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新型シビック・タイプRが盗まれた……

12月3日、山口県岩国市にある自動車販売店の駐車場にて納車されたばかりの新型シビックタイプRが盗難の被害にあった。

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13日にテレビのニュース番組がこの件を報道しており、駐車場に設置された防犯カメラがその一部始終を捉えていた。


盗難の被害にあったホンダ・シビック・タイプRは、自動車販売店の従業員が購入したばかりのクルマ。同販売店に設置された防犯カメラが盗難被害発生時の様子を捉えていた。盗難後、左フロントが破損した状態で乗り捨てられていたという。    ホンダ

報道によると、犯人の男は米軍海兵隊岩国基地に属する海兵隊員でクルマを盗んだあと事故を起こしそのまま放置し岩国基地に戻っていたという。

現場に設置された防犯カメラの映像を見ると、

・朝6時20分頃、1人でこの自動車販売店の敷地内に侵入

・敷地内に停めてあった販売店従業員所有のシビックタイプRの周囲をうろうろ。座って眺めたり、窓から車内をのぞき込んだり……

・販売店の事務所内にドアのガラスを足で蹴り割って侵入

・タイプRの鍵を探しだし、鍵を使ってタイプRのドアをあけエンジンをかける

・その後、単独事故を起こし、クルマを放置したままその場を離れる

・警察から所有者の男性に連絡があり、男性は納車されたばかりのタイプRが盗まれて事故を起こされたことがわかる

・警察からは「日米地位協定があるので、時間がかかるかもしれない」と告げられる

事件が発覚したのは、海兵隊員が基地に戻った後であるため、日本の警察は身柄を拘束することができなかった。

しかし犯罪を犯したこの隊員は岩国基地内で身柄を拘束されていると思われる。

クルマを盗んで事故を起こしたことが明らかになっているこの事件。今後、この海兵隊員にはどのような処罰が与えられるのだろうか?

また、米軍人が事件を起こしたときなどに必ず出てくる「日米地位協定」という言葉。これはどのような協定で、なぜ、事件解決に向けて「障壁」だといわれるのだろうか?

そもそも本当に「障壁」なのか? 壊されたシビックタイプRの損害は誰がどのような形で支払うのか?

事件解決の「障壁」? 日米地位協定とは

日本には計131か所の米軍基地が存在しており、在住している米軍関係者の数は約10万人とされている。

米軍関係者の法的地位等は日米間で結ばれた「日米地位協定」によって定められている。


MARINE EXPEDI TIONARY FORCE MARINE CORPS INS T ALLATIONS/PACIFIC(海兵隊遠征軍/太平洋)が作成している、【HOW SOFA WORKS (Off-Duty Incidents)】(公務以外で起こった事件に対して日米地位協定はどのように作用するのか)という内容の資料に日米地位協定について詳しく書かれている。

外務省の公式サイトでは以下のように定義されている。

日米地位協定

日米地位協定は、日米安全保障条約の目的達成のために我が国に駐留する米軍との円滑な行動を確保するため、米軍によるわが国における施設/区域の使用とわが国における米軍の地位について規定したものであり、日米安全保障体制にとって極めて重要なものです。

協定はどのように作用?

米軍関係者が日本国内で日本人に対して被害を与えるなどの犯罪をおかした際、この協定はどのように作用するのか?

日本では残念なことに、一部の報道によって「米軍人が罪を犯しても日米地位協定によって守られるので、刑罰も受けず、また損害賠償もされない。そのうちアメリカに逃亡して被害者泣き寝入り……」などの誤った認識が広まっているがそれは絶対にありえない。

MARINE EXPEDI TIONARY FORCE MARINE CORPS INS T ALLATIONS / PACIFIC(海兵隊遠征軍/太平洋)が作成した【HOW SOFA WORKS(Off-Duty Incidents)】という資料によると、

「問題が生じた場合には日米両国の法制度によって処分」

「場所や犯罪の内容にかかわらず正義は守られる」

「米国の刑罰は一般的に日本の刑罰より厳しく米国軍事法はさらに厳しい」

と書かれている。

具体的な最高刑の違い

具体的に最高刑の違いも紹介されており、今回の事件に当てはめてみると……。

家宅侵入・不法侵入

1年(日本)、5年(米国法・米国軍事法)

器物損壊

3年(日本)、10年(同)

なお、肝心な「窃盗」についてはいずれも10年だが、日本では被害総額20億円の自動車盗でもせいぜい6〜7年であるのに対して、米国では2万ドル以上の被害で10年となっている。

新車のシビックタイプRは当然2万ドル(280万円)以上の被害となるため窃盗に関しては最高刑の10年が適用されるだろう。

外務省、米軍人の犯罪どう考える

外務省の公式サイトにある「日米地位協定Q&A」から一部を紹介してみよう。

ーー米軍人が日本で犯罪を犯してもアメリカが日本にその米軍人の身柄を渡さないというのは不公平ではないですか?


