“ブレ球”で注目された「ジャブラニ」から10年 進化し続けるサッカーボールの今
今季からアディダス社製の最新ボール『TSUBASA(ツバサ)』がJリーグ公式球で使用
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、開幕直後に中断を強いられる異例のスタートとなったJリーグの2020年シーズン。
今季からアディダス社製の最新ボール『TSUBASA(ツバサ)』が公式球として使用されている。ピッチに映える鮮やかなデザインのボールに、目を奪われたサポーターもいるのではないだろうか。
サッカーの試合には必要不可欠なサッカーボールは、テクノロジーの発展が著しい昨今にどのような変化を遂げてきたのだろうか。2010年の南アフリカ・ワールドカップ(W杯)で世間の注目を浴びた『ジャブラニ』の登場からは早10年。この10年あまりに起きたサッカーボールの進化を追った。
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今季からJリーグの公式球として新たに使われている『TSUBASA』はその名前からもわかるように、日本の文化・伝統からインスピレーションを受けたデザインが採用されている。漫画の効果線のようにも見える黒いラインは、古来より“日出国”日本の象徴である「八咫烏(やたがらす)」をイメージしたもので、「空に羽ばたく翼」を表している。“ツバサ”繋がりで、日本が世界に誇る『キャプテン翼』とコラボレーションしたスペシャルエディションの登場でも話題を呼んだ。
最新のJリーグ公式球を手掛けるアディダス社でブランドコミュニケーションを担当する福田新氏に話を聞くと、まずサッカーボールづくりのコンセプトについて次のように話してくれた。
「アディダスとして目指していることは長年変わっておらず、『精度の高いキックを実現する』ことを常に追いかけています。“精度が高い”ということのポイントは大きく二つあって、一つは『思い通りに狙った的をとらえることができる』こと。もう一つはその的に至るまでに『思い通りの軌道を描くことができる』こと。これらのことを意識しながら開発を進めています」
そうしたコンセプトを実現するため、サッカーボールは年々その構造を変化させている。かつては五角形と六角形のパネルが組み合わさった天然皮革のボールが一般的だったが、今ではそのパネル一つひとつの形が変わり、素材も人工皮革が使われている。
「たとえば、雨が降った場合などは(パネルとパネルの間の)縫い目があるとどうしてもその部分から水を吸ってしまい、ボールが重くなったり、蹴った時の感触が変わるなど環境差が生じてしまいました。しかし、パネル同士を熱で接着させる『サーマルボンディング製法』によって縫い目をなくすことで、様々な環境下でも変わらない使用感を得ることができるようになりました。
『TSUBASA』では同じ形のパネルを組み合わせていて、それによってボール比重の均質性が高まり、ボールバランスと飛行安定性の向上を実現させました。加えてパネル枚数も減らすことで、どこを蹴っても同じように“スイートスポットをとらえられる”ということを大事にしています。パネルの間の溝の長さや深さによってもボールの軌道に影響は出てくるので、そこは実験や研究の結果を見て改善を繰り返しています」(福田氏)
2006年から変わったパネルの形状「本当に大きな変革だった」
『TSUBASA』の開発に関わったモルテン社のスポーツ事業本部所属、小寺利治氏は「たとえば、パネルの枚数が1枚で完全な球体に近づければそれがベストだという人もいるかもしれません。確かにスイートスポットは大きくなりますが、ボールのパネル間の溝の長さと深さによって、空気抵抗の関係で軌道がブレづらくなるということもあります。そういった組み合わせについてしっかりと考えられたうえで、進化を遂げているところがアディダス社のボールづくりで一貫しているところです」と補足している。単にパネルの枚数が少なければいい、縫い目がなければいいという話ではなく、研究を重ねて最適解を模索しているという。
ボールを覆うパネルについては、2006年ドイツ・ワールドカップ(W杯)公式球の『+TEAMGEIST(+チームガイスト)』から形や枚数が一新された。それまでは五角形と六角形の異なる形のパネルが計32枚使われていたものが、14枚と一気に半分以下の枚数になった。
さらに大きく揺れるブレ球が話題となった2010年南アフリカW杯の公式球『ジャブラニ』でパネルは8枚(2種類)となり、14年ブラジルW杯の『ブラズーカ』ではすべてのパネルの形が均一となり、枚数も歴代最少の6枚に。これによってボールの飛行安定性を向上させた。この10年から15年あまりで、ボールが劇的に変化を遂げていることが分かる。
福田氏は、ボールの進化について次のように語っている。
「もちろん、アディダスが最初にW杯の公式球を作った1970年から進化は続いていますが、それが急激に加速したのはここ10年から20年の間です。先ほども言ったように、2006年からはパネルの形状がガラッと変わりました。これは本当に大きな変革だったと思います。1970年から2002年頃までの時期と比べると、その後の20年弱での変化というはものすごく大きなものだったと思います」
アディダス社は宇宙実験による品質テストも実施
アディダス社のボール開発は、今や我々の想像を超えるスケールで行われている。2019年11月にはアメリカのISS米国国立研究所とパートナーシップ契約を結び、スポーツブランドとしては初めて宇宙実験による品質テストなどを行っている。
「NASA(アメリカ航空宇宙局)が行った貨物ミッションでは、実際に宇宙空間でサッカーボールを動かすことで空気力学の見識を深めたり、どういった飛行特性があるかというところを様々なパネルの形状や枚数に対して調べる実験を行いました」(福田氏)
実験の内容についてはまだ公に公開されていないものの、アディダス社のものづくりに対する意気込みの大きさが感じられる。
チーム戦術がより高度なものになり、選手個々のアスリート能力も飛躍的に向上しているサッカー界。そのなかで同じように進化を続けるサッカーボールの可能性に今後も注目していきたい。
(石川 遼 / Ryo Ishikawa)
