高市首相の公式Xより

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内外タイムスの読者の皆さん、はじめまして。慶応大学の岸博幸です。これからこの場で政策や政治などに関する意見を発信していきますので、よろしくお願いいたします。

この場で意見を言っていこうと思ったのは、テレビや新聞の報道があまりに偏っていて、物事の本質がまったく伝えられていないからだ。自分が知る限りでの真実、問題点を率直に説明していきたい。

初回は、物価高に苦しむ低所得層の支援の切り札と言える“給付付き税額控除”について説明する。高市首相は2月の衆院選で、まず2年間消費税の軽減税率をゼロにし、その後に給付付き税額控除を導入すると公約して大勝した。

その両者の制度設計を行っているのが社会保障国民会議なのだが、そこでの検討状況をフォローしていると、高市首相の公約を実現して国民生活をよくする気があるのか、甚だ疑問になってくる。

消費税の軽減税率がゼロにならないのはやむを得ないか

まず消費税の軽減税率については、報道で皆さんご承知のように、社会保障国民会議は来年4月からゼロではなく1%への減税でまとめようとしている。その理由は、スーパーなどのレジのシステムの改修が間に合わないから。

本当かよと突っ込み入れたくなるが、まあ1%ならばゼロに限りなく近いのでよしとしよう。疑問なのは、なぜ来年4月からなのか。ホルムズ海峡閉鎖の影響で確実に今年後半から物価上昇率がさらに高まることを考えると、レジの改修が半年でできるのなら、来年1月から実施すべきではないだろうか。

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給付のみは給付付き税額控除ではない

いろいろと不満はあるものの、消費税の減税については、まだよいと思う。それ以上に問題が多いのは、給付付き税額控除の制度設計だ。

給付付き税額控除とは、低所得層を対象に減税と給付を組み合わせる(所得が基準額を下回ると差額を現金で給付し、所得が増えると徐々に所得税を課す)ことで、低所得者の生活支援と就労促進を実現しようとするものであり、世界の主要国でとっくに導入されている。

そして、その名称から給付にばかり目が行きがちですが、この制度を日本で導入する際に重要なのは所得税の控除制度の改革だ。

というのは、今の所得税の控除制度(基礎控除、給与所得控除など)は、収入から控除額を引いた後に所得税率をかける仕組みのため、所得税率が高い高額所得者ほど減税のメリットが大きくなる金持ち優遇の制度になっている。

給付付き税額控除では、それを税額控除(まず収入に所得税率をかけて所得税額を算出し、そこから控除額を引く)の仕組みに変えることになる。つまり、所得税の控除の仕組みを金持ち優遇から低所得者支援に転換させることになるのだ。

ところが、社会保障国民会議が検討している制度では、今の控除制度は変えずに給付だけを行おうとしている。これでは“給付付き税額控除”ではない。単に低所得者に給付金を配るだけであり、制度としては甚だ不十分だ。

給付の仕組みも問題だらけ

もちろん、控除制度を変える(=税制改革)のは大変だし時間がかかるため、まず給付のみを先行して実施するという考え方は理解できないわけではない。しかし、その場合でも、社会保障国民会議が検討している給付のやり方に問題が多すぎる。

最大の問題は、低所得者への給付を行う場合にはまず対象者の収入を正確に把握することが不可欠だが、住民への給付は自治体(市町村)の役割と整理されており、収入の把握も市町村が行う前提になっていることだ。

しかし、自治体による住民の収入の把握はこれまで非常にアバウトに行われてきている。(コロナ給付金の経験から)給付の実務だけでも大変なのに、それに正確な所得把握や不正申告のチェックまで加わると、市町村の事務負担は膨大なものとなり、大混乱となるはずだ。

具体例で説明しよう。下図のように、社会保障国民会議の案では、就労促進の観点から、年収が一定額(74万か106万)以上で住民税非課税ライン(119万円)までの間の人には定額の給付を行うとなっている(当該一定額より収入が少ない人は給付を受けられない)。

社会保障会議国民会議資料より、太線が所得毎の給付額の水準

ところが、住民税非課税ライン以下の住民の収入の把握は、税務署ではなく自治体が簡易申告により行っている(社会保険料算出のため)。この簡易申告は税務署の厳格な確定申告とは大きく異なり、証拠書類なしで申請者が収入額などを自己申告すればよい自治体が多く、かなりいい加減なものとなっている。

つまり、この簡易申告の仕組みを使って収入把握と給付を行った場合、収入が給付対象の最低額より少なくて本来は給付を受けられない人も、自分で勝手に収入額を増やして簡易申告すれば簡単に給付を受けられることになるので、不正申告と不正受給が大きく増える懸念があると言わざるを得ない。

不正申告と不正受給を防ぐとともに、自治体の事務負担の増大を避けるためには、本来ならば給付対象者となる低所得者に確定申告を義務付け、国税当局が所得情報を厳格に把握すべきだ。かつ、給付もマイナンバーを活用して国が電子的・迅速に行う方が、間違いなく起きる市町村での実務の混乱を避けて円滑に給付を行うのに最も合理的なはず。それにもかかわらず、自治体に負担を押し付けようとしている社会保障国民会議は一体何を考えているのだろうか。

低所得層への支援のはずが実情は“バラマキ”

多くの方は関心ないと思うので、その他の多くの問題点については説明しないが、最後に一つだけ気になる点を挙げておこう。

給付付き税額控除の目的が低所得層の支援と就労促進であることを考えると、給付額がゼロになる所得水準(上のグラフで右端)をあまり高く設定すべきではなく、本当に生活が苦しい低所得層に手厚い給付(例えば年収300万円以下の層に最大年間20万円の給付)を行うべきだ。

ところが、例えば社会保障国民会議にも出席している国民民主党は、“低所得”ではなく“中低所得”の勤労世帯に1人5万円の給付を主張している。これでは単なるバラマキであり、低所得層の生活支援の効果も就労促進の効果もない。

社会保障国民会議は、本来は高市首相の公約を実現させるための組織のはずが、できない言い訳ばかりを並べたり、おかしな制度設計をして、高市首相の足を引っ張っているようにしか見えない。

そして残念なのは、マスメディアはこの会議の側の言い分、出来ない言い訳しか報道しないことだ。それでは高市首相の目指す理想を実現することも、政策を正しくすることもできない。読者の皆さんには、ネットを活用して正確な情報を得て、社会保障国民会議の議論を批判的に見守っていただきたいと思う。

文/岸博幸 内外タイムス