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「あなたがあのとき風俗に行かなければ、みんな今ごろ笑って暮らしていた」

50代の女性Aさんは、今も夫にそう言い続けている。

Aさんの夫は、派遣型の風俗サービス(デリヘル)を利用していた。あるトラブルをきっかけにその事実を知ってから、まもなく1年になる。

配偶者の風俗利用が夫婦の仲に影響を与えることは、決して珍しくない。しかし、それが自分の家庭で起きたとき、夫婦は何を失い、何を抱えて生きていくのか。

Aさんは離婚一択だった気持ちを抑え、「再構築」を選んだ。だが、その道のりは決して「許し」と同じ意味ではなかった。夫の風俗利用が、一つの家族にもたらした「その後」を聞いた。

●崩れたのは夫婦の「信頼」だった

2025年6月。きっかけは出張先で起きたトラブルだった。

「本番を強要された」として、風俗店側が警察に通報。夫が逮捕されたことで、風俗を利用していた事実は、Aさんや子どもたちの知るところとなった。

「真面目な人だと思っていました。この人だけは裏切らない、と。でも、汚い部分があったんだなと。一度裏切られたら、人は引きますよ。やめるチャンスは何度もあったはずなんです」

●頭から離れない「見たことのない情景」

直接見たわけではない。それでも、ふとした瞬間に情景が頭に浮かぶ。

ホテルの一室で金を渡し、裸になった夫。その上にまたがるデリヘルの女性──。

何度打ち消そうとしても、その光景は消えてくれない。

夫婦の日常は大きく変わった。

フラッシュバックに襲われるため、休日に床で寝転ぶ夫の姿を見るだけでも感情がかき乱される。以来、夫は家では椅子に座るようになった。

ホテルで夫が結婚指輪を外していなかったと知ったことも、Aさんの怒りを増幅させた。

当時着ていた下着は捨てさせた。性病検査を渋る夫を病院に連れて行ったこともある。

●GPS共有、罰金300万円の誓約書…家庭に張り詰める緊張感

AさんはスマートフォンのGPSアプリで、夫に居場所の共有を義務づけた。もっとも、夫からもAさんの居場所が見える。

さらに、「二度と利用しない」という誓約書も交わした。違反した場合、300万円の“罰金”を支払うという内容だ。法的効力があるとは思っていない。それでも、何かしなければ気持ちの持っていき場がなかった。

発覚直後は感情を抑えられなかった。会話はLINEを通じておこない、顔を合わせて話すことすら避けていたという。

ときには「手が内出血するくらい」の強さで夫を殴ったこともある。

また、「死をもって謝罪しろ。子どもがいなくなったら私はあなたを殺す」と口にしてきたという。

もちろん、Aさん自身もそれが家庭内暴力(DV)にあたることは理解しており、後になって反省することもある。

●頼ったのは「チャッピー」だった

「責めると、あの人は何も言い返さずに黙るんです。私は言葉が欲しいのに、何も言わない。それがまた腹立たしいんです」(Aさん)

つらい経験を打ち明けられる相手は、案外少ない。

Aさんの両親はすでに他界している。友人や職場の人には、口が裂けても言えないという。事情を打ち明けたのは、義母と子どもたちくらいだった。

心の置きどころを求めてカウンセリングにも通ったが、しっくりこなかった。

「『ご主人に埋め合わせをしてもらえば』と言われたんです。でも、そういうことを求めているわけじゃない。この気持ちとどう向き合えばいいのか、それを知りたかった」

そんなAさんが頼ったのは、対話型AIだった。

「『回復には2〜3年かかる』とチャッピー(ChatGPT)に言われました。やり場のない気持ちを、AIにも夫にもぶつけているんです。

『痛みとともに再構築していくんだ』と考えています。ネットにも本にもそう書いてある。でも、やっぱり許せなくて」

●それでも離婚を選ばなかった理由

それほど苦しいのに、なぜ離婚しないのか。理由は一つではない。

「子どもがいなければ、たぶんすぐ離婚していたと思います」

大きかったのは、すでに思春期を過ぎた子どもたちから「離婚はしないで」と言われたことだった。

また、離婚したところで、この苦しみが消えるとも思えなかった。

「離婚しても、私のつらい気持ちは消えない。それなら一緒にいて、罪の重さを感じてもらおうと思ったんです」(Aさん)

夫は離婚を口にせず、「一緒にいたい」とだけ話しているという。

●風俗と不倫は一緒?

