「娘に帰ってこいと言えない」…セクハラ、世間の目、仕事なし。若い女性が地方を捨てる日

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なぜ若い女性は地元を捨てる?

東京など大都市圏への一極集中と地方の過疎化が、深刻な社会問題となっている。とりわけ若年層、なかでも女性が地方を離れ、地元に戻ってこない背景には、どのような事情があるのだろうか。

若年女性が流出する地域は、将来的な「消滅」の可能性が高まる。女性のみが子どもを産めるという前提において、若年女性の流出は出生数の減少の連鎖を招くことが懸念されているからだ。その結果、税収や行政サービスが他地域より見劣りするようになり、さらなる居住者の流出を加速させる悪循環に陥りかねない。

女性が逃げ出すワースト県は?

総務省の住民基本台帳人口移動報告(’25年)のデータから、都道府県別の転入・転出状況を分析すると、残酷な現実が浮き彫りになる。

1月から12月の転入者数から転出者数を差し引いた数値がマイナスとなる「転出超過」の割合を、女性の比率でランキング化した。その結果、「ー0.4%」以下となったのが、愛媛県から山形県まで計11県に上った。いずれも四国、九州、東北など、大都市圏から離れた地域が中心だ。「ー0.3%」以下まで対象を広げると、岐阜県を含む計22県にまで拡大する。

具体的に女性が出ていく比率が高いのは、愛媛県、長崎県、福井県、秋田県、山口県などである。一方、女性がわずかに増加しているのは、滋賀県、福岡県、大阪府のほか、首都圏の4都県のみという結果になった。

「0.4%」という数字は小さく見えるかもしれない。だが、この減少が10年続けば約4%の減少となり、20年続けば8%もの減少につながる。「0.3%」でも10年で3%、20年で6%の減少となるため、毎年のように繰り返されることで問題は雪だるま式に大きくなっていくのである。

「地元を選べない」女性のホンネ

地方から大都市圏への人口移動は、10代後半から20代前半の若年層が進学や就職を機に行うケースが多い。男性は地元を出てもいずれ戻る人が一定数いる一方で、女性は都会にとどまる傾向が強いとされる。

政府の男女共同参画白書などの分析によると、若年女性が都会へ移る背景には、働きがいや稼げる仕事が都会に集中していることや、地域によっては女性に出産・育児、あるいは男性の補佐的な役割を期待する風潮が残っていることが挙げられる。

NPO法人「地方女子プロジェクト」のホームページでは、次のように問題を提起している。

「地方の女性流出、 それって私たちが問題ですか?」

同サイトによれば、真の問題は「女性が都会に行くから」ではなく、「地元を選べないから」なのだという。

同法人の代表を務める山本蓮さんは、約5年前に地元企業に就職した際、男女で役割がはっきりと分かれている現状を体感し、新卒女子が地元企業で働く難しさを目の当たりにした。そこで2年ほど前にこのNPO法人を立ち上げた経緯がある。山本さんは、地方企業での女性の働き方についてこう語る。

「待遇面でなかなか上に上がれないとか、産休制度が十分に活用できないとか、業種の選択肢が少なく、女性は介護や看護などケアワークに限られることがあります」

さらに、地方ならではの人間関係も女性を遠ざける要因となっている。

「『結婚しないのか』とか、『子どもを産まないのか』とか、あいさつ代わりのコミュニケーションになっているところがあります。お祭りなどのイベントがあると、料理の準備は女性の役割になっているところも多い」

「女は補助」地方の息苦しい現実

ジェンダー問題に詳しい獨協大学非常勤講師の江藤双恵さんは、こうした問題の根底にある構造を次のように解説する。

「日本社会は家父長的な構造があり、性別役割分業意識が他国に比べて相当強く残っている」

家父長制とは年長の男性が支配的なシステムであり、性別役割分業意識とは「男は仕事、女は家事」を基本とし、業務においても男性が主で女性は補助的とする考え方だ。地方では、年配の男性が上座に座り、若い男性や女性は下座といった慣習が残っている地域もあるという。江藤さんは次のように指摘する。

「女性は弱い立場のことが多く、居心地が悪い」

さらに、地方特有の「世間の目」も女性を息苦しくさせている。地方では「あんな変な服を着ていた」といった噂話が広まりやすく、世間の目が気になり居住をためらわせる要因となっている。これに対し、都会は人間関係が緩く、自由がある。江藤さんは、都会の利点についてこう語る。

「セクハラなどで仕事を辞めざるを得なくなっても、都会ならフリーランスでも働いていけるような仕事を見つけやすい」

こうした環境の違いが、女性の地方離れを後押ししている。

「大学でジェンダー(男女格差)問題などを学んだ女性たちは地方へ帰りたがりません。女性の苦労が身にしみている母親も娘に帰ってくるようにと言わないことが少なくありません」

どうすれば女性は地方に戻るのか

若年女性に地域に定着してもらうため、政府や自治体も対策に乗り出している。内閣府地方創生推進事務局は、「女性に選ばれる地域づくり」を進めることが地方創生の観点からも重要であると位置づけている。

デジタル田園都市国家構想交付金を活用した女性活躍の取り組みとして、北海道江別市の就労支援プログラムや、岐阜県恵那市の「女性が生き生きと暮らせるまち推進事業」、徳島県小松島市の「子育て世代をターゲットとしたまちの魅力向上による賑わい創出事業」などが挙げられている。

例えば、札幌市のベッドタウンである北海道江別市は、子育て世帯が多いにもかかわらず、子育て世代が希望する就職先が市内に少ないという課題を抱えていた。そこで、大手ショッピングセンター内に就労支援拠点を開設。相談スペースの横にキッズスペースを併設し、地元企業に特化した求人票を壁に貼り出すなど、子育て中の女性が気軽に相談しやすい環境を整備した。

江藤さんは、地方の中でも子育て支援が充実し、子育て世帯が移住するような「うまくいっているところがある」と評価する一方で、依然として地方は女性にとって「仕事の選択肢が少ないところがあり、自由がないところもある」と課題を指摘する。家事や補佐的な業務など、これまで女性が負担してきた役割を男性も公平に分担していく必要があると訴える。

山梨県で韮崎市男女共同参画推進委員や内閣官房の地域職場・働き方改革推進委員などを務める山本さんも、意識改革の重要性を説く。

「各自治体でワークショップを開き、女性の声を聞く取り組みがあります。そういうイベントを通じて、自治体が意見を吸い上げていくことが大切です」

さらに山本さんは、男女が仕事の役割を公平に分担し、処遇も平等にしていくべきだと提言する。

「働き方は大切です。制度が変わっていけば人の意識も変わっていくのではないでしょうか」

いきなり「男女平等」と意識を一変させるのは難しいものの、仕組みや制度の改善に地道に取り組むことが重要だと強調する。

若年女性から選ばれる地域になるために、地方はやりがいのある仕事を提供し、自由を感じられる社会を構築できるのか。地方は今、難しい課題の克服を迫られている。

取材・文:浅井秀樹