「“瞬間時給”は5000円」芸人バイトの定番・水道検針員ほか「ブルーカラー」年収爆上がりの“真実”を現場に聞いた
米国では建設現場や運送業など、“ブルーカラー”の仕事で財を成す「ブルーカラービリオネア(億万長者)」が続出している。では、日本ではどうだろう。リクルートワークス研究所による、2020年と2024年の年収上昇率の調査で、上位にランクインした水道メーター検針員、タクシー運転手、とび工の当事者を直撃した!
【水道メーター検針員など外勤事務従事者】年収約301万円(2020年)→ 約411万円(2024年)
お笑い芸人の間で、脈々と受け継がれているアルバイトが水道メーターの検針員だ。もっとも“古参”だといわれているのが、勤続28年となる「チャーミング」の野田ちゃん(50)。
「大学を卒業して、最初に見つけたバイトでした。僕が直接、紹介した芸人は20〜30人ぐらい。そこからねずみ講のように広がり、いまは100人以上の芸人がやっていると思います。紹介料をもらうシステムにすればよかった(笑)」
野田ちゃんが紹介した「や団」の本間キッドから紹介されて始めた「みちがえる」のたけし(41)は、10年め。賃金は、検針した件数で支払われるという。
「慣れてくると、1時間で100件くらいは見られるんです。瞬間的な時給は5000円くらいになりますね。準備の時間もありますし、その時給のまま、何時間も働くことはできないですけど」(たけし)
たけしの手取りは月に約20万円で、野田ちゃんはおよそ10万円。芸人とかけもちのため、「外勤事務従事者」全体の年収と比べると少ないが、お笑いのオーディションやライブが少ない午前中に仕事を詰め込める検針員は、芸人との相性がいいのだ。ただ、苦労も多い。
「メーターの上に、瓶ビール6ケースとか、載っかっていることがあるんですよ。それをどかして、検針してまた戻す。超大変ですね」(野田ちゃん)
「僕は、雪が降った次の日、雪だるまが載っていたことがあります。ちっちゃい子ががんばって作ったものを壊すのが、申し訳なくて。これからの季節だと、自転車で坂道の多い町をまわるのも、めちゃくちゃキツいんです。でも――」
と、たけしは“爆上がり”の恩恵が届き始めたことを教えてくれた。
「じつは2025年から、電動自転車が支給されるようになったんです! 上り坂が楽になって、本当にうれしいです」
野田ちゃんには、さらなる朗報も届いた。
「2025年、初めて給料が上がったんです。27年間、一度も変わらなかったので、このまま同じだと思っていたんですよ。そしたら、ついに見直されて驚きました。しかも、夏には空調ウエアが支給されるようになり、明らかに待遇がよくなりました」
待遇が改善され、喜ぶ2人だが、スマートメーターの普及で“人の目”による検針が減りつつある現状も。野田ちゃんが嘆く。
「同業他社の面接に行った芸人が『3年後にはなくなる仕事ですが、いいですか?』と言われたみたいなんです。うちの会社の人は『そんなことないよ』って言ってくれるんですけどね。売れるまで水道のバイトはやめねえぞ、と思ってたんですけど、まさか先にこっちがなくなるかもなんて思わなかったっすわ!」
■50代で転身したタクシー運転手は「先月は過去イチ40万円! 75歳でも働けることが魅力」
【タクシー運転手】年収約300万円(2020年)→ 約415万円(2024年)
賃金上昇率がトップとなった、タクシー運転手に聞いた。
「言われているほどよくないですよ」
そう苦笑するのは、神奈川県内のタクシー会社に所属する片桐望さん(仮名・57)。営んできた事業が傾き、約1年前に転職した。
「とくに専門的なスキルがない私が転職先を探したとき、求人が多かったのが、介護職とタクシー運転手でした。タクシーは、がんばった分だけ収入が上がることと、75歳ぐらいまで働けることに魅力を感じたんです」
片桐さんは隔日勤務で、月に最低12乗務をこなす。朝7時から翌朝3時まで働き、勤務明けは休みになる。公休も月6日ほどあり、明け日と合わせれば3連休になることも。
「朝7時から16時ごろまでぶっ続けで働き、2時間ほど休憩して夕食を取ります。節約のため、妻の手作り弁当を持参しています。その後は、終電後の“稼ぎどき”に合わせて深夜まで働き、帰社して洗車や掃除を終えると、朝4〜5時ぐらいになりますね」
収入になるのは、売り上げの約6割だ。
「夜間手当や無事故手当などを含め、月の手取りは33〜34万円ぐらい。先月は過去イチで、40万円でした。ただ、やはり手取り30万円前後がボリュームゾーン。月50〜60万円を稼げるのは、東京都内でも上位10%ぐらいのようで、横浜だと厳しいですね」
インバウンド需要もあり、深夜帯には“ロング客”を引き当てることもあるという。
「いちばんのロングは、横浜駅から成田市内のホテルまでで、4万2000円でした。横浜では利用者の1割ぐらいが外国人ですね。5000円のチップをもらったこともあります。運賃が5000円だったんですが、1万円を払ってくれたんです」
また、最近は配車アプリ経由の利用も増えている。
「アプリは、お客さんのいる場所が地図ですぐわかるので便利ですね。郊外だと自宅で待っているお客さんも多く、効率よくまわれます。無線が鳴ったら10秒以内に取らないと、ほかの運転手にまわってしまうので、そこは早い者勝ちですけどね」
転職して約1年。感想は?
