人間関係を良好に保つにはどうしたらいいか。福厳寺住職の大愚元勝さんは「現代はLINEのレスが早いか遅いかだけで人間関係がギスギスしてしまう。片時も休まず監視する・される社会は、人間関係の距離を縮めるようでいて、逆に、人間関係を壊しかねない」という――。

※本稿は、大愚元勝『仕事も人間関係もうまくいく離れる力』(三笠書房)の一部を再編集したものです。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/primeimages

■「テクノロジー」が親離れ、子離れを阻む

「いまどきの幼稚園」といいますか、保護者へのサービスの一環として、教室にビデオカメラを設置するところが増えているようです。

「子どもたちの様子が、いつでもスマホで見られますよ」というのです。

いっしょに過ごす時間が少なくなると、親子の親密度が薄まるとおそれるのか。子どもの行動のすべてを把握しておきたいのか。あるいは幼稚園を信じて、子どもを任せることができないのか……。

いずれにせよ、このサービスにひかれる保護者の方はおそらく、

「子どもを保育園・幼稚園に預けると、親子の距離がなんとなく広がってしまいそう。ビデオカメラというテクノロジーを利用してもらうと、その心配がなくなるかもしれない」

「カメラという“監視装置”があれば、幼稚園の先生もさすがに悪いことはできなさそう」

などと、いいことだと評価しているのでしょう。

けれども私には、それがいいこととは思えません。

だから、私のお寺の境内にある太陽幼稚園では、その種のサービスを提供していません。導入する予定もありません。理由はおもに二つあります。

一つは、親が子離れ、子が親離れをする機会を逃すことです。

現実には、親が家や職場、子が園にいる数時間は、互いが離れて過ごします。物理的にかなりの距離があります。

ところがビデオカメラがあると、その距離が縮まります。まるで子どもがすぐ目の前にいるような感覚になるでしょう。それは一見いいことのようですが、本当にそうでしょうか。ビデオカメラの手を借りて、親は子離れ、子は親離れができなくなるだけでしょう。

そもそも子どもたちは、園の先生や保育士さんら、親以外の大人からたくさんのことを教えてもらいます。

そういう人間関係の中で成長するからこそ、子どもたちはスムーズに親離れができるようになるのです。

親にしてもそうです。一度ビデオカメラを使うと、自分の目の届かないところで子どもがどうしているかが気になってしかたがなくなります。その結果、子離れができなくなるのです。

■親と子と園の間に「信頼の循環」ができるか

二つ目は、「信頼」をもとにした人間関係をつくれないことです。

親は保育園・幼稚園を信頼して、子どもを預けます。その信頼に応えて、園は子どもの面倒を見、教育を通して健全な成長を促します。園と保護者の間にそういう信頼関係があるから、子どもたちは親の目の届かないところで少しずつ成長できるのです。

ふだんは気づきにくいでしょうけど、ふとしたときに、「園に行くようになって、ずいぶんしっかりしてきたなあ」と感じるのではないかと思います。

あるいは親は子を信頼して、園に送り出します。子どもは子どもなりに「自分は親から信頼されている」と感じるはずです。

もちろん子どもですから、具体的に信頼を意識することはありませんが、知らないうちに確実に“信頼の経験値”が上がります。

ビデオカメラがないからこそ、親と子と園の間に「信頼の循環」ができるのです。

写真=iStock.com/Franci Leoncio
