正当防衛と過剰防衛の境界線はどこにあるか
■相手にケガさせたら即、逮捕?
飲み屋でたまたま隣り合わせた客に因縁をつけられ、小競り合いから乱闘に発展。自分は無傷だったが、相手にケガをさせてしまった。こんな場合はどうなるでしょうか。
まずは逮捕されるかどうかですが、相手のケガが軽度で、あなたに逃亡や罪証隠滅の恐れなしと判断されれば、強制的に身柄を拘束される逮捕ではなく、任意での取り調べとなる可能性のほうが高いです。取り調べの結果、「事実を正直に話して反省している」ということになれば早期に釈放されることが多く、家族が迎えに来ればその日のうちに帰してもらえることも多いでしょう。
ところが酔った勢いで警官に逆らったり取り調べに協力しなかったりすると、場合によっては公務執行妨害などの理由で逮捕され、少なくとも2〜3日は留置されることに。となれば当然出社できず、「あいつ、暴力沙汰でブタ箱にぶちこまれたらしいぜ」と噂になりかねません。こうなると痴漢の冤罪と同じで、あとでいくら正当防衛が証明できたとしても、いったん広まった悪いイメージを払拭するのは難しいでしょう。
また事件当日は何もなくても、安心するのはまだ早い。後日、相手が病院の診断書を持って警察に被害届を出すことがあります。「行きずりの相手が自分の素性を知るはずがない」と思っても、人にケガをさせればそれは傷害罪に当たるので、捜査機関が動くこともあり、そうなれば身元などすぐに突き止められます。
「最初にからんできたのは向こうのほう。いわば正当防衛だ」と主張すればどうでしょう。正当防衛が認められるのは、危機が迫っているとき、生命や身体を守るためにやむをえず応戦したときだけ。また自分の攻撃が相手の攻撃と同程度であることも重要で、攻撃しすぎれば過剰防衛に。基本的に素手には素手で、ナイフにはナイフで応じれば正当防衛になりますが、ナイフに対して銃を持ち出せば過剰防衛になります。さらに体格差や年齢差なども考慮するので、この線引きは法律家の間でも常に論議の的となるところです。
また「すぐその場で」攻撃したのかどうかもポイントで、相手がもう攻撃をやめているのにまだ殴り続けたとか、数日前のことを根に持ってやり返したというのは正当防衛とは認められません。ただ意外なことに、相手のケガの程度は正当防衛かどうかには無関係。問題は行為の結果ではなく、行為そのものだからです。極端な例では、「殴られそうになったので相手の腕を振り払ったら、相手が転倒し、打ちどころが悪くて死んだ」という場合でも、正当防衛で無罪になることもあるのが法律の世界。
ただし正当防衛だったことを証明するには、一部始終を見ていた人の証言や、監視カメラの映像などが必要です。もし正当防衛であることを証明できなければ、刑事処分を受ける可能性があるのはもちろん、民事上でも相手に損害賠償をしなければなりません。ただ、喧嘩の中でのケガである以上、相手にも落ち度があるといえ、その落ち度に応じて賠償割合を決めることとなります。つまりケガの治療費や慰謝料、ケガで仕事を休んだせいで得られなかった給料などが仮に全部ひっくるめて100万円で、相手の落ち度が全体の3割だったとしたら、その分を相殺してこちらは70万円だけ支払えばいいということです。
ちなみに「酒に酔っていたので責任能力はない」という言い訳は認められません。そもそも酔うと粗暴になる人はお酒を控えるべきだからです。もしトラブルになりそうなら、悔しくてもグッとこらえてすぐに店を出ること。それが本当の男らしさだと思いますよ。
(アディーレ法律事務所 弁護士 篠田恵里香 構成=長山清子 撮影=坂本道浩)
