昨年、全国で再開発が相次いでストップ。それでも進む事業はあって…「東京都港区」はそんなエリアのひとつ

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再開発の中止が全国で急増する理由

 計画が頓挫する都市再開発事業が急増している。名古屋鉄道は2025年12月、名古屋駅地区再開発計画と名鉄名古屋駅再整備計画をいったん白紙に戻したが、それは一例にすぎない。JR九州は同年9月、博多駅空中都市プロジェクトの中止を発表。首都圏でも津田沼駅南口の再開発が中止されたほか、新宿駅西南口の再開発も中断している。なかでもJR中野駅前の中野サンプラザ再開発計画の白紙化は、大きな話題になった。

【写真】“憧れの街”が変わる――開発が進む「白金」の風景

 中止や白紙化の主な理由は、いずれの再開発にも共通している。円安を主因とした建設資材の高騰や人手不足による人件費の上昇を受け、工事期間も概算工事費も、当初の予定を大きく上回ることが確実になったからである。中野サンプラザの場合、概算工事費が当初計画の1,810億円から3,500億円余りにまで増加した。

昨年、全国で再開発が相次いでストップ。それでも進む事業はあって…「東京都港区」はそんなエリアのひとつ

 それでも住宅需要や商業施設の需要が伸びていれば、開発に踏み切るケースも出てくるだろう。だが現状では、これから人口が急速に減ることを踏まえ、採算の見通しが立つまで投資を控える傾向が民間企業側で強まっている。それを受け、民間の再開発を後押ししていた自治体も躊躇する例が増えている。

 では、こうして再開発がストップする状況は、はたして憂うべきことなのか。筆者は一言でいえば「ストップ大歓迎」で、これを機に再開発を全面的にやめるべきだと考える。理由は、現在の再開発のスキームが人口増を前提としており、人口の減少が止まる見込みがない以上、いずれ破綻して廃墟と化すことが目に見えているからである。

時代遅れもはなはだしい再開発のスキーム

 都市再開発事業を進めるには、都市再開発法の規定で地権者の3分の2以上の同意が要る。それだけの賛成を得るのは容易ではなさそうだが、多くの再開発事業がそのハードルを難なく超えてきた。理由は最小限の「持ち出し」で事業を進められるので、「得だ」と考える地権者が多いからだろう。

 というのは、建物を高層化して「保留床」と呼ばれる床を生み出し、その売却益を建設費に充てるというスキームなので、地権者は新たな費用の負担はほとんどなしに、新築ビル内の「権利床」に入居できる。だから、自己負担でビルなどを建て替えるより得だ、と考える人が多い。

 つまり「床」を増やすのが前提で、このため、ほとんどの再開発事業がタワーマンションとセットなのだが、いまの時代、拡大を前提に開発をするなどあまりに無理がある。人口減少が予想をはるかに上回る速度で進んでいるからである。

 国内の出生数は2016年、1899年の統計開始以降ではじめて100万人を割り、以後も減り続けている。2024年には70万人を割って68万6,173人となり、2025年は日本総合研究所の試算では66万5,000人程度になるという。国立社会保障・人口問題研究所は2023年に公表した試算で、2025年の出生数を74万9,000人と見込み、66万人台になるのは2041年としていた。日本の少子化がどれだけ急激に進んでいるかがわかる。

 国土交通省は日本の総人口が2050年には1億人にまで減少すると見込む。だが、上記の予測が大幅な前倒しになっていることを鑑みれば、1億人の大台を下回るのはもっと早いに違いない。

 むろん住宅は余る。総務省が2024年9月に発表した2023年の住宅・土地統計調査によると、全国の空き家は総家屋数の13.8%にあたる900万2,000戸で、1993年の2倍に増えた。野村総合研究所が2023年に発表した推計では、空き家の取り壊しが進まない場合、2038年には全国の空き家は2,303万戸に達する。それは日本の総家屋数の31.5%にあたるが、一般に空き家率が3割を超えると治安が急速に悪化し、地域全体がスラム化するといわれている。

 そんな状況なのに、都市再開発事業は都市計画法(1968年)と都市再開発法(1969年)という、高度経済成長のただ中、とめどない人口増を前提に施行された法律にしたがって進められる。加えて、小泉純一郎政権の2002年に定められた規制緩和策がある。同年制定の都市再生特別措置法では、国が「都市再生緊急整備地域」に指定すると容積率などが大幅に緩和される。さらに、自治体から「都市再生特別地区」の指定を受けると、用途地域や容積率などの規制がほとんど除外される。

 筆者が都市再開発事業について「ストップ大歓迎」と記す理由が伝わっただろうか。しかし、いまなお少なからぬ事業が進められ、また計画されている。特にそれが目立つのは、いまのところマンション価格の上昇率が高い東京都港区である。

業者はなにひとつ責任をとらない

 たとえば、麻布、高輪、広尾という高級住宅地に囲まれた白金一丁目地区。元来、町工場と住宅が混在していた地域で、いまも下町風の面影が随所に残っている。それだけにディベロッパーのターゲットにされたようだ。2005年に竣工し、高さ142メートルと116メートルの2つのタワーを中核とする「白金一丁目東地区」を皮切りに、長谷工コーポレーションが主体となって再開発を進めている。2023年には、156メートルと70メートルのタワーを擁する「白金一丁目東部北地区」の再開発も竣工した。現在、その両者にはさまれた「白金一丁目東部中地区」で再開発協議が進められている。

