異常気象でゴルフ場の芝が枯れた…コスト高で脆弱な「天然芝」が引き起こす「危機的状況」を救う「人工芝の強み」

写真拡大 (全3枚)

21世紀に入って急速に敷設が進んだ人工芝は、いままた大きな曲がり角を迎え始めている。7年〜10年と言われる人工芝の寿命がつき、2度目、3度目の張替え時期が来ているのだ。

これが学校や運動施設の大きな負担となっている。なぜならば、通常のサッカーグラウンドの人工芝を一面替えるとなると撤去費用だけで数千万円もの費用がかかってくるからだ。

一方で天然芝の施設はその維持コストに苦しめられている。

前編に引き続き、長らく人工芝の開発に取り組んできたISP環境開発株式会社の岡粼健伍代表取締役に日本が抱える「芝問題」について訊いた。

【前編を読む】日本全国で「人工芝の寿命」が終わる…スポーツ界の「インフラ崩壊」の影響とアスリートを救う「新素材」

天然芝を求める声も多い

──一方、相変わらず天然芝を求める声も多いです。やはり、人工より天然にこしたことはないのでないか、と。私も農薬がこんなに撒かれているとも知らず、ずっとそう思ってました。

一般の人は、みなさんそう思ってますよね。習志野市のサッカー場では「天然芝がいい」と日本代表選手も巻き込んでの署名運動まで起きた。最終的には天然芝の養生などによる管理の手間、稼働日数の少なさなどもあって、人工芝になりましたが(2026年3月に改修工事完了)、特に年配の人は天然芝に対する憧れがいまも強いですよね。でも、いま地方自治体は本当に困ってますよ、特にプロリーグがあるところは。だって、ひとつのグラウンドを維持するのに年間3000万円ぐらいかかるんですから。3年で9000万。人工芝であれば10年間はほとんどいらないから、自治体の財政はむちゃくちゃ助かるんです。

天然芝を放置して、野っ原のように使うなら断然天然芝のほうがいいんです。それは間違いない。でも、人が競技をしたり、楽しむために芝を管理するとなるとものすごくお金がかかる。現代の気候では夏枯れも起きるし、グリーンキーパーの労働時間はどんどん長くなるし、クスリも大量に撒かないともはや維持できないというのが天然芝なんです。

──ゴルフ場は特に手がかかりそうですが。

ゴルフ場の維持は本当に大変です。去年の異常気象で、ゴルフ場の芝がずいぶん枯れました。日本のゴルフ場は、ベントグリーンが多く採用されています。ボールがスムーズに転がるため、パッティングが面白くなる芝ですが、暑さに弱い。

天然芝はたしかにイニシャルコストは安いんです。でも、その後の管理費と人件費が大変。ゴルフ場にはとにかく、農薬、栄養剤、水が欠かせない。ゴルフ場の18ホールに撒く水の量は、サッカー場の比ではないです。夏場なら1日に約 200 〜 500トン(2リットルペットボトルに換算すると10万本〜25万本分)も撒く。去年みたいに水がなくなれば、グリーンに優先的に撒いて、フェアウェイは目をつぶるしかない。だから、フェアウェイが茶色くなったところも多かった。気候変動がゴルフ場を大きく変えつつあるんです。

ついこの間も大きなゴルフ運営会社の方が訪ねてききました。うちのグリーンを見たい、と。でも、ゴルフ場での人工芝の採用は相変わらずハードルが高いんですね。「人工芝でグリーンをつくるなんてとんでもない」というお客さんがほとんどですから。

だから、「人工芝と言わずに環境芝と言うようにしてください」と言ったんです。「言葉ひとつでイメージは変わりますから」と。「イニシャルはいくら」「管理費用はいくら」と矢継ぎ早に質問されたので「分からない」とつい言ってしまいましたが、実際、ゴルフ場全部を人工芝でやったことなんてないからわからないのです。「とりあえずひとつ人工芝でつくってみてはいかがですか」と提案してお帰りいただいたんですけどね。いまやそういう危機的な状況を迎えているということなんです。

最高の人工芝で、最高のグラウンドをつくる

──ただ、前回もお話いただいたように、ゴルフ場はともかく、運動施設、行政、スポーツ協会にはそれぞれ高い障壁があります。誰もが簡単に参入できるわけではありません。

大きな会社が下請けに出し、その下請けがまたその下に出すということが相変わらず日本の運動施設では行われています。ピンハネ業の人たちが間にたくさんいるんですね。だから、運動施設の値段は大手が入ってくるとすぐに倍ぐらいにハネ上がってしまう。

また同時に日本は関係性ビジネスなので、大学の先輩後輩とかが相変わらず幅をきかせていたり、施工実績を盾に癒着を温存させたりと、とにかく古い体質が残っている。日本の有名な運動施設や球場は、工事している会社はずっと同じです。不思議な世界ですよ。私はそんな本当のことを言っているだけなんだけど、でもよっぽど怖いんでしょうね。同業者からは「あそこは小さい会社だから、工事の途中で潰れる。保証がない」といった謂れのない攻撃をたびたび受けています。自分たちの利権をとられるとでも思うのですかね。

一方、そんな中でも、トップレベルの職人たちが私のもとに集まってきてくれ始めてます。皆、大きな競技場や球場に携わってきた職人たちで、これまでの日本の運動施設のつくられ方に疑問を持ち続けてきた人々です。「我々がもらっている金と施主が支払った総額の乖離がひどい」と訪ねてきてくれる人もいる。

いま、私は、大阪で世界最高のサッカーグラウンドをつくろうと動いてます。そうやって集まってきてくれた優秀な職人たちの力を結集して、最高の人工芝で、最高のグラウンドをつくってみよう、と。

最初は、資金がなくて躊躇していたんですが、みなさんが「材料代だけでいい」、「ホテル代だけでいい、いい仕事がしたい」と言って集まってきてくれた。もう感動しますよ。それで予算的な見通しもたって、今夏の完成を目指しているところです。ここがひとつの理想的なグラウンドとなって、その小さな一歩から、この業界を変えていければ、風通しをよくしていければ、といまは願っています。

【もっと読む】日本の「特殊な人工芝」でスポーツ少年たちの微細骨折が相次ぐ…異常な現状を変える「次世代人工芝」の開発されるまで

【もっと読む】日本の「特殊な人工芝」でスポーツ少年たちの微細骨折が相次ぐ…異常な現状を変える「次世代人工芝」の開発されるまで