米海兵隊岩国航空基地の部隊や組織    米海兵隊岩国航空基地

「米軍人等が公務外で罪を犯した場合であって、日本の警察が現行犯逮捕等をおこなったときには、それら被疑者の身柄は、米側ではなく、日本側が確保し続けます」

「被疑者が米軍人等の場合で、身柄が米側にある場合には、日米地位協定に基づき、日本側で公訴が提起されるまで米側が拘禁をおこなうこととされています」

「しかし、被疑者の身柄が米側にある場合も、日本の捜査当局は、個別の事案について必要と認める場合は、米軍当局に対して、例えば被疑者を拘禁施設に収容して逃走防止を図るよう要請することもあり、米軍当局はこのような日本側当局の要請も含め事件の内容その他の具体的事情を考慮してその責任と判断において必要な措置を講じています」

ーー米軍人が事故などで日本人に怪我をさせても、米軍人は十分な財産を持っていなかったり、転勤してしまったりで被害者が泣き寝入りするケースが多いというのは本当ですか。

「日米地位協定では被害者救済の観点から公務外の米軍人等の行為などから生じる損害の賠償請求の処理について規定しており、被害者の便宜を図るため日本政府が補償金を査定し、米国政府との間で補償金支払いの調整をおこないます」

「被害者が民事訴訟を提起することも当然のことながら可能です。更に平成8年以降、日本にいるすべての米軍人、軍属及びそれらの家族を任意自動車保険に加入させる措置をとり加えて被害者の必要経費を米政府が前払いする制度、米国政府の支払い額が民事訴訟での判決額を下回った場合に日本政府が差額を補填する制度などが導入されています」

日本で罪を犯した米軍人は「不名誉除隊」

では、今回のような事件の場合、実際に米軍内ではどのような処分がなされるのだろうか? 在日米軍に20年以上在籍して退役し、現在は日本国内で自動車関係の事業を展開しているX氏にリアルなところを聞いてみた。

ーー今回のシビック盗難→事故→逃走……といった場合など、米軍人が日本で公務時間以外に罪を犯した場合はどのように罰せられるのでしょうか?


犯人の米海兵隊員は盗んだシビック・タイプRをどうするつもりだったのか。

「彼は日米の法律で処罰されることになります。ほとんどの場合、彼は階級、運転免許を失い、在日米軍基地の刑務所に入り、日本の警察から要請があれば、日本の刑務所に移送されることになります」

「今回の場合は基地司令官やPACAF司令官が山口県知事や岩国市長に謝罪に訪れるでしょう」

ーー交通違反など軽微な違反の場合はどうですか?

「軽微な違反であってもそれが複数になると不名誉除隊となることがあります。米国法と軍法が適用され、軍人がホスト国(日本など)にいる場合は、ホスト国の法律も適用されます」

ーー気になるのは損傷したシビックタイプRの修理代ですが、これは誰が負担しますか?

「損害賠償は基地が負担します」

ーー最終的に罪を犯した米軍人はどうなるのでしょうか?

「軍で罪を犯すと不名誉除隊になり、二度と軍に戻れないのはもちろん、民間での就職も難しくなります」

最後にX氏はこう話してくれた。

「毎週、各基地の指導者に報告される犯罪や事故、処罰に関するブロッター(報告書)があります」

「プライバシー保護の観点から、これらの情報は軍外に漏れることはありません」

「しかし、すべての犯罪は米国軍法(UCMJ)と日本の法律によって厳格に処罰されますので、ご安心ください」

「日本に住むアメリカ国民として、このような罪を犯す米軍人がいることはとても恥ずかしいことです」

本件についてはその後の情報が入ったらまたお伝えしていきたい。