世の中には「風俗くらいで」と片づける声もある。

しかし、Aさんは強く反発する。Aさんの中では、不倫も風俗利用も同じ裏切りなのだ。

一方で、社会人になった子どもは「ガチ不倫じゃなくてよかったよ」と母に声をかけるという。

●失われた父親の威厳

発覚後、家庭内での夫の立場も変わった。

事情を知る子どもたちは、外でパトカーのサイレンが鳴ると、「ほら、警察がパパを呼んでるよ」とからかうという。

かつてあった父親としての威厳はもうない。もっとも、夫にも変化はあった。

Aさんは肉料理が苦手だ。以前は、家族のために肉料理を作っても、自分が食べられるものがなく、Aさんが愚痴をこぼしても、夫は「買ってくればいい」と突き放していた。

それが今は違う。夫のほうから「ママの食べるものはあるの」と気にかけ、刺身を買って帰るようになった。

仕事で疲れると先に寝ていたのに、洗濯物を畳むなど家事にも手を伸ばすようになった。促されて「愛してます」とLINEを送ってきたこともある。

もしかしたら、体を動かしてないと家の中に居場所がないのかもしれない。

●「次の出張には私もついて行く」

「雨降って地固まるじゃないけど、お互いに思いやりが芽生えたところはあると思います」

そう話すAさんだが、関係が元通りになったわけではない。許したわけでもない。

夫は最近になって、再び出張へ行く話をするようになった。Aさんは、そのときは自分も同行するつもりだという。

裏切りの記憶は消えず、許すことはできない。怒りも完全にはなくならない。それでも、ともに生きていく。Aさん一家の「再構築」は、いまも続いている。

●離婚問題にくわしい弁護士「風俗利用が即離婚の理由にはならないが」

離婚問題にくわしい原口未緒弁護士は、配偶者の風俗利用が発覚しただけでは、直ちに法的な離婚事由にはなりにくいと指摘する。

「『不快だからやめてほしい』と何度も伝えているにもかかわらず、それを繰り返すような場合には、離婚事由になりうると考えられます」

では、再構築を選んだ妻たちは、どのような苦しみと向き合うことになるのだろうか。

「再構築を選んだ場合、最も苦しむのは、自分自身の気持ちとの向き合いです。その苦しみはAさんにしかわからないものです。 なぜ自分がこんなにも苦しいのか。カウンセラーなどの力も借りながら、時間をかけて紐解き、まず自分自身を癒していくしかありません。 誰かが穴埋めできるものではないのです。過去は変えられない以上、自分が本当に望む未来へ目を向けることが大切です」

一方、夫側はどのような姿勢が求められるのか。

「ご主人にできるのは、開き直らず、相手のせいにもせず、価値観が違ったとしても『そう感じるのだ』と受け止めながら、根気強く耳を傾けることです。Aさんがご主人の優しさに気づいておられるように、愚直なまでに誠実な姿勢を続けていけば、その思いが相手に伝わる日も必ずやって来ると思います」

●「いい時もあった夫婦だからこそジレンマがある」

配偶者の風俗利用や不貞は、当事者にしかわからない深い苦しみを残す。離婚という決断をしたとしても、その痛みが消えるとは限らない。

別れるか、やり直すか。どちらを選んでも平坦な道ではない。同じ岐路に立たされたとき、私たちはこの夫婦から何を学べるだろうか。

最後にAさんは、言葉を探しながらこう語った。

「子どもがいると、簡単には縁を切れません。いい時もあった夫婦だからこそ、ジレンマがあるんです。性欲は理性に負けるんでしょう。でも、思いとどまる機会は何度もあったはずなんです」

【取材協力弁護士】
原口 未緒(はらぐち・みお)弁護士
東京弁護士会所属。心理カウンセリング・アカシックリーディングも併用しながら、こじらせない円満離婚の実現を目指します。著書『こじらせない離婚―「この結婚もうムリと思ったら読む本」(ダイヤモンド社)
事務所名:法律事務所mio.
事務所URL:https://www.mio-law.com/