「数字がいかないとキツいですが、年金をもらいながらやっている人も多いので、50代半ばで転職を考えている方にはちょうどいいと思います。今後の心配は、自動運転が増えたらどうなるかということですかね」
■とび工は国基準では「月70万円」も! だが現実は……
【とび工など建設躯体工事従事者】約374万円(2020年)→ 約492万円(2024年)
「とび工や鉄骨工など、建物の骨組みを作る建設躯体工事は、どうしても“3K”のイメージが強いんですよね。高所作業が多く、怪我をしたら一生、働けなくなる危険もある。体力勝負の仕事で、若い人から敬遠されがちなんです」
と話すのは、建設会社「秀英」(東京都練馬区)の栗原秀記代表だ。従業員は約20名で、常時50名ほどの職人を動かしている。
「躯体(くたい)業は、足場の組み立てや安全ベルトの使用などの資格が必要で、講習にも時間がかかります。さらに若い人にとっては、建物の骨組みを作ったら終わりなので、達成感を得づらいようなんですね。一方、内外装工事は、仕事の成果が目に見えやすく、充実感があるというんです。20〜30代はそちらへ流れる人が多く、躯体業は50代が中心。高齢化も進んでいます」
とはいえ、人手不足が深刻化するなかで、現場の単価は上昇している。
国土交通省が定める建設現場の日当の基準額では、とび工の8時間あたりの単価は、全国平均で3万780円。前年同月比で4%も上昇している。栗原氏が仕事をする東京都は3万3100円と高く、全国一の沖縄県では3万5100円にもなる。
「国交省の想定では、月21.5日働けば、月65〜70万円になる計算です。数字だけ見れば、かなり稼げる仕事ですよね。もちろん実際は、現場の進捗や下請け構造もあるので、手取りはそれよりも下がると思います。ただ、建設業は請負仕事なので、腕のある職人ほど収入を伸ばせる世界でもあるんです」
だからこそ栗原氏は、現場を支える職人が、技術に見合った稼ぎを得られるようにするべきだと話す。
「国の基準単価は上がっていますが、私が現場で働いていた30年以上前と比べても、職人さんが実際にもらえる請負単価は、そこまで大きく変わっていないんです。当時の私は、昼は現場監督、夜は職人をかけもちし、月に100万円は稼いでいました。しかしいまの時代、若い人にそんな働き方をさせるわけにはいかない。請負単価をもっと上げて、現場の職人さんにお金が回るようにしたいと思っています」
栗原氏は、人手不足が続く建設躯体業は、今後も需要がなくならない仕事だと見る。
「若い人が少ない分、これから技術を身につければ重宝される時代になると思います。“超高給”といえるかはともかく、10年、20年は十分、稼げるはずです。そのためにも、働きやすい環境を整えていくことが大事だと思っています」
今回、紹介した現業系の職種は、いずれも社会に欠かせない仕事だ。その価値が見直され始めたいま、日本でも“ブルーカラー”から“ビリオネア”が生まれるかもしれない。
■「事務系優位」は“見え方”の違い!? リクルートワークス主任研究員の衝撃分析
「日本はこの約30年間、職種ごとの収入が固定化されていたんです。そういう時代が終わり、いまは『稼げる仕事』がどんどん入れ替わっています」
こう話すのは、リクルートワークス研究所の主任研究員・古屋星斗(しょうと)氏だ。厚生労働省の調査をもとに、同研究所が2020年と2024年の職種別年収を比較したところ、トップのタクシー運転手は、なんと38.3%の伸びだった。
「もちろん、2020年がコロナ禍だったことを考慮する必要はあります。それでも、タクシー運転手は直近のデータでもさらに上がっています。インバウンドも含め需要が増えたこと、配車アプリの導入で客を探す待ち時間が短縮され、生産性が上がったことなどが理由です」
とくに大都市部では、「現場仕事」で高収入を得るケースが増えているという。
「建設躯体工事は、以前から平均年収がホワイトカラーより高いケースもある仕事でした。都市部とそれ以外で地域差はありますが、大手建設会社が受注を止めるほど人手不足が顕著です。賃金は需要と供給で決まるため、働き手が足りていない業界ほど上がりやすくなっています」
ブルーカラーとホワイトカラーとの間に賃金上昇率の差が生じてきた“カラクリ”について、古屋氏はこう分析する。
「現業系の仕事は、仕事内容が比較的、想像しやすいですよね。一方、金融バイヤーや経営コンサルタントのような事務系の仕事は、何をしているのかが見えにくい。“ホワイトカラー優位”のイメージは、そうした“見え方”の違いにすぎないのかもしれません」
だが、今回の調査でも明らかなように、そうしたイメージは変わりつつあるのだ。
「現場の仕事に携わる方は、何歳になっても求められます。本当に社会に必要とされる仕事の価値が、見直され始めているのでしょう」
