尾崎豊が息子・裕哉に贈ったキス、ミニ豊のような姿…尾崎繁美が振り返る「20年愛され生きてきた軌跡」
1992年4月25日、34年前に26歳で旅立った尾崎豊さん。令和になった今も尾崎さんの曲たちは多くの人に愛され続けています。そんなカリスマ的人気を誇っていた尾崎豊さんと18歳で運命的に出会い、20歳で結婚をした繁美さん。さまざまな紆余曲折を経て、21歳で息子・裕哉さんを出産。やっと穏やかな家族の幸せを掴むと思った矢先、繁美さんは24歳で最愛の夫と死別するという凄絶な別れを経験しています。
尾崎豊さんの没後30周年を機に、繁美さんは封印を溶くように連載『30年後に語ること』として発表。その後、2023年7月からは、豊さんが旅去ってからの、息子の裕哉さんと暮らしたボストンでの日々を『笑顔を守る力』として定期的に寄稿いただいています。
今回は、息子の尾崎裕哉さんが20歳になったときに、繁美さんが贈った手作りの特別なDVDについてのエピソードを寄稿いただきました。前編では、20歳の息子にDVDを贈ろうと思った母としての気持ちについて、後編では繁美さんの思いを詰め込んだDVDの内容とはどんなものだったのか、引き続き綴っていただきます。
『ふたつの心』に込められた愛
DVDの前半は、裕哉の誕生を心待ちにしていた妊娠後期に、豊と出かけた船上ディナーの写真から始まります。そして、生まれてから間もない赤ちゃんに、慣れない手つきでミルクを飲ませる豊の姿。初めての子育てに向き合いながら、懸命に息子を慈しむ新米パパとママの日々を、ホームビデオの映像とともに辿りました。
そのパートを包み込むように流れるのは、豊の『優しい陽射し』です。
後半には、日本のアメリカンスクールで過ごした高校時代から20歳までの歩みを収めました。高嶋ちさ子さんと軽部真一さんの番組『めざましクラシックス』に出演し、『I LOVE YOU』を歌唱した時の映像。仲間たちと過ごした青春の日々。そしてクライマックスには、成人式の日にグランドハイアットの写真スタジオで撮影した家族写真と、その後ホテル内のお寿司屋さんで、裕哉と私がビールで乾杯する映像を選びました。
この後半を彩ったのが、豊の『ふたつの心』でした。
裕哉に贈ったDVDで使用した『優しい陽射し』と『ふたつの心』は、豊の生前最後のアルバム『放熱への証』に収録されている作品です。私にとって、この2曲はどちらも人生の大切な記憶と深く結びついた格別な存在です。
なかでも『ふたつの心』には、忘れられない思い出があります。それは、別居という時間を経て、私たちふたりが再び同じ方向を見つめ始めたころに生まれた楽曲だったからです。
DVD前半に収められている映像の中には、ちょうど豊が『ふたつの心』や『優しい陽射し』を書いていたころの写真も登場します。再び愛を確かめ合いながら、家族として新しい時間を紡ぎ始めていた私たち。だからこそ、映像の中に映る何気ない笑顔や眼差しが、あのころの想いと重なり、胸に迫ってくるのです。
そして『ふたつの心』は、豊が私へ届けてくれた“もう一度愛を信じてほしい”という願いが込められたラブソングでもありました。あの旋律を聴くたびに、ふたりで未来を見つめ直そうとしていた日々が、今も鮮やかに蘇がえります。
曲が完成したとき、豊は一本のカセットテープを私にプレゼントしてくれました。
「離れていたときも、繁美の心が聞こえたんだよ」
そんな言葉を添えて。
あのときの私は、その言葉にどれほど救われたことでしょう。だから私にとって、この2曲は単なる作品としてではなく、思い入れが深いです。ふたりがもう一度向き合い愛を確かめ合った記憶そのもの。まさに、私にとっての”愛の証”なのです。そして今、再びこの2曲を聴きながら、愛には時を超えて受け継がれていく力があることを、改めて感じています。
愛されて生きてきた軌跡
DVDは、幼い裕哉の成長の断片が、時系列に沿って刻まれています。生まれたばかりの裕哉に優しくキスをする豊。百日祝いで集った家族みんなの笑顔。板橋区前野町で始まった子育ての日々。 遊園地の汽車ではしゃぐ父と息子。パパにに抱っこされながら眠る姿。おもちゃのミニギターを抱え、まるでリトル豊のように歌う幼い裕哉。
