ラルフローレン 売上1兆2000億円突破の裏にAIアリ。定価販売強化で高収益も

記事のポイント
ラルフローレンはAIをデザイン、物流、エージェント型検索まで拡大し、定価販売強化と高収益化を進めている。
ラックスエクスペリエンスはAIを活用し、高額顧客予測から検索、レコメンド、商品生成まで顧客体験全体を最適化している。
ラグジュアリーブランド各社は、AIを単なる効率化ではなく、高LTV顧客獲得とパーソナライズ強化の中核技術として活用しはじめている。
5月21日、ラルフローレンは2026会計年度の通期売上高が初めて80億ドル(約1兆2000億円)を上回ったことを発表した。第4四半期の売上高は為替変動を除いたベースで前年同期比12%増となり、同社の一桁台半ばという見通しを上回った。
店舗とデジタルを合わせたリテール売上は17%増となり、ラルフローレン直営店とデジタルコマースがけん引したほか、平均販売単価(AUR)は16%上昇した。決算説明会でCEO兼プレジデントのパトリス・ルベ氏は、AURの上昇について、定価販売の強化、値引きの抑制、ターゲットを絞った価格設定、そして好調な商品構成と販路ミックスが要因だと述べた。
定価販売の好調が続いたことも、業績に貢献した。テルシー・アドバイザリー・グループ(Telsey Advisory Group)のアナリスト、デイナ・テルシー氏は決算後のレポートで、ラルフローレンのAUR成長は「印象的な拡大の歩みを続けている」とし、同社のブランド投資の「成功」と「定価で商品を売り切る能力」を示していると述べた。
5月19日、マイテレサ(Mytheresa)、ネッタポルテ(Net-a-Porter)、ミスター・ポーター(Mr Porter)、ユークス(Yoox)の親会社であるラックスエクスペリエンスもまた、第3四半期の決算を発表し、純売上高は約6億6800万ドル(約1002億円)となったことを明らかにした。
同社は通期の純売上高が約27億ドル(約4050億円)に達する見込みとしている。グループの流通取引総額(GMV)は第3四半期に為替変動を除いたベースで0.3%増となり、調整後EBITDAマージンは0.9%に達し、2四半期連続の黒字となった。マイテレサは引き続きグループ内でもっとも好調な事業であり、純売上高は為替変動を除いたベースで9.9%増だった。米国では、マイテレサの純売上高は33.8%増を記録した。
ラルフローレン、AIをデザインから検索まで拡大
ラグジュアリー業界のなかでも積極的にAIを導入する企業として、ラルフローレンとラックスエクスペリエンスはいずれも、定価販売の促進とパーソナライゼーションの向上のために、AI活用をさらに推し進めている。
ラルフローレンでは、2025年9月に開始したAI搭載スタイリング体験「アスク・ラルフ(Ask Ralph)」がその取り組みのひとつだ。しかし決算説明会で、プレジデント兼CEOのパトリス・ルベ氏は、AIがいまや事業のより多くの領域に広がっていることを明確にした。
同氏は、ラルフローレンが「先端技術、AI、アナリティクス」の分野で進展を遂げており、それらのツールを活用して「クリエイティビティ、生産性、顧客エンゲージメント」を強化していると述べた。
これには社内向けと顧客向けの双方の用途が含まれる。ルベ氏は、同ブランドが「デザインプロセスにおいて定番アイテム(コア・アイコン)のアップデートを加速させた」こと、グローバル配送センターに自動化を導入したこと、そして「エージェント型検索(AIエージェントによる検索)やコマースを通じたブランドの認知・発見を可能にした」ことを明らかにした。
この「定番アイテム(コア・アイコン)」への言及はラルフローレンにとって重要な意味を持つ。なぜなら同社の成長戦略は、トレンドのサイクルを追いかけるのではなく、セーターやラグビーシャツ、アウターウエア、ハンドバッグといった、繰り返し売れる定番商品を軸にし続けているからだ。
