(※写真はイメージです/PIXTA)

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高齢の親が年金だけで暮らしていると、子ども世代は「本当に足りているのだろうか」と不安になります。本人が大丈夫と言っていても、医療費や光熱費、家の修繕費などは年齢とともに増えていきます。親を思い、毎月少しずつ仕送りを続ける人も少なくありません。

「少しでも足しにして」…10年続いた父への仕送り

拓也さん(仮名・48歳)は、地方で一人暮らしをする父・正雄さん(仮名・75歳)へ、10年前から毎月3万円を送っていました。

正雄さんは妻を亡くして以来、築古の持ち家で一人暮らしを続けています。年金は月13万円ほど。家賃はかかりませんが、固定資産税や光熱費、通院費を考えると余裕があるとは言えません。

「父は昔から我慢する人でした。困っていても、絶対に自分からは言わないんです」

拓也さんは、父が頼ってこないことを知っていました。だからこそ、父に断られても毎月の仕送りを続けてきました。

「少しでも足しにして」

「いらん。お前にも生活があるだろ」

そんなやり取りを、何度も繰り返しました。それでも拓也さんは送金をやめませんでした。

自分には住宅ローンもあり、子どもの教育費もかかります。それでも月3万円なら何とか続けられる。父が安心して暮らせるなら、それでいいと思っていました。

総務省『家計調査(2025年)』によると、65歳以上の単身無職世帯では、可処分所得が月11万8,465円である一方、消費支出は月14万8,445円となっており、平均では毎月赤字です。高齢の一人暮らしでは、年金だけで生活を維持することが難しいケースもあります。

拓也さんにとって、仕送りは親孝行のつもりでした。しかし、ある日を境に、父の口調が少し変わります。

「もう、これ以上は要らない」

いつもの遠慮とは違い、はっきりとした言い方でした。拓也さんは驚きました。

「何かあったの? 足りてるならいいけど」

正雄さんは、短く答えました。

「十分だ。もう送るな」

その言葉が、拓也さんには少し引っかかりました。

数週間後、拓也さんは実家を訪ねました。父の様子を確認するためでした。

家の中はいつも通り質素でした。古い茶碗、使い込まれた座布団、少し冷えた台所。贅沢をしている様子はありません。

「本当に困ってないのか」

拓也さんが尋ねても、正雄さんは「大丈夫だ」と繰り返すだけでした。

台所の奥で見つけた封筒…父が黙って残していたもの

その日、拓也さんは台所の棚を整理していると、奥から古い菓子箱を見つけました。中には、茶封筒が何通も入っていました。封筒には、父の字でこう書かれていました。

「拓也から」

「使わない」

「いざという時」

中には、現金が入っていました。拓也さんが10年間送ってきた仕送りの一部を、父はほとんど使わずに残していたのです。

「何だよ、これ……」

拓也さんは、しばらく動けませんでした。

父は、仕送りを受け取りながらも、自分の生活にはほとんど使っていませんでした。食費を切り詰め、暖房も控え、送られてきたお金を少しずつ封筒に分けて残していたのです。

正雄さんは、気まずそうに言いました。

「お前が困った時に返そうと思ってた」

拓也さんは胸が詰まりました。父にとって、仕送りはありがたいものでした。しかし同時に、息子に負担をかけているという申し訳なさを感じてもいたのです。

「使ってほしくて送ってたんだけど…」

厚生労働省『国民生活基礎調査』によると、高齢者世帯では公的年金・恩給を主な所得としている世帯が多く、家族からの援助が生活を支える場面もあります。一方で、高齢の親が子どもに迷惑をかけまいとして、支援を十分に使えないこともあります。

拓也さんはその日、父と初めて家計についてきちんと話しました。毎月の年金、食費、医療費、家の修繕費。何に足りていて、何に不安があるのか。

そのうえで、現金をただ送るのではなく、必要なものを一緒に買うことにしました。冬場の暖房費、病院へのタクシー代、壊れかけていた給湯器の交換費用。父が遠慮しなくても済む形を考えたのです。

親への仕送りは、子どもにとって愛情の形です。しかし、受け取る親にとっては、感謝と同時に遠慮や負い目が生まれることもあります。

正雄さんが台所の奥に残していた、使われなかった仕送り。それは息子を思う父の不器用な愛情が、誰にも見えない場所に積み重なっていたものだったのです。