その映像が流れるたびに、あのころの時間が一気に胸の奥に戻ってくるような切なさがあります。けれど同時に、映像の中に残された愛が、今もなお私の心を温めてくれるのです。
もちろん、そのDVDには幸せな記憶だけが収められているわけではありません。豊が旅立った直後の言葉にできない深い喪失感。幼い裕哉を抱えながら、これからどう生きていけばいいのかも分からず、それでも前を向くしかなかったあのころの私が映っています。
母子ふたりで渡ったボストンでの暮らし。慣れない異国の地で、言葉や文化の違いに戸惑いながらも、少しずつ自分の世界を広げていった裕哉。そして、私自身もまた、自分の世界を再び見つめ直していきました。
日本語学校で夢中になって走った運動会。 ハロウィンの仮装やクリスマスプレゼントに胸を躍らせていた少年時代。 親元を離れ、寄宿舎で自分自身と向き合った日々。仲間と汗を流した野球の試合。 アメリカンスタイルの卒業式。 そして、慶應義塾大学の入学式......。
振り返れば、決して平坦な道のりではなかったかもしれません。 ですが、ひとつひとつの出来事が今の私たちへと繋がっているのだと感じています。
人は、新しい出逢いや優しさ、そして愛や信頼によって、再び前を向くことができる。そのことを私は、人生の折々で出会った人たちから学びました。
誰かを愛すること。 誰かを守ろうとすること。 そして、自分自身もまた、多くの人に支えられながら生きているということ。そんな人生の大切なことが、このDVDの中に詰まっていました。
成人という節目に、母として本当に贈りたかったもの。それは、「あなたは、生まれたその日から、たくさんの愛に見守られてきた」ということを伝えたかったのかもしれません。そしてそのDVDは、 20年という時間そのものを包みこんだ、世界にひとつだけの贈り物になりました。
手紙に込めた大切な想い
私は、このDVDの最後に裕哉へのメッセージを添えました。そこに綴ったのは、とてもシンプルな想いです。
「息子の成人式を迎え改めて思うことは、優しさと愛情に溢れるヒロ君の母親でいられて、ママはとても幸せ者です。きっとパパもそう思っていますよ」
そして、
「これからは、愛と勇気と可能性を持って、世界や社会に貢献できる”大人”として人生を歩んで行って下さい」
言葉に込めたのは、これまで母として抱いてきた願いの“中間報告”のような気持ちと、人のために尽くせる、与えることができる大人になってほしい、そんな願いも込めました。同時に、ずっと胸の奥にしまっていた「ごめんね」も書いたのです。パパのいない人生の中で、ママの私も忙しさに追われ、裕哉に充分寄り添えず、寂しい思いをさせてしまったかもしれない。その想いも手紙に託しました。
最後に、母として少し照れくさいけれど、どうしても伝えたかった言葉も書き添えました。
「愛してるよ!!」
普段はなかなか口にできないその一言に、20年分の想いを込めたのです。
このDVDに収めたのは、笑顔の写真だけではありません。泣き顔も、不機嫌な顔も、どこか寂しそうな表情も入れました。人は喜怒哀楽とともに生きています。うれしかった日も、傷ついた日も、迷いながら立ち止まった日も、そのすべてが人生であり、その人らしさだなと思うのです。
だから私は、きれいな思い出だけではなく、その瞬間を生きていたありのままの裕哉を残したかった。20年という時間の中で刻まれた、かけがえのない軌跡として。
世界にひとつだけの贈り物
振り返れば、このDVDは、たくさんの偶然とご縁によって完成しました。信頼できる人と出逢えたこと。豊の映像を安心して託せたこと。そして、20年の軌跡をひとつの作品として残せたこと。そのすべてが、私には「奇跡」のように思えたのです。
だから今でも私は、このDVDは単なる成人祝いではなく、“天からの計らい”だったのではないかと思っています。映像の中には、笑顔も涙も、喪失も再生もありました。季節を重ねながら、一人の少年が大人へと成長していく姿。その歩みを支えてくれた多くの愛。20年という歳月そのものを包み込んだ、世界にひとつだけの贈り物。
きっとこのDVDは、成人祝いという形を借りながら、私と豊が息子へ贈った、“人生のラブレター”だったのだと思います。
【前編】夫・尾崎豊とクルーズした妊婦時代の写真も…尾崎繁美が息子・裕哉の20歳の誕生日に作った「世界にひとつだけ」の贈り物
