藤江氏は、『労使が企業の発展のなかで労働条件の向上を図る』という労働協約を引き合いに、「例えばボーナスの算定も、企業業績が良くなれば、多くもらえるし、そうでなければ厳しいというスタイルというのは1つの原点だなと思うんですね」と語る(インタビュー欄参照)。

 国や地域によって、文化や習俗、そして言語などは異なるが、生きていく上での拠点である企業が良くならないと、「いろいろな可能性が大きくならないし、増えていかない」ということ。このことは、どの国や地域においても共通する認識だと藤江氏は語る。


受け継ぐべきものと変えるべきもの

 経営の基本として、受け継ぐべきものと、変えていくべきものがある。まず、受け継ぐべきものとして、藤江氏は『ASV経営』を挙げる。

 ASV(Ajinomoto Group Creating Shared Value)。味の素グループで共有する価値観ということだが、このことについて、藤江氏は「社会課題を解決しながら、経済価値、つまり利益も出させていただくこと」と語る。

 自分たちの事業を通じて、社会課題を解決していく。そのことで企業は利益を得て、自分たちの存続を図る。そして利益を大きくしていければ、さらに多くの社会課題を解決していくことができる。その方向に向かおうというASVの骨子。このことをしっかり受け継いでいこうということ。

 それには何が必要か?

「志と志に向けた社員の熱意、そして1人ひとりが実力を磨き込むこと。これをわたしたちは、『志×熱×磨』と言っています」

〝志〟と〝熱〟、そして〝磨く〟の乗数が企業の成果として現われるという考えである。

 一方、変えるべきものとは何か? 藤江氏は変えていくこと、また進化させていくものとして、『スピードアップ×スケールアップ』という考えを示す。

 海外でグローバル企業と戦ってきた経験を踏まえ、自らの企業も含めて日本企業の課題として、「経営判断のスピード、そして実行のスピード」に課題があるという認識を示す。

 欧米などのグローバル企業と比べた場合、藤江氏は「まだまだ見劣りする」ことを、肌身をもって感じてきた。一方で、「一生懸命つくり込む力、そして現場におけるスピードは速い」という認識。

 となると、〝経営のスピード〟をいかに上げていくかという藤江氏の問題意識である。

 そうした氏の問題意識の下、100日間で成果を出す『100日プラン』、『ロードマップ』をしっかり描くもの、『課題を徹底的に洗い出すもの』の3つに分けて、自分たちが取り組む仕事を掲げてきた。

 そのような経営課題を明確にする作業に意欲的に取り組む中で、直面したのが製品価格の値上げ問題である。



製品値上げ、賃上げに

どう取り組むか

 コロナ禍、ウクライナ危機の中で、原材料価格や資源・エネルギーコストが上昇。これは全世界に共通する課題だが、欧米市場はともかく、日本国内は歴史的、伝統的に、製品値上げに〝抵抗〟する体質があり、そう容易に値上げが進まないという事情を抱える。

 そのことは、国内の賃金水準が1990年代初めにバブル経済がはじけて以降、ほとんど上がらずに来たということとも関連する。

〝失われた30年〟の間に、賃金は3%しか上がらなかったという分析もある。つまり賃金は30年間横バイだったということ。日本のGDP(国内総生産)は米国、中国に次ぐ世界3位ながら、1人当たりGDPでは27位という水準にとどまり、世界の中での存在感も弱まる。