iPhone向けのOSであるiOSを開発するAppleと、Androidを開発するGoogleは、それぞれ独自のアプリストアであるApp StoreとGoogle Playを運営しており、そこから多額の収益を上げています。これらの公式アプリストアのあり方を大きく変えてしまう可能性のある「アプリストア規制法」が、議会に提出されています。

App Store Law Would Be a Direct Hit on Apple and Google - Bloomberg

https://www.bloomberg.com/news/newsletters/2021-08-16/app-store-law-would-be-a-direct-hit-on-apple-and-google

House lawmakers join Senate in targeting app stores - Axios

https://www.axios.com/house-lawmakers-bill-targets-app-stores-46e5f088-5c56-4165-b4a4-00ead4ab2599.html

2021年8月11日(水)、民主党所属のリチャード・ブルーメンソール上院議員とエイミー・クロブシャー上院議員、共和党所属のマーシャ・ブラックバーン上院議員の3名が、「Open App Markets Act(オープンアプリ市場法)」という法案を提出しました。この法案は「大手アプリストアがアプリ開発者に自社の決済システムの使用を強制することを禁止する」「他のアプリストアや決済システムで異なる価格・条件を設けたアプリに罰則措置を講じることを禁止する」「自社サービスを利用するアプリ開発者から得た非公開データを、競合製品を作り上げるために活用することを禁じる」というもので、AppleやGoogleといった公式アプリストアを運営する企業の独占を制限することを意図したものです。

Apple&Googleを狙い撃つ「アプリストア規制法」がアメリカ上院に提出される - GIGAZINE



これに続き、2021年8月13日(金)には共和党のケン・バック下院議員を筆頭とする超党派議員が、「オープンアプリ市場法」と同じようにアプリストアを規制するための法案を議会に提出しました。なお、バック議員は前々からAppleやGoogleといった大手テクノロジー企業による反競争的な行いに疑問を呈してきた人物であり、過去には独自の調査レポートを公開したこともあります。

突如提出されたアプリストア規制法が形となれば、GoogleやAppleといったアプリストアの運営で多額の収益を上げている企業は大きな方針転換を余儀なくされます。

複数のアプリストア規制法案が突如提出されたのは、Spotifyなどの一部企業から「AppleとGoogleが運営するアプリストアが、サードパーティーアプリから収益の15〜30%を手数料として徴収するのは独占禁止法に違反する行いだ」という不満の声が挙がったことがきっかけです。これについてアメリカの上院議員議会では独占禁止法(反トラスト法)に関するヒアリングが行われ、4月に行われた際にはSpotifyのオラシオ・グティエレスCLOが、アプリストアの手数料徴収について「虐待的な権力の掌握および他社による価値創造の没収に過ぎない」と痛烈に批判したことが話題となりました。

今回議会に提出されたアプリストア規制法が法制化されることとなれば、iPhoneは劇的な変化を遂げる可能性があります。Androidはハードウェアメーカーやユーザー側にデバイスをカスタマイズしたり、Google Play以外のサードパーティーアプリストアを使用する権利を与えていますが、iPhoneでは公式アプリストアであるApp Store以外のアプリストアからアプリをインストールすることは基本的にできません。そのため、iPhone向けにアプリを配信するにはAppleの厳格なガイドラインを満たす必要があり、これが稚拙なアプリの氾濫を防ぎ、高いセキュリティを維持することにつながってきました。しかし、アプリストア規制法案が現実のものとなれば、サードパーティーアプリストアから「App Storeでは配信できないようなアプリ」のインストールも可能となります。



加えて、AmazonやNetflix、SpotifyといったアプリがApple独自の決済システムを回避し、独自のサブスクリプションプランをユーザーに提供できるようになる可能性もあります。Appleの決済システムを回避し「ゲーム内通貨の値下げ」という形でユーザーに還元しようとしたEpic Gamesのように、Apple独自の決済システムを回避することが可能となれば、実質的な値下げがさまざまなアプリで実施される可能性もあります。

なお、アプリストア規制法が成立した際に最も大きな利益を受けるのは、独占禁止法違反でAppleを訴えるEpic GamesやSpotifyといった企業であることは火を見るより明らか。

Apple側はアプリストアに関する規制を緩めることは、iPhoneやiPadにおけるセキュリティおよびプライバシーが損なわれることにつながり、ユーザー体験がより複雑になってしまうと主張しています。