「やはり検察がメンバーを選んでいた」再審見直しに批判相次ぐ法制審、開示文書から浮かぶ“出来レース”の構図
刑事裁判をやり直す「再審」制度の見直しを議論した「法制審議会・刑事法部会」の委員らについて、検察官である法務省刑事局長が候補として示した有識者が、そのまま選ばれていたことが、法務省への開示請求で入手した文書からわかった。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
法制審がまとめた見直し案には、検察官による不服申し立て禁止などが盛り込まれず、「冤罪被害者を救えない」などの批判が集まっているが、刑事局長が指定した委員は全員がこの見直し案に賛成していた。
検察官の人事に詳しい熊本大学の岡本洋一准教授は「うわさでは聞いたことがあったが、実際の文書を見ると、やはり検察官である刑事局長が法制審の委員・幹事を事実上選んでいたのかということがわかる」と話す。
●昨年12月「委員の選定経緯がわかる文書」を開示請求
弁護士ドットコムニュースは2025年12月、再審制度の見直しを議論している「法制審・刑事法部会」の委員や幹事、事務方の職員について、選ばれた理由や経緯、選定基準などがわかる文書を法務省に開示請求した。
1回の開示期限延長をはさんで、2026年3月下旬、法務省から以下の文書が開示された。
・令和7年度法制審議会人事異動
・法制審議会刑事法(再審関係)部会の臨時委員等の任命手続等に係る依頼文書
・法制審議会刑事法(再審関係)部会の関係官の出席に係る依頼文書
・法制審議会刑事法(再審関係)部会の臨時委員の解任及び任命手続等に係る依頼文書
・法制審議会刑事法(再審関係)部会の幹事の解任及び任命手続等に係る依頼文書
●刑事局長が選んだ候補者→そのまま委員らに任命
この中に「法制審議会の部会の臨時委員等の任命手続等について(依頼)」と題された文書があり、法務省刑事局長の森本宏氏(肩書は当時)が2025年4月4日付で、法務省大臣官房司法法制部長の松井信憲氏(同上)に対し、次のような記載のある文書を送っていた。
<法制審議会第202回会議において設置が決定された法制審議会刑事法(再審関係)部会に所属させるよう、下記のとおり発令するための手続及び調査審議部会の指定について、よろしくお取り計らい願います。なお、下記候補者本人の内諾を得ていることを申し添えます>
また、法務省が「令和7年度法制審議会人事異動」として開示した文書の中には、「法制審議会刑事法(再審関係)部会における調査審議への参画について(依頼)」と題された2025年4月7日付の文書があった。
そこには、刑事局長が挙げた候補者の所属大学などに対し、司法法制部長名で部会への参加を依頼する内容が記されていた。
そして、これらの候補者は全員、その後、法制審の委員や幹事として法務大臣に任命されていた。
これらの文書からは、法務省刑事局長がピックアップした有識者が、そのまま法制審の委員や幹事に就いている実態が読み取れる。
●問題視される「検察幹部によるメンバー選び」
再審制度の見直しを議論する部会は、「部会長」1人、「委員」13人、「幹事」9人、「関係官」2人の計25人で構成される。
このうち、2025年4月4日付の文書で刑事局長が候補者として名前を挙げ、その後、実際に就任した人物は16人(委員1人、臨時委員8人、幹事7人)いた。
一方、最高裁と日弁連には推薦を依頼する形式がとられており、両組織から臨時委員と幹事を合わせて計7人が加わった。
ここで注目されるのは、刑事局長の森本氏が検察官出身であり、刑事局長に就任する直前まで最高検刑事部長を務めていた点だ。
つまり、冤罪を生み出してきた側である検察組織の幹部が、冤罪防止の制度設計を議論するメンバーの多くを選んでいる構図が浮かび上がる。
●冤罪被害者らから「改悪」の声相次ぐ
再審制度をめぐっては、静岡県の袴田巌さんや福井県の前川彰司さんなどの冤罪事件が相次ぎ、法改正を求める声が強まっている。
2024年3月には、超党派の国会議員による「議員連盟」が発足し、証拠開示の制度整備や、再審開始決定に対する検察側の不服申し立て禁止などを盛り込んだ改正案をまとめた。
すると、法務大臣の諮問機関である「法制審議会」も2025年4月に議論を開始。急ピッチで進め、2026年2月に見直し案を取りまとめた。
しかし、法制審の案には、全面的な証拠開示や検察官の不服申し立て禁止が盛り込まれなかった一方で、開示された証拠の「目的外使用」を罰則付きで禁じる規定が明記されるなど、冤罪被害者らから「改悪だ」などの批判が相次いでいる。
●刑事局長が依頼した8人全員が法制審案に賛成
こうした経緯を踏まえて、改めて法制審のメンバーを見てみる。
法制審の見直し案について、採決に参加した委員13人のうち、反対したのは日弁連が推薦した弁護士の3人だけ。
賛成した10人のうち、学者5人はすべて刑事局長が候補として示していた人物だった。これに刑事局長、警察庁刑事局長、東京高検の検察官が加わり、残る2人は最高裁が推薦した裁判官だった。
法制審の議論に対しては「結論ありきだ」という批判が根強いが、こうしたメンバー構成に偏りがあることが背景にあるといえそうだ。
●研究者「うわさが裏付けられた」
岡本准教授は、刑事手続の立法過程に検察が法務省を通じて強く関与する状況を「検察官主導型の刑事司法(広い意味での検察官司法)」と捉え、その影響を研究している。
今回の文書について、次のように評価する。
「学会のうわさとしては聞いたことがあったが、実際にこの文書を見ると、やはり検察官である刑事局長が法制審の委員・幹事を事実上選んでいたということがわかる。それが裏付けられただけでも大きな意味があります」
●「検察官司法に手を貸しているのは学者」
さらに、再審法に関する研究実績のある学者が法制審の委員・幹事に選ばれていない点について、こう指摘する。
「現在の再審制度を研究すればするほどその不合理性がわかってくるはずですが、そういった研究をしている者は選ばれず、再審以外の刑事手続を重視する学者をわざと選んでいるのではないかと疑ってしまいます。なぜ再審制度を研究し、論文や著作を書いている人が選ばれないのか、『検察官(法務省)の言いなりにならないから』としか考えられません」
一方で、「すべてを検察官(法務省)のせいにするのも違うと思います。検察官司法に手を貸しているのは学者出身の委員・幹事です。委員・幹事に選ばれた学者たちが検察官(法務省)のシナリオ通りに動いているから今のような状況になっていると思います」とも語る。
「法制審の見直し案は答申されましたが、まだ与野党の超党派による議員立法成立に向けて頑張っている議員たちもいます。今後は議員立法による再審法改正に期待するしかありません」

