「公害の原点」と言われる水俣病は、被害が確認されてから70年がたった今も救済が道半ばだ。

 被害者は高齢化が進む。できる限り広く救済と支援を行うことが政府の責務だ。

 水俣病はメチル水銀による神経系の中毒症状で、1956年5月1日に公式確認された。熊本県水俣市にあるチッソの工場から海に水銀が排出され、汚染された魚介類を食べた住民が発症した。

 患者は熊本、鹿児島両県で計2284人に上る。ただ、認定されなかった被害者も多く、国は救済法を制定するなどして、4万人以上に一時金を支給してきた。

 その対象からも漏れた人たちが裁判を起こし、今も法廷闘争が続いている。原告は約1500人に上り、平均年齢は75歳に達する。個々の裁判は、救済すべきかどうかで司法判断が分かれている。

 救済法は「あたう限りすべて救済され、問題の解決が図られるように努めなければならない」と、国や自治体の責任を定めている。原告らと対話を重ね、合意が可能な救済策を探るべきだ。

 水俣病が確認された当時、日本は高度経済成長期にさしかかっていた。経済活動が優先され、国や企業は被害と真摯(しんし)に向き合わなかった。対応が後手に回り、新たなメチル水銀の被害「新潟水俣病」を招く結果となった。

 近年も、発がん性が指摘される化学物質「PFAS」の河川流出や、プラスチックごみによる海洋汚染などが問題になっている。危機意識を高め、迅速に対応することが重要だという、公害の教訓を今に生かさねばならない。

 水俣病問題の風化をうかがわせるような状況も生まれている。

 熊本県宇城市は昨年、水俣病を「感染症」と記したカレンダーを市内の全世帯に配布した。「家庭教師のトライ」の運営会社は「水俣病は遺伝する」という情報を約10年にわたり発信していた。

 どちらも誤りである。水俣病は新型コロナのような感染症ではない。母親を通じて胎児が被害を受けることはあっても、遺伝はしない。情報の発信は正確を期す必要がある。誤った認識が広がれば、差別や偏見を助長しかねない。

 水銀による健康被害は、今も途上国で問題になっている。金の精製時に水銀を使う手法が横行し、河川流出も確認されている。

 水俣病を教訓として、2017年に水銀の使用や輸出入を規制する国際条約が発効した。日本の主導で各国と協調し、世界の「脱水銀」を後押ししたい。