 同地区の再開発準備組合名でまとめられた(だが、長谷工コーポレーションが地権者のもとに届けた)「白金一丁目東部中地区開発コンセプト」には、次のように書かれている。「当該地区は白金エリアにおける『へそ』的な場所に位置しています/周辺でさまざまな再開発計画が進んでおり、それらの計画が完成すると、当該地区はほかの開発から取り残された場所になります/周辺の再開発の中で、この場所が白金エリアの中心として、まちの将来のためにどうあるべきかを考えることが必要です」

 筆者には、この地区の地権者に対する「脅し」としか読めない。だが、「まちの将来のためにどうあるべきか」を、前述した人口減少社会の未来像に照らして考えるなら、「ほかの開発から取り残された場所」になる以外の選択肢はない。

 ちなみに、「白金一丁目東部中地区」の周囲の再開発は、「白金一丁目西部中地区」が2028年、「三田五丁目西地区」が2029年に竣工予定である。さらに「白金高輪駅前東地区」が整備予定で、「白金一丁目西部北地区」でも協議が進められている。つまり、白金一丁目地区がすべて巨大なタワーマンションで埋め尽くされようとしている。

「東部中地区」で複数の飲食店を営む株式会社ビータスの川本一歩副社長がいう。

「再開発など必要がないのに、不動産開発業者が勝手に計画を立て、地権者を巻き込んでいるのが現状です。こうした再開発は、第一種市街地再開発事業として行われ、地権者が以前からもっている権利が新しいビル内に床を取得する権利に移し替えられます。開発の前提としては、土地の利用法などの条件が定められているのに、業者はべつに問題がない地域にも無理やり条件を当てはめます。たとえば、第1種開発の条件の一つに、“耐火建築物が3分の1以下”というのがありますが、すると木造の一軒家はどんなに新しくても耐火建築ではないので、それだけで土地利用が不適当な地域にされてしまう。その時点でおかしいんです。でも、業者は建てて販売したらお終いで、その後、町がゴーストタウンになろうと関係なく、なにひとつ責任をとってくれません」

 実際、事業を進める民間のディベロッパーなどは、現時点での営利を目的としており、建てたマンションを売り切ったあとは、地域の将来に一切の責任を負う必要はない。だが、大変なのはその後である。タワーマンションは修繕に費用がかかるので、一般に修繕積立金が高い。そのうえ大規模修繕や建て替えが必要になれば、積立金の増額が欠かせない。それについて入居者の合意が得られるのかどうか。商業ビルなら所有者の一元管理が可能で、それなら修繕や建て替えもまだしやすい。だが、分譲されたタワーマンションでは、入居者同士の合意形成は至難で、その人たちが高齢化すればなおさらである。結果として、廃墟になるリスクが非常に高い。

SDGsに反する最たるもの

 それなのに港区で再開発への動きがなおも過熱しているのは、現在、東京23区内のマンション価格が高騰を続けているからだろう。

 昨年、23区で発売された新築マンションの平均価格は、不動産経済研究所によると1億3,613万円で、対前年比で21.8%も上昇した。しかも、千代田、中央、港、新宿、文京、渋谷の都心6区にかぎると1億9,503万円をつけた。中古マンションの平均価格も、23区全体で前年とくらべ37%も上昇し、1億1,960万円となった。

 特に新築マンションは、冒頭で述べた建築コストの高騰があり、価格の上昇は避けられない面がある。しかし、この価格では一般の勤労世帯ではなかなか手が出ない。結局、外国人を含む資産家が投資や投機目的で購入するケースが多いようだ。国土交通省が発表したデータでは、23区内の大規模な新築マンションで、購入から1年以内に売却された物件が2024年1〜6月までに575件に達し、前年同時期の5倍になるという。

 では、なぜ都心のマンションが投機対象になるのかだが、最大の理由は低金利にある。日本の金利はいまも物価上昇率よりはるかに低く、事実上のマイナス金利である。企業の借り入れ需要が増えない金融機関は、不動産購入者への(開発者に対しても)融資を増やしてきたので、高値で買う人が増え、業者は強気の値づけをするという悪循環に陥った。また外国人の投機筋には、低金利に加えて円安メリットもあり、日本人以上に日本のマンションを買いやすい。

 だが、すでに記したように、日本の人口は急激に減少する。いずれ日本が金利のある世界に戻り、一定程度の円高になれば、23区における不動産バブルも弾けるだろう。

 そもそもタワーマンションの住民は、周囲の戸建てや低層マンションの住民とは、意識や価値観が乖離しており、コミュニティの形成が困難だといわれる。また、首都直下型地震などの災害時の危険性も、ほとんど検証されていない。そうしたことを考えるのが、公共の福祉を目的とする地方公共団体のはずで、地方自治法でも、社会全体の利益と住民一人一人の人権を調整し、住民福祉を増進させるべく定められている。

 ところが、「白金一丁目東部中地区」を管轄する港区をはじめ、地方自治体は固定資産税や住民税の増収という短期的利益を優先して再開発に前のめりになり、将来における住民の利益を損ねている。

 港区もホームページを見ると、サステナビリティ(持続可能性)やSDGs(持続可能な開発目標)に力を入れているそうだが、すでに明らかなように、急激な人口減少社会における拡大型の都市再開発ほどSDGsに反し、持続可能性が低い事業はない。一刻も早く目を覚まさないと日本がもたない。

香原斗志(かはら・とし)
音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。

デイリー新潮編集部