埼玉県リーグで戦う文教大サッカー部。「学生主体」のチーム作りを進めている。

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 友だちの結婚式に参列し、仲が良かった旧友に久しぶりに再会したら、学生時代には想像もできなかったほど立派な社会人になっていて驚く。新進気鋭の監督が描いている育成の未来予想図を表現するなら、そんなところだろうか。

 埼玉県リーグ1部の文教大サッカー部を指揮する藤原良浩監督が、画期的なチーム作りを進めている。

「自分たちが決めたことが、そのままチームの力になる」

 文教大でプレーする久保田大貴は明るい表情で語る。浦和東でプレーした高校時代とは、また違った充実感があるようだ。

「学生主体なので、チームに貢献できている実感がすごく湧く」

 久保田の言う「学生主体」とは、2020年に就任した藤原監督が採用するチーム体制を指す。指導者がサッカーを教えるのではなく、練習メニューの作成からスタメン選出、選手交代まで、普通なら監督が担う仕事もすべて学生に任せられている。
 
 つまり大学生ながら、考える“量”が他の学生とはまるで違う。主将の芦澤一生は言う。

「今までは監督の指示に忠実に従うだけでした。でも、頭を使ってサッカーをすることが多くなったので、プレーヤーとしてやりがいを感じています」

 サッカー部を運営するための役割は分担されており、チーム方針の決定機関である「幹部チーム」、練習メニューを決める「練習メニューチーム」、フィジカルトレーニングのメニューを管理する「フィジカルチーム」、サッカー用具を管理する「ホペイロチーム」、チーム登録や大会参加の申し込みをする「主務チーム」、広報活動をする「SNSチーム」など15チームほどにわたる。

 その人事配置を決めるのが藤原監督の仕事だ。選手個々の特性を理解したうえで、それぞれに適した役割を与える。各組織は立ち上げ当初に掲げた各々の「チーム理念」に基づいて仕事し、その「理念」から逸れていないか藤原監督が分析。月に一度、チームリーダーと進捗状況を確認し、機能していなければチームが良い方向に進むようメンバーを修正するケースもあるという。
 4年生の久保田は「ツイッターチーム」でリーダーを務めた際のエピソードを嬉しそうに話していた。

「『ファンを増やす』という理念からブレていなければ、藤原監督からは一定の決定権を与えてもらっています。お陰で自由にSNSを運営させてもらっていますが、その分責任もあるので慎重に投稿内容を考えてやってきました。

 部員にも力を借りながらチーム情報を発信し続けた甲斐もあり、年々新入部員が増え、今年はTwitterの効果で1年生が15人も入部してくれた。すぐに成果として表われなくても、努力を重ねればチームに貢献できると実感しましたね。

 SNSチームを動かせる権利を与えてもらった以上、誰のせいにもできない。全部自己責任で取り組みました。だからこそ15人だと感じています。最高に嬉しかったですね」
 
 かたや主将の芦澤は、スタメン選考、選手交代など本来なら監督が務める重要な決断を任されているため、苦労が絶えないという。切磋琢磨してきた“相棒”が大事な試合の日に遅刻すれば容赦なく「帰れ」と厳しく突き返さなければならないし、結果が出なければメンバー選考に対してチームメイトから批判が噴出する。7月18日の獨協大戦(〇1-0)で悲願の初勝利を挙げる前までは、「つらさが9割、楽しさ1割」と本音を吐露した。試合後に溢れた涙が、偽らざる気持ちの正体だっただろう。

 とはいえ初勝利で「少し楽になったので、今はつらさ6割、楽しさ4割」と主将は前を向く。そして続くコメントが興味深かった。

「1年生から4年生まで、全部員がいるからこそのオリジナルのチームを作っていきたいんです。誰もがチームで起きた現象、勝敗に対して“当事者意識”を持って、最後は全員が笑顔で終わり、ピッチ内外で良いシーズンを送れたと言えるように、もっと頑張りたい」