常に存在していましたが、近年は軽視され、あまり語られなくなってしまいました。カトリックの伝統では、アドヴェントと呼ばれるクリスマス直前の四つの日曜日に、教会で「世界の終わり」について説くのが習慣でした。1年の終わりを迎えるこの時期に、「もしかしたら今年が世界の終わりかもしれない」「収穫の秋は訪れないかもしれない、さらには春の来ない冬になってしまうかもしれない」「いずれクリスマスも来なくなるかもしれない」「いかなる『再生』もなくなってしまうかもしれない」という説教がおこなわれていたのです。
※本記事の全文(約11500字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と「文藝春秋」2026年5月号に掲載されています(エマニュエル・トッド×ピーター・ティール「世界は終末を迎えているのか〈東京極秘対談〉」)。全文では、以下の内容について詳しく語られています。
・“統計学的例外”としてのティール氏
・イラン攻撃は「目くらまし(陽動作戦)」
・全体を俯瞰するトッド歴史学 ・『ワンピース』が描く“怖さ”とニヒリズム
(エマニュエル・トッド,ピーター・ティール/文藝春秋 2026年5月号)
