この記事をまとめると

■RMサザビースはアメリカを拠点とする大手カーオークション企業だ

■2020年にアメリカのカーコレクターが300台以上のコレクションを放出

■名だたる名車たちのなかにスズキの軽トラが混ざっていた

アメリカの詐欺師がコレクションに軽トラを所有

 WEB CARTOPをはじめ、さまざまな自動車系WEBメディアがよく紹介している、超高額で落札された名車たちを数多く取り扱っているのが、アメリカのオークション会社、RMサザビースだ。もともとはカナダで創業したクルマ専門のオークション企業であったが、現在はアメリカのニューヨークを本拠地とし、世界中で博物館級の名車たちを数多く扱っている。たとえば、長い期間、世界最高額で落札されたクルマとして有名なフェラーリ250GTO(76億円)や、その金額を大幅に上まわる、184億円で落札された、1955年式メルセデス・ベンツ300SLR ウーレンハウトクーペもこのRMサザビースが扱った。

 なお、クルマ以外にもプロドライバーの着ていたレーシングスーツやグローブやシューズ、細かいパーツや美術品など、車両本体以外の品も数多く扱っている。

 そんなRMサザビースは、その扱っているクルマたちの性質上、超高額車ばかりが話題になるが、つねに数千万も数億円もするクルマばかりを扱っているわけではない。我々日本人にとって身近な軽トラックまで出品されていたことがあるのだ。その1台を今回は紹介したい。

 出品されたのは、いまから6年も前になる2020年10月。世はまさに世界的コロナ禍の真っ只中である。出品されたのは、1993年式のスズキ・キャリイ。至ってフツーの軽トラである。

 しかし、このキャリイが出品されたイベントがまた面白い。というのもこのキャリイ、ただ一般人がオークションに出したわけではないのだ。

 出品されたイベントは、その名も「エルクハート・コレクション」。「エルク? ナンジャラホイ?」といったところであるが、このコレクションは、アメリカの都市、インディアナ州エルクハートで給与計算処理会社「インターロジック・アウトソーシング社」を経営するナヒブ・カーンが所有していたクルマたちの総称だ。

 彼は、小切手詐欺などを2014年ごろから働き、数年間でなんと1億5000万ドル以上の利益を得ていたという。これは当時、日本円で230億円以上という凄まじい額で、日本では滅多にお目にかかれないような途方もない金額である。そんなナヒブ・カーンは、この詐欺で得た利益で何をしたかというと、自家用ジェットや趣味であったカーコレクションを世界中から買い漁っていたそうな。その数、なんと300台以上。豪遊の2文字が相応しいはっちゃけっぷりであった。

 しかし、そんな悪どいやり口が長く続くはずもなく、ナヒブ・カーンは間もなく御用。1億ドル以上の返済が命じられたという。とはいえそんなお金、石油王でもなければそう返せないわけで、早々に自己破産。だがそこは悪党には厳しいアメリカ。自己破産しても、返済義務からは逃げられないようで、ナヒブ・カーンには1億ドル以上の返済命令が下った。その原資とされたのが、彼のカーコレクション、通称「エルクハート・コレクション」だったのだ。

なんてことない軽トラが日本の相場をはるかに上まわった

 そこに出品されたクルマたちは281台。なかには、フォードGT ヘリテージ(2006年式)や、アストンマーティンDB5 ヴァンテージ仕様(1964年式)、トヨタ2000GT(1967年式)、ランボルギーニ・ミウラ(1969年式)、メルセデス・ベンツ 300SL、フェラーリ 225Sベルリネッタ(1952年式)などなど、博物館級のクルマが大量に出品された。これらは当然、1億円を超える落札額を連発、225Sベルリネッタに関しては、日本円にして当時2億9400万円であった。なお、このオークションには世界53カ国から2500人以上が参加したそう。

 そんな名だたる名車が集まるなか、日本の軽トラまで同氏のコレクションとして出品されているのだからおもしろい。ではこのキャリイ、何か特徴的な要素はあるのだろうか?

 ……結論からいってしまえば、申し訳ないのだがじつはこのキャリイ、とくにこれといって車両に関するトピックはない。日本初の軽トラでもないし、著名人の元愛車とか、限定車でもない。ただ、年式と軽トラックという性質を考えれば、このキャリイはなかなか上物で、走行距離もたった7.4万km。大きな凹みやサビもなく、程度はよさそうだ。しかもパートタイム式4WDに5速MTである。

 車検シールや定期点検ステッカーが貼られており、車検シールには「19」「6」、定期点検ステッカーには「18」「6」という数字があることから、平成19年ごろまでは稼働していた車両と思われる。その後はあまり傷んでいない様子から、納屋に眠っていたのだろうか。オークションは2020年なので、どこかのタイミングで発掘され、アメリカのインディアナ州に旅立ったと推測できそうだ。格好よくいえばバーンファインド的な感じで発見されたのかもしれない。

 RMサザビースではこの車両の概要を、以下のように説明している(日本語訳)。

・日本市場向け右ハンドル車の例
・軽量で実用的で魅力的なピックアップトラック
・350kgの耐荷重を備えた、小型ながら優れた移動能力を持つ荷台
・全輪駆動とエアコンを搭載
・物を運ぶのが一番楽しい

 ちなみにあおりには「カーサイクルセンター足立」というステッカーが貼られており、調べたところ現在は廃業している岐阜県の中古車屋がヒットしたので、岐阜県で活躍していたクルマが、はるばる海を渡ったと見ていいだろう。

 ここ数年、「こんなに小さくて荷物が載るピックアップトラックがあるなんてクールだぜ!」なんていいながら、アメリカでは軽トラックが大人気で、25年ルールの縛りが取れた軽トラックがじゃんじゃん海を渡って輸入されているそうだ。

 ではこのキャリイ、いったいいくらで落札されたのかというと、なんと7840ドル、当時のレートで83万円という高額プライスをつけた。なお、現在のレートでは126万円相当になる。筆者はアメリカ人ではないので、どれだけ認知された悪党かわからないが、ひょっとすると「あのナヒブ・カーンの元愛車だぜ!」などと箔が付いたのかもしれない。ただ、彼がどのようにこのキャリイを使っていたのかは不明である。

 なお、この「エルクハート・コレクション」では過去に本媒体で取り上げた、「パトカー仕様のスバル360」などを含む日本車6台が出品されていた。

 世界的名車に混じって日本のなんの変哲もない軽トラックが出品されて、流れずに落札されたのはなんとも誇らしいが、借金返済の担保にしてはあまりにも足りなすぎる額であった。ナヒブ・カーンがこの軽トラの落札額を見て何を思っているのか、我々は知る由もない。