私立大学の「公立大学化」が止まらない…学校に「地域活性化」を担わせる地方首長の重大な責任

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2026年4月、佐賀県武雄市に武雄アジア大学が開学した。開学にあたっては「現代韓国学部」を設置するなど、目新しい施策を盛り込んだが、「現代韓国学部」は「東アジア地域共創学部」に改称される、近隣住民の反対にも遭うなど、紆余曲折あった。結果、初年度は募集定員140名に対して入学者39人と、早くも厳しい状況に追い込まれている。前編『税金20億円投入の「現代韓国学部」が爆死とまで言われる入学者数に…収益性無視の「地方大学」が乱立するワケ』より、続けて報じる。

「公費投入」の成功例が秋田に

新設への投資と、既存大学の延命への投資。性格の異なる二つの公費投入が、日本各地で行われている。では、公費を投じた大学はすべて失敗に終わるのか。実はそうとも言い切れない。

東京都立大学や大阪公立大学、横浜市立大学のように、地域の高等教育インフラとして機能している大都市の公立大学もある。

秋田県の国際教養大学のように全寮制・全英語・少人数という極端に尖った設計で、全国的に支持を得ている大学も存在する。同大学は2004年の開学以来、有名企業への就職率でも都市部の有力大学と肩を並べる実績を積み上げており、秋田という地方に立地しながら全国から学生が集まる大学として定着している。

大学教育に詳しい専門家はこう語る。

「私立大学の公立大学化は、学費が半分程度に抑えられるため、地域の保護者からは嬉しい政策でしょう。公立化で学費が下がったことで、受験生が全国から集まるようになった大学も実際にあります」

ただし、これらの成功例には共通する条件がある。大都市の公立大学であれば、潤沢な税収と巨大な人口基盤があるために、学生への手厚い学費支援も成立する。件の国際教養大学であれば、他にない尖ったコンセプトと長期的な投資があってこそブランドが確立した。また、三条市立大学のように、燕三条の製造業集積という地域特性と大学教育を深く結びつけ、地元定着率を高めたケースもある。

なぜここに、その大学が必要なのか

公費投入の成否は、明確な設立理念と、それを実現する体制と投資が揃っているかどうかで決まる。「なぜここに、その大学が必要なのか」という問いを掘り下げ、その答えを実現するだけのリーダーシップ、長期的な投資体制を確立しなくてはならない。

こうした視点からあらためて見直すと、武雄アジア大学は構想段階から迷走が目立つ。当初予定していた2学部を1学部に変更し、目玉だった「現代韓国学部」も「東アジア地域共創学部」に看板を変更した。そもそも「現代韓国学部」も時流に便乗したもので、10年後の学生集めや入学した学生の将来をどの程度見据えたものか、疑問符がつく。

日本における大学の総数は、現在約800。18歳人口が減少し続けているにもかかわらず、大学の数は横ばいでとどまっている。

「少子化で大学同士が健全な競争をし、負けた大学が淘汰されるのであれば、大学の教育レベルも向上するはずです。しかし実態はそうなっていません。定員割れを留学生で穴埋めし、それでも足りなければ公立化や税金投入で延命する。その繰り返しです」

この構造には既視感がある。1980〜90年代に全国で相次いだ第三セクター方式のリゾート開発や観光施設の失敗と、本質的に同じ病理だ。地方の首長が「地域活性化」を掲げて箱物を作り、採算が取れなくなっても責任を取る者が誰もいない。大学もまた、開学式というわかりやすいゴールに向かってアクセルを踏み続け、その後の運営という本当の問題から目を背けてきた。

武雄市に限らず、全国の市民が自分の自治体の大学に対して問うべきことがある。その大学は本当に地域に必要なのか。考え抜かれたコンセプトがあるのか。10年後も学生を集め続けられる根拠はなんなのか。

賭けをしている場合ではない

「大学を作れば若者が来る」という発想は、因果関係が逆だ。そもそも、地方に大学を作ることで若者の流出を食い止めようという発想自体、根本から問い直す必要がある。スマートフォン一つで世界中の情報にアクセスできる若者たちは、大学の有無よりも、その町で自分らしく生きられるかどうかを敏感に感じ取る。

雇用がなく、文化的な魅力もなく、生活環境も整っていない町に大学を誘致しても、問題の先延ばしにしかならない。結局、卒業生は他の都市へと去っていくことになるだろう。

地方が本当に向き合うべきは、なぜ若者が出ていくのかという根本的な問いだ。住みやすい家賃、働きがいのある仕事、子育てしやすい環境、夜に出かけられる場所。そうした快適なまちづくりの積み重ねこそが、若者に選ばれる町を作る唯一の道ではないか。

大学に地域の未来を委ねる「一か八かの賭け」は、もうやめにすべき時期に来ている。グランドデザインのないまま公費を投じ続けることの代償は、いずれ必ず市民が払うことになる。武雄市の入学者39人という数字は、その未来を暗示している。

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