「水をたくさん飲むほど体にいい」という考え方が広まっている。西洋医学と東洋医学に詳しいイシハラクリニック副院長の石原新菜さんは「漢方医学的な考えでは、水を取りすぎると“毒”になるととらえている。実際、水の摂りすぎが腎臓にダメージを与えることがある」という――。(第3回/全3回)

※本稿は、石原新菜『体温を1度上げると不調はすべて解消する』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■水分の摂りすぎは漢方医学的に「毒」

いつの頃からか、「水はたくさん飲めば飲むほど体にいい」という認識が広まっているようです。

私のクリニックの患者さんの中にも、「健康のために、水分はしっかり摂っています」とおっしゃる方は少なくありません。ダイエット、熱中症対策、血液サラサラのためなど、始めたきっかけはさまざまのようです。

でも、漢方医学的な考えでは、水の摂りすぎはNGです。水は体を冷やして血管を収縮させ、さまざまな不調を引き起こす原因になると考えるからです。

写真=iStock.com/mesh cube
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mesh cube

■過ぎたるは及ばざるが如し

「水をたくさん飲んでいます」という方に限って、水分の摂りすぎが明らかに不調の原因となっていることは少なくありません。

植物に水を多くやりすぎると根腐れしてダメになってしまうように、人間にも適度な水分バランスがあります。体の中に余分な水分が溜まっている状態を、漢方では「水毒(すいどく)」といいます。

水は人が生きるためになくてはならないものですが、摂りすぎてしまうと「毒」になってしまうということですね。

■水分の摂りすぎで腎臓がダメージを受けることもある

水の摂りすぎで起こる問題のひとつに、腎臓がダメージを受けてしまうということがあります。腎臓は尿の排出量を調節して、体内の水分量を一定に保つ機能を持っています。

しかし、体が冷えて血行が悪くなると、腎臓の機能が低下して、次のような悪循環に陥(おちい)る危険性が出てきます。

?水分の排出ができなくなる
?体内に水分が溜まる
?体がさらに冷えてもっと血行が悪くなる
?腎臓の機能がますます低下する
?体内にもっと水分が溜まる

もちろん、運動をして汗をかき、摂った水分がそのまま排出されれば問題はありません。でも、現代人が普通に生活をしていて、摂取した水分量と同等の汗をかくほど体を動かすことはまずありません。

■暑い夏は「冷たい飲料」の過剰摂取になりやすい

「夏は汗をかくから水分補給が大切だ」と思う方もいらっしゃるかもしれません。特に近年の猛暑では、熱中症を予防するために水分補給は欠かせないでしょう。

でも、エアコンが完備された室内で、むやみに冷たい水や清涼飲料水を飲んでいたら、それは明らかに水分の摂りすぎ、体の冷やしすぎです。これが夏バテの原因となることも少なくありません。

仮に常温や温かいものでも、飲みすぎればやはり腎臓に負担がかかり、摂り入れた水分量を排泄しきれなくなってしまいます。

頻繁にトイレに行けばいいという考えも、正しくありません。1日に10回以上トイレに行くという方は1回の排泄量が少ない場合が多く、体内に余分な水分が溜まっていることが少なくありません。

■水の摂りすぎが原因の不調・疾患

水の摂りすぎが原因と考えられる不調や疾患は、次のように多岐(たき)にわたります。

関節痛・頭痛・腰痛などのさまざまな痛み
肩こり
めまい・耳鳴り
動悸(どうき)・息切れ
不眠・イライラ
中高年の女性に多い不定愁訴(ふていしゅうそ)
アトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎
湿疹・喘息(ぜんそく)などのアレルギー疾患
リウマチや膠原病(こうげんびょう)などの自己免疫性疾患

また、余分な水分を水疱にして排出する帯状疱疹(たいじょうほうしん)、内耳のリンパ液が過剰になることによって起こるメニエール病、脈を速くして体温を上げて水分を消費しようとする不整脈や頻脈も同様です。

■十分に水分を摂っているはずなのに喉が渇く危険性

逆に、十分に水分を摂っても喉が渇くようであれば、注意が必要です。

石原新菜『体温を1度上げると不調はすべて解消する』(プレジデント社)

これは、体内に水分はあるけれど、ほとんどの水分が胃腸に集まってしまい、必要な部分に届いていない状態です(漢方では、この状態を水毒の症状のひとつ「水の偏在」と捉えます)。

そのために、本能的に体が渇きを覚え、「もっと水を飲みたい」という欲求が起こっているのです。

ところが、いくら水分を摂っても、体がうまく水分を吸収できていないので、喉が渇いているサインは止まりません。

そんなときこそ水分を摂るのをできるだけ控え、体を温めることで、水分を運ぶ血液の流れをよくすることが大切です。

■「なんとなく不調」の原因は「冷え」と「水」

私のクリニックに「なんとなく不調」を抱えて来院される方の中には、事前に診察を受けた病院で、「慢性疲労症候群」や「自律神経失調症」などの病名を告げられたり、西洋医学的には「原因がよくわからない」という診断を受けた方も少なくありません。

漢方医学では、これらの症状を「水毒」と診断します。これらの「なんとなく不調」の原因が「冷え」と「水」であることは明らかだからです。

今や、多くの方が運動不足で、パソコンやスマホの画面を見つめ、水分をたくさん摂り、サラダなどの体を冷やす食品(詳しくは拙著『体温を1度上げると不調はすべて解消する』参照)を好んで食べる、といった生活を送っています。

このごく普通の生活が、知らず知らずのうちに体を冷やし、それによって、血行が悪くなって、代謝が下がる→排泄が滞る→体内に水分が溜まる→溜まった水分でさらに体が冷える、という悪循環に陥っているのです。

■「交感神経」と「副交感神経」

寒さで体温が下がってくると、熱を逃がさないように皮膚の血管が収縮します。逆に、体温が高いときは、皮膚から熱を発散しやすいように血管が拡張します。

こうした血管の拡張や収縮を司るのが「自律神経」です。自律神経は体温や心拍、血圧、ホルモン分泌など、私たちが生きるうえで欠かせない生命活動をコントロールしています。

自律神経には、「交感神経」と「副交感神経」の2種類があります。

交感神経は血圧や心拍を上げ、手足の血管を収縮させて体の中心に血液を集め、1日の活動に備えて体を“戦闘モード”にします。副交感神経は、逆の働きで、血圧や心拍を下げ、血管を広げて血流を高め、体を“リラックスモード”にするのです。

この2つの自律神経は常にどちらかが優位になることで、アクセルとブレーキのように働いてバランスをとっています。

■ストレスが「冷え」を引き起こす

「交感神経」が優位になると、血流が悪くなって、末端の毛細血管へ血液が行き渡らず、冷えにつながります。交感神経優位のスイッチとなるのが「寒さ」と「冷え」ですが、実は「ストレス」も同様に作用します。

体に何らかのストレスがかかると、外気の温度に関係なく交感神経が緊張し、「アドレナリン」というホルモンが分泌されて血管が収縮し、体が冷えてきます。

この状態が続くと血液中に糖質や中性脂肪、コレステロール、尿酸、老廃物などが溜まって、むくみやすくなったり、疲れがとれにくくなることがあります。免疫力も低下し、さらに、脳の血流が低下すると思考力も落ちるため、心の健康にも影響するなど、さまざまな不調の原因になるのです。

現代というストレス社会の中で生きている私たちが健康を維持するためには、自律神経のバランスを整えて、リラックスの神経である「副交感神経」を優位にする必要があります。

また、自律神経の働きと血流との関係は、逆の関係も成り立ちます。ストレスなどによって引き起こされる自律神経のバランスの乱れが血流を悪化させるだけでなく、血流の悪化が自律神経のバランスを乱す原因にもなるということです。

写真=iStock.com/byryo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/byryo

体温を上げて血行をよくすれば自律神経のバランスが整いやすく、副交感神経が適切に働くようになれば、血流を健やかな状態に保ち、体を温めることができるという好循環につながるのです。

■体温を1度上げるだけで病気知らずの体になる

私たちの体がいかに「冷え」の影響を受けているのか、おわかりいただけたのではないでしょうか。

しかし、体温を1度上げるだけで不調や病気知らずで、毎日を元気に過ごすことができるようになります。特別な方法や治療は必要ありませんから、こんなにすばらしいことはありません。

そのための温活の具体的方法は、拙著『体温を1度上げると不調はすべて解消する』をぜひご参照ください。

「冷え」は、気づかない人が多いだけでなく、我慢できてしまう症状でもあります。だからこそ、不調や病気として現れる前に、自分の体と心の状態を知って、しっかりと温めてあげてください。

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石原 新菜(いしはら・にいな)
イシハラクリニック副院長・内科医
医学生の頃から、自然医学の泰斗で医学博士の父、石原結實とともに、海外で自然医学の基礎を養う。現在は、父の経営するクリニックで漢方薬処方を中心とする診療を行うかたわら、テレビ・ラジオへの出演や、執筆、講演活動などを積極的に行う。著書に『病気にならない 蒸しショウガ健康法』(アスコム)、『やせる、不調が消える 読む冷え取り』(主婦の友社)、『体温を1度上げると不調はすべて解消する』(プレジデント社)など多数。
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(イシハラクリニック副院長・内科医 石原 新菜)