議員名点呼もAI音声で…衆議院が導入、読み飛ばし防止・職員の負担を軽減
衆議院が、今国会から採決時などの議員の点呼にAI(人工知能)音声を導入した。
これまでは衆院事務局の職員が読み上げてきたが、議員名の読み飛ばしで投票をやり直したこともある。ミスの防止とともに、職員の負担軽減にもなるとして、最新技術を取り入れることになった。(岸田藍)
議場にどよめき
「渡辺真太朗君、辰巳孝太郎君、林拓海君……」
3月13日午後2時過ぎ、衆議院本会議場。野党4党が提出した坂本哲志予算委員長(自民党)の解任決議案の賛否について投票する議員464人の名前が、AIによる男性の声で初めて読み上げられた。
同日夜の新年度予算案の採決では、今度は女性の声が流れ、議場にはどよめきが起きた。2回とも名前の読み間違いはなかった。
名簿に折り目
衆議院では、議案の採決や首相指名の投票の際、主に衆院事務局の秘書課長が議員の点呼を担当してきた。同事務局によると、明治23年(1890年)の第1回帝国議会から続いてきたとみられる。
ミスが投票のやり直しにまで至ったのが、1993年8月6日の特別国会で行われた首相指名選挙だった。政権交代で非自民の8党派による連立政権が誕生し、細川護煕首相が指名されることになったが、投票時に28人分の議員名を読み飛ばすミスがあった。議場が騒然となる中、土井たか子議長(当時)が「改めて投票を行う」と宣言し、異例の再投票が行われた。
「一番プレッシャーのかかる業務だった」。2022〜23年に秘書課長を務めた石塚公彦議事部長(62)は、そう振り返る。
誤読防止のため、議員名簿には、一人ずつ読み仮名を振っていた。ページを飛ばさないよう、名簿の左下には折り目をつけ、次のページの先頭に来る議員の名前を記していた。毎回、他の職員が議員役となって予行演習も行っており、担当者自身も練習を重ねていたという。
しかし、2月の衆院選で自民党が大勝し、第2次高市政権が誕生した今の特別国会でも、議長、副議長選や首相指名選挙で読み間違いがあったという。
議員の滞留も
こうした状況を踏まえ、2月20日に開かれた議院運営委員会理事会で、中道改革連合の中川康洋・野党筆頭理事が、職員の負担軽減と誤読防止のため自動音声の導入を提案。3月12日の同理事会で、与野党が合意してAI音声の導入が決まった。
AI音声は、職員が専用のソフトに議員名を打ち込んで作成する。AIが音の高さや言葉の区切り方を調整し、人が話すような音を出す。初期費用と年間の使用料はそれぞれ6万円。
ただ、職員のように議場の状況を見て読み上げる速度を調節することはできず、これまでの2回では、実際に投票待ちの議員の滞留も起きた。衆院事務局は次回から読み上げの時間を延ばすという。
石塚部長は「国民の代表である議員の意見表明を下支えする誇りがあったが、これも時代の流れ。AI音声はなめらかで聞きやすく、何よりミスの心配がないのがいい」と話した。
機器の不具合などでAI音声が使えない場合は、従来通り職員が読み上げる。一方、参議院はAI音声の導入予定はないという。
交通や学習、幅広く導入
AI音声は、様々な分野で導入されている。
衆議院にAI音声ソフトを提供している「リードスピーカー・ジャパン」(東京)によると、活用の場は公共交通機関や学習教材などに広がり、契約企業は国内では約1800社、海外では約1万2000社に上るという。
JR東海は2023年5月から、東海道新幹線の駅のホームで、新幹線の発着をAI音声で知らせている。大阪中心部と関西空港を結ぶ路線を運行する南海電鉄(大阪市)も、一部の駅のアナウンスで導入している。
長野県議会は、委員会や各会派の会議の開催を知らせる庁内放送にAI音声を使用。職員が放送設備の前で準備する手間が省け、読み間違いもないという。文具製造販売会社「ナカバヤシ」(大阪市)は昨年6月の株主総会から、業績などを報告するナレーションに活用している。
