サザンオールスターズの”陰”の歴史も明らかにーー『いわゆる「サザン」について』が描く、ヒット作の裏側

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 今年デビュー46周年を迎えたサザンオールスターズ。半世紀近く活動を続ける彼らだが、今年も新曲のリリースや夏フェスへの出演、そして今冬には16枚目となるオリジナル・アルバムのリリースを予定していることも発表。精力的に活動を続けている。

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 そんなサザンオールスターズの46年間の軌跡を辿る評伝『いわゆる「サザン」について』が8月21日に刊行となった。著者はこのReal Soundでもライターとして記事の執筆を、特にサザンオールスターズ関連の記事も多数担当している音楽評論家の小貫信昭。小貫とサザンオールスターズの縁は長く、実に40年以上にわたってメンバーの言葉を聞き続けてきた。そんな小貫だからこそサザンの歴史を網羅するような1冊になっている。

 1978年に『勝手にシンドバッド』で鮮烈なデビューを果たし、その後も国民的と称される楽曲を世に放ち続けてきたサザンオールスターズ。どこかお調子者で愛されるキャラクターという印象のあるサザンや桑田佳祐だが、その歴史は決して明るいばかりではない。本書はそんなサザンオールスターズにおける”陰”の歴史にも正面から対峙している。

 例えば、ライブにおける衝撃的なライブパフォーマンスが度々話題となる桑田佳祐だが、実は本人としてはライブに対する苦手意識を抱えていた時期もあったことが本書には記されている。桑田の音楽の原点であるThe Beatlesの『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』のようなスタジオでの音楽制作こそが元来の理想であったというエピソードは、まさに桑田のパブリックイメージからは思いもよらないひとつの”陰”の部分とも言えるだろう。他にも、90年代後半には桑田の飲酒量が増え、本人曰く「依存症の一歩手前までなりかけた」という。大病を克服し、70歳を目前に控えた今も野外ライブなどを精力的にこなしつづける桑田の健康的なイメージからは想像もつかないエピソードだ。こうした桑田のパーソナルな部分にも迫っているのは本書の魅力のひとつだと言えるだろう。

 そして本書はサザンオールスターズというバンドのセールス面についても赤裸々にスポットを当てる。例えばサザンとして最大のヒット作である『TSUNAMI』は、その直前にリリースしたシングル『イエローマン ~星の王子様~』のセールスが芳しくなかったこと、そんな状況に対し桑田が思い悩んでいたこと、その姿を見たスタッフの力添えもあって『TSUNAMI』がヒットしたことが桑田自身の言葉と共に収録されている。同様に80年代、まだまだデビューしたばかりでありながらも『勝手にシンドバッド』や『いとしのエリー』といった象徴的な作品を作り出してしまったサザンが一度音楽性を突き詰めようとレコーディングに専念し、テレビから離れた結果、ヒット曲から遠ざかることとなる。そんな中で再びテレビのド真ん中でヒット曲を生み出そうと制作された『チャコの海岸物語』のエピソードなど、サザンのセールスにおける歴史を通して”ヒットソング”と“音楽的な充実”の合間でシーソーのように行き交い続けてきたサザンの音楽家としてのバランス感覚も垣間見えるのだ。

 もっとも、こうしたパーソナルな部分やセールスにおける起伏、ひいてはサザンオールスターズの”陰”の部分はあくまでも本書の狙いであるサザンオールスターズの膨大な作品のひとつひとつの誕生の真実に迫るというテーマを追う中で結果的に表出したものだと言える。あくまでも本書の主役はサザンオールスターズの作品であり、本書の出版元である水鈴社の公式noteに小貫が寄せた刊行記念の特別寄稿で、小貫は本書を〈「サザンオールスターズ」というバンドそのものに対する、言わば長文の”ライナーノーツ”である〉と示している。その言葉の通り、サザンオールスターズの46年間に渡る膨大な歴史を時系列に沿って丁寧に紐解きながらも、ひとつひとつの楽曲やライブについて小貫が実際に桑田から取材した言葉を引用すると共にリファレンス先を考察し時代背景を解き明かすことで、サザンオールスターズが大衆音楽を作り続ける矜持を感じられるのだ。

 本書の終章には、刊行に際し桑田が小貫に寄せたメッセージが記されている。そこには46年間音楽シーンの第一線で活躍してきたバンドのフロントマンの言葉にしては、あまりにも自身を卑下するようなフレーズが並んでいる。小貫自身、そこまで謙遜することは無いのでは、と記しているほどである。その言葉はぜひ本書を手に取って読んでいただきたいが、ここに記された活動における桑田のポリシーこそ、サザンオールスターズが46年間第一線で活躍し続けてきた理由だ。メインストリームであるようで、常にカウンター。しかしそのパワーで傍流を本流にし続けてきたサザンオールスターズのこれまでの轍をぜひ本書で味わい尽くすと共に、この先も続くサザンの未来に思いを馳せて欲しい。

(ふじもと)