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熊本県山鹿市来民(くたみ)に「来民うちわ」という伝統工芸品が伝わります。一時は消えかけた「熊本の涼」が今、世界に新風を吹き込んでいます。

【画像を見る】世界が注目する「来民うちわ」

400年の歴史を紡ぐ唯一の工房 若き5代目が受け継ぐ「来民うちわ」

「来民うちわ」は、かつて、商人の町として栄えた山鹿市鹿本町来民地区で、400年の歴史を持つ工芸品です。

竹や、和紙の原料となる楮(コウゾ)の産地だったこの地に長く根付き、県の伝統工芸品に指定されています。

明治22年創業の栗川商店は、伝統的な技法を今に受け継ぐ唯一の工房です。

取り仕切るのは、若き5代目、35歳の栗川恭平さんです。栗川家に入り、職人として8年間、技術を磨いたのち、2025年に先代から工房を任されました。

栗川商店5代目 栗川恭平さん「初めは竹のうちわがあることすら知らなかった。ふとした時に店に行って心が変わった」

頼るのは職人の感覚だけ

「来民うちわ」の制作は全てが手作業です。山鹿でとれた竹に、軽快に、そして均一に切り込みを入れる作業はまさに職人技です。

栗川恭平さん「切るときの刃の入り方が一番頼りで、全部感覚です」

1本の竹に命が宿ります。

うちわを守る「柿渋」へのこだわり

手間も惜しみません。うちわに塗っている「柿渋」は、職人達が収穫した豆柿を一つ一つ潰して甕に入れ、水とともに、数年かけて熟成させます。

栗川恭平さん「これはもう少しですね、色見がもう少し濃くなれば良いかな」

使う時期の判断も職人の感覚が頼りです。

熟成した柿渋には、高い防虫・防腐効果があるとされています。

月日を楽しむうちわ

「来民うちわ」は“育てるうちわ”とも呼ばれます。竹は時間が経つことでしなやかになるといいます。

栗川恭平さん「仰いだ時のしなり方が、古いものと新しいものを比べたら顕著に分かる。古い方は、なでられているような感じ。新しい方は、叩かれているような感じ」

400年の時の流れ、消えゆく産業

来民うちわの歴史は古く、その始まりは江戸時代、旅の僧から伝わったとされ、昭和初期には、広告を載せる媒体としての需要が高まり、年間数百万本を生産する大産業へと成長しました。

ピーク時に6000人いた村人の、実に半数が生産に携わっていたとも言われています。

しかし、時代の流れとともに需要が乏しくなり、次々と工房の姿が消えました。

先代の教え――届けるのは「物」ではない

栗川恭平さん「先代が本物を届けると言っていて、『物』ではなく『物語』を届けることが大事だ。うちわを作る工程や400年の歴史、この重みをしっかりとお客さんに伝えていく」

「物ではなく技と心を」その思いを引き継いだ恭平さんは、それまであまり見せることがなかった物づくりの様子を広めることにしました。

すると、思いもよらぬ所から声がかかりました。

まさかのオファー 響いた職人魂

栗川恭平さん「最近で言うとサウジアラビアから。最初は詐欺かと思った」

サウジアラビアと日本の外交関係樹立70年を祝うイベントに呼ばれ、現地で実演販売をすることになったのです。

栗川恭平さん「向こうの人にとっては丁寧な物づくりが珍しい。ずっとうちわ作りを見られてスマホ構えて」

その結果、それまでなかった海外との取引が売上の5%を占めるなど、徐々に広がりを見せています。

世界へ届ける「技と心」

先代から受け継いだ「技と心を届ける」こと。それは世界から注目されるようになっても変わることのない信念です。

栗川恭平さん「物では惹かれないという部分があるので、職人が作るところを見てもらって、どれだけ手間がかかっているのか手が込んでいるのかを含めて届けることで、(客の)心が動くのではないかと私は思います」