【環境激変の時こそ、 “土を耕し、種を播くこと” から─】 味の素社長・藤江太郎の「根っこは共通のアミノサイエンス」論
要は『志×熱×磨』である。
自分たちの強みをいかに強くするか
時代の転換期を生き抜くには、自分たちの強さ、潜在力をいかに掘り起こしていけるかどうかが重要。改めて、味の素が持つ強さとは何か?
1909年、同社はうま味調味料の『味の素』を発売以来、『味の素』を構成するグルタミン酸というアミノ酸の働きを追求してきた。世界各国・各地域にAjinomotoとして進出、その国や地域の台所に浸透し、調味料メーカーとしての知名度は高い。
同時に、この『味の素』を製造する際に出てくる副産物を利用して、絶縁機能を持つ樹脂を生産するメーカーという顔も持つのが同社のユニークなところ。
半導体製造に欠かせない絶縁材料ということで、今、この電子材料の業績が好調だ。
2022年3月期で見れば、食品・調味料から生まれる利益が全体の3分の2、アミノサイエンス(アミノ酸事業)のそれは3分の1を占めている。
後者の事業は2023年3月期も伸び続けており、このまま行くと、2030年度には両事業の生み出す利益は半々になる見通しである。
食品と電子材料─。一見、関係がないように見え、同社も半導体関連の絶縁材料を手がけているとは積極的に広報してこなかった。しかし、西井前社長時代の終盤、経営の舵を切る。
「根っこは一緒だし、これによって、将来性を味の素はもっと持つことになるわけだから、きっちりと社内のみならず、社外の方にもご理解を求めていこうということで、積極的に社内広報、社外広報をしていこうと舵を切りました」と藤江氏。
市場も、こうした動きを評価。同社の株価は長い間、バブル期の1987年(昭和62年)の3月に付けた4350円を更新できずにいた。それが昨年2022年)12月上旬、4573円を付け、35年ぶりに株価最高値を更新した。
食とアミノサイエンスの融合をもっと大事にした経営の付加価値を高めようと、藤江氏は人事の仕組みも刷新。
アミノサイエンスの経験が長い正井義照氏を食品事業本部長に据え、食品事業に長けている前田純男氏をアミノサイエンス事業本部長に据えるというタスキ掛け人事を実行した。
「根は一緒だということ。ですから、自分たちの中で、心の壁をつくらない。心のサイロをつくらないで、いかにお互いが統合して、いいところを学び合って、お客様にご提案していくかということだと思います」
入社後、一番辛かったこと 逆に、嬉しかったこと
藤江氏が1985年に入社して38年が経つわけだが、この間一番苦しかったことは何か? の問いに「当社は1990年代の半ばから後半にかけて、大変お恥ずかしい事件を起こしています」と藤江氏は語る。
1つはリジン(アミノ酸の1つ)のカルテル事件を米国で起こしたこと。そして、総会屋への利益供与事件である。
当時、藤江氏は30代で労働組合の専従をやっており、当時は副委員長という役職にあった。
「当時、経営を健全にしてもらっているかどうかを、現場目線でしっかりチェックするんだというようなことを組合員に言いながら、一緒にやっていたにもかかわらず、こういう世間にご迷惑をかけるような事件を起こしたりして、一番組合員が悲しんだんですね。また、家族に対しても恥ずかしいと。組合の執行部は何をやっているんだということで、当然のことながら叱責をいただきました」
当然、総辞職も考えたが、今辞職するよりも、しっかりと組合の仕事をして、経営が健全になった後、全員で辞めるということもあるのではないか─という判断で副委員長職を続けた。
