日本では「子どもを持たない」のが経済合理的だという現実…少子化対策「30年の失敗」を招いた「3つの根本原因」
過去30年にわたり多くの対策が講じられているにもかかわらず、食い止められない日本の少子化。今後、どのような対策を考えていくべきなのか。そして、移民の受け入れは必須なのか。登録者数100万人超の人気YouTubeチャンネル「大人の学び直しTV」のすあし社長が解説する。
※本稿は、すあし社長『この国の「なぜ?」が見えてくる日本経済地図』(かんき出版)の一部を再編集したものです。また、2025年12月時点の日本経済、世界情勢に基づいて執筆しています。
効果が限定的だった数々の少子化対策
日本の少子化は国家の持続可能性を問う「構造的な危機」の段階に達しています。
団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる「2025年問題」が現実のものになり、社会保障費の急速な増大と生産年齢人口の大幅な減少が同時に進行しています。この厳しい状況の背景には、過去30年にわたってくり返されてきた少子化対策の効果が限定的であったという事実があります。
問題は政策が存在しなかったわけではない点です。つまり、数多くの対策が打たれてきたにもかかわらず、出生率は長期的な低下トレンドを脱していません。その理由は政策の「ターゲット設定の不十分さ」と「投資規模の相対的な小ささ」にあります。
なぜ、このようなことが起こったのか。検証していきましょう。
日本の家族関係社会支出は、長い間、対GDP比で欧州諸国と比較して低い水準にとどまってきました。経済協力開発機構(OECD)の統計によれば、一時は出生率の回復を実現したフランスやスウェーデンは対GDP比で3%を超える予算を投じてきたのに対し、日本は2020年代初頭まで1%台後半から2%弱で推移してきました。
20年代半ばになり、ようやく予算の拡充が図られましたが、人口動態を即座に反転させるにはタイムラグが存在し、長期的な取り組みが必要です。
しかし、問題の本質は金額だけではありません。より重要なのは予算の配分構造、つまり「誰に、どのようなかたちで支援するか」という設計思想が、欧州の成功モデルと異なっていた点です。
フランスでは支援の対象が「全世帯」に開かれています。所得制限はなく、事実婚のカップルも含まれます。税制面ではN分N乗方式が採用され、世帯の人数で所得を割った金額に課税するため子どもが多いほど税負担が軽くなります。
さらに保育サービスは多様で安価、PACSと呼ばれる民事連帯契約によって、法律婚にこだわらないカップルや婚外子にも権利が保障されています。ただし、これらの手厚い支援は消費税率20%といった高い国民負担率によって支えられているという側面も見逃してはなりません。
一方、日本の政策は長らく「子育て世帯」への福祉的側面に重きを置き、法律婚を前提とした制度設計が中心でした。
長年にわたり所得制限が設けられていたこと(24年にようやく撤廃)も、中間層の支援感を薄れさせる要因になりました。税制優遇は配偶者控除や扶養控除にとどまり、効果は限定的との指摘もあります。
こうした違いが生まれた背景には、政策が「子育て支援(福祉)」と「少子化対策(未来への投資)」を明確に区別し切れていなかった可能性があります。児童手当の拡充や保育料の無償化は「既に生まれた子どもへの支援」としては正当です。
しかし「これから子どもを生もうとする層」が直面する障壁を取り除く「少子化対策」としては、婚姻数の減少という根本課題へのアプローチが不足していました。
若年層が子どもを持つことを躊躇する最大の要因は結婚や出産に至る前段階にある「経済的基盤の不安定さ」と「将来の教育費負担への懸念」です。既存の世帯に現金を配るだけの政策では、未婚化・晩婚化という根本原因に対して十分な効果を発揮しえなかったのです。
政策が効果を発揮しなかった3つの理由
なぜ、世界的に類を見ないほど、ここまで効果がなかったのでしょうか。
その根本原因の一つ目が、経済環境と雇用の問題です。
未婚化を加速させた要因の一つが、90年代のバブル崩壊以降に進んだ雇用の非正規化です。労働市場における「正規」と「非正規」の二極化は、特に若年男性の婚姻率に相関があると言われています。
非正規雇用者は賃金が低いだけでなく、雇用が不安定で長期的な生計維持の見通しが立ちません。「結婚生活には安定した収入が不可欠だ」という根強い社会通念のなかで、非正規雇用の層は事実上、結婚から距離を置かざるを得ない状況にありました。
政府は労働市場の流動化を推進する一方で、セーフティネットの整備や「同一労働同一賃金」の浸透に時間を要しました。その結果、「低所得・不安定雇用」の層が固定化されました。これが第二次ベビーブーム世代である団塊ジュニアが出産適齢期を迎えた時期の少子化を決定づけ、人口構造の変化を不可逆的なものにしました。
根本原因の二つ目が、「ジェンダー・ギャップ」という構造的な障壁です。
日本は世界経済フォーラムの「ジェンダー・ギャップ指数」において、先進国のなかで著しく低い順位に低迷し続けています。その実態は、労働市場における女性の活躍が進んだ一方で、家庭内の役割分担が既存モデルから脱却できていないことにあります。
共働き世帯が専業主婦世帯を大きく上回るようになった現在でも、家事・育児の負担には依然として偏りが見られます。多くの働く人々にとって、結婚・出産は「キャリアの停滞」や「長時間労働と育児の二重負担」といったリスクを意味するものです。
固定的な性別役割分担や長時間労働を前提とした働き方が残る限り、キャリア形成期にある世代にとって、子どもを持つことは「大きな機会損失」を伴う選択となってしまいます。金銭的な支援だけでなく、この「キャリアと育児のトレードオフ」を構造的に解消しない限り、出生率の反転は望めないのです。
子どもを持たないことが経済合理性になっている
根本原因の三つ目は、教育費の問題です。
子育ては私費負担の割合が高い構造になっています。OECDの加盟国のなかで日本は教育機関への公的支出の割合が比較的低い国の一つです。
特に高等教育にかかる費用は家計にとって重い負担です。「子どもを大学まで出すには一人あたり数千万円が必要だ」という認識が広く定着し、この高額な教育費が二人目、三人目の子どもを持つことを躊躇させる「二人目の壁」として機能しています。
若年層の多くが貸与型奨学金、つまり事実上の借金を抱えて社会に出ている現状では、自身の返済負担に加えて将来の子どもの教育費を貯蓄することのハードルは、極めて高いものがあります。
教育費が家計を圧迫する現状は、次世代を育てようとする意欲に対する、事実上の「経済的ペナルティ」として機能してしまっている側面は否めません。
つまり、子どもを持つことがリスクになり、持たないことが経済合理性になってしまう。この倒錯したインセンティブ構造を是正し、子育てが社会的な希望となるような支援体制へ変革しない限り、少子化の流れを変えることは困難です。
さらに、少子化は経済にどのような影響をもたらすのでしょうか。くわしくは後編記事〈少子化が招く「自治体消滅」と「人口のブラックホール」東京…「移民政策」抜きに日本の未来を描くなら〉でお伝えします。