AIはラルフローレンの投資判断にも影響を与えている。ルベ氏は、同社の高度なデータとアナリティクスがブランド施策に関するインサイトをもたらしており、マーケティング投資を増やす自信につながっていると述べた。マーケティング費は今年度に売上高の7.9%に達し、2027会計年度には約8%に上昇する見込みだ。
ラックスエクスペリエンス、顧客体験全体にAIを実装
ラックスエクスペリエンスでは、AIの取り組みがプラットフォームにより深く組み込まれている。同社の現在の生成AI活用は、マイテレサで長年にわたり続けられてきた予測型AIの利用を土台としている。早くも2021年の時点で、マイテレサは将来価値の高い顧客を特定し、マーケティング予算の配分先を決めるためにAIをどのように活用しているかを公に語っていた。
2021年のBoF(ビジネス・オブ・ファッション)の記事で、クリーガー氏は、同社の顧客ターゲティングは「純粋にAI」によるものであり、初回購入者のうちどの顧客が将来的に高額顧客になる可能性が高いかを見極めることを目的としていると述べていた。このモデルは、初回購入の行動、閲覧履歴、マーケティングメッセージへの反応、決済手段といったシグナルを参照していた。
「我々は長年にわたり、顧客価値推定の予測モデルに基づいて、顧客ターゲティングとマーケティング支出を最適化するためにインテリジェントなアルゴリズムを利用してきた」と、ラックスエクスペリエンスCEOのマイケル・クリーガー氏は今週の決算電話会議で述べた。
その活用はいまや、顧客獲得とマーケティングの枠を超えて広がっている。
「生成AIの革命によって、我々はアルゴリズムの活用範囲を大きく拡大し、より優れた、よりパーソナライズされたリアルタイムのコンテンツによって顧客体験を改善している」と、クリーガー氏は決算電話会議で述べた。同氏は、サイト上およびニュースレターでの商品レコメンド、サイト内検索、サイト上のマーチャンダイジング、商品コピー、商品画像での改善を挙げた。
実際には、ラックスエクスペリエンスはラグジュアリーショッピングの過程における複数の地点でAIを活用しているということだ。すなわち、どの顧客に投資する価値があるか、どの商品やコンテンツを見せるか、検索結果をどう提示するか、商品情報をどう作成するか、といった判断にAIが使われている。
AIを活用した顧客向け機能の多くは、2021年にはじまった同社のGoogle Vertex AIとのパートナーシップによって実現されてきた。これらのコマース向けAIツールは、商品データと、クリック、購入、カート追加といったユーザー行動データを活用し、個々のユーザーに合わせてランク付けされた商品結果を返すことで、パーソナライズされた商品レコメンドを支えている。
ファッションコマース領域でGoogleのAIスタックに頼っているのは、ラックスエクスペリエンスだけではない。アパレル大手のギャップ(Gap Inc.)は2025年10月にGoogle Cloudと提携し、Vertex AIなどのツールを活用して商品開発の迅速化、パーソナライゼーションの向上、店舗オペレーションの効率化を進めている。
また、ランジェリーブランドのヴィクトリアズ・シークレット(Victoria's Secret & Co.)は2024年以来、Google Cloud AIと生成AIを活用して、よりパーソナライズされたショッピング体験を提供している。
ラックスエクスペリエンスは舞台裏でも生成AIを活用している。クリーガー氏は、2025年4月の買収以降進めているネッタポルテとミスター・ポーターのテック改革を通じて、同社が「ソフトウエア開発で大きな恩恵」を見ていると述べた。同氏は、AIの「ユースケースを絶えず拡大している」と語り、「顧客体験の品質と精度の向上」に重点を置いていると述べた。
[原文:Luxury Briefing: Ralph Lauren and LuxExperience turn to AI for styling, search and high-value shoppers]
Zofia Zwieglinska(翻訳、編集:藏西隆介)
