杉内俊哉のこれまでの成績

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球史に残る4億5000万円の大減俸、決断の裏側

 世間をあっと驚かせた4億5000万円の大減俸。巨人・杉内俊哉投手は5億円から5000万円で契約を更改し、選手生命をかけて来シーズンに挑むことになった。

 球団を通じて「今シーズン途中で戦線を離脱し、チームにとって4連覇のかかる重要な時期に全く戦力になれなかったことをとても悔しく思います」などとコメントした。

 杉内は寡黙だが、責任感が強い。球団やチームメートに迷惑をかけたこと、ファンの期待を裏切ってしまったことを申し訳なく思っていた。7月中旬でチームを離れた。5億円という球界トップクラスの年俸分の働きができなかったことから、自ら申し出て球史に残る減額となった。杉内以上に奮わなかった選手が成績以上の年俸をもらったこともあって、その潔さ、退路を断つ意気込みに「男気」、「他の選手も見習ってほしい」と称賛の声も上がっている。

 10月に福岡県内で右股関節の手術を行い、現在はリハビリ中。開幕はおろか、前半戦も復帰はできない。これまでも重心が乗る方の足の股関節手術をした投手は多いが、試合復帰までは1年以上かかる例もある。さらに言うと、今回の杉内のケガは大まかに股関節と言いながらも、医学的に細かい部分では前例のない手術と言われており、復帰時期の見通しが立ちにくい。治癒のスピードと本人のリハビリの頑張りが復帰を左右する。

ボロボロの状態だった股関節、驚異の奪三振を誇るも…

 杉内はチームに貢献できなかったと悔しさをにじませたが、2008年くらいから痛み出した股関節はボロボロの状態だった。それでも4月は3勝。5月までに5勝1敗とローテーションを支えていた。序盤戦からポレダや高木勇人、さらに5月後半からはマイコラスと、巨人1年目の投手たちが奮投できたのも、巨人で経験のある菅野と杉内の存在があったからこそ。本人はグラウンドに出る限り言い訳はできないと痛みを押し殺しながら、マウンドに立っていた。

 患部の影響もあって球に力がなくなってくるため、近年は早い回でマウンドを降りることが増えた。それでも、先発として登板した以上は「長いイニングを投げたい」「監督に信頼してもらえるように頑張ります」と完封、完投を目指し、それがだめなら8回、7回と1回でも多く投げようと努力してきた。

 杉内は直球とスライダー、チェンジアップが武器。自慢の変化球で空振りを取るためには、何よりもストレートのキレが重要だ。それが長いイニングを投げることにつながると考えた。だが、体重を乗せ、ボールに力を伝えるはずの股関節が痛めば、最後の踏ん張りもきかず、ストレートの力もなくなる。そうなれば、スライダーやチェンジアップの効果も薄れてしまう。結果、簡単に打たれてしまう試合が増えてしまった。

 現役では三浦大輔(DeNA)に次ぐ2位の奪三振2156個と輝かしい成績を残す。歴代でも14位。その14投手の中で投球回数より三振が多いのは杉内だけだ。これまでならば、3つの球種で簡単に三振を奪えていた。しかし、ストレートに以前の力を求められなくなると、ソフトバンク時代の終盤ころからキャンプでカットボールやフォークなど球種を増やす練習もしていた。投手が球種を増やすのは進化するための努力にも見えるが、杉内にとっては、「本当はしたくはないんだけど……」と苦渋の決断だった。自分の武器が通用しないことを認めることになるからだった。実際にシーズンではほとんどこの3つ以外の球種は投げなかった。ここに左腕のプライドが垣間見れる。

杉内が見せた我慢強さ、来季復活のマウンドに上がれるか

 わずかシーズン6勝、前半戦でチーム離脱という結果を見れば、批判されるのも仕方ない。一方で、よくこんな下半身と精神状態で、6勝も挙げ、我慢を続けてこられたと話す関係者もいる。実際、杉内は今季の最終登板となった7月21日の阪神戦は6回途中まで投げ、2失点。まずまずの内容を見せていた。

 入団時から「僕は痛い、かゆいはそうは言わない」と痛みに強い投手だったが、その翌日に投手コーチに股関節の痛みを自ら訴えて、登録抹消となっている。以降、ランニングもできなければ、キャッチボールすら、しっかりとできていない。今回の大減俸も驚きだが、それほどの痛みの中、意地で投げていた我慢強さも忘れてはならない。

 このまま「保存療法」で股関節を維持してもパフォーマンスは上がらない。手術をしても復帰ができる可能性は分からない。それでも前に進まなければ何も始まらないと手術を決断した。

 その決断も一人ではできない。球団も来年活躍できる保障がない選手に、手術を簡単に容認するわけにはいかない。費用も、来季以降の年俸もかかる。選手によっては、手術をすれば治るケガでも、球団が手術を受け入れず、戦力外と宣告するケースもある。それでも、巨人は杉内の要望を受け入れた。杉内は球団へ恩義を感じていたことが減俸の申し出につながっている。

 35歳の左腕は手術という少ない可能性にかけた。それでもだめなら引退するという覚悟がにじむ。自分の年俸分はこれからの若い選手に使ってほしいという願いもあるのだろう。4年契約の最終年だった杉内との契約延長にも、決断を応援し、復活を期待する球団の思いが見て取れる。

 乗り越えなければならない壁は低くない。ただ、杉内は常々「背番号18として恥ずかしい姿を見せることはできない」と話していた。その思いが、リハビリと復帰を後押しすることになるはずだ。杉内と球団の決断は奏功するのか。来季、背番号18が復活のマウンドに上がる姿を期待したい。(※金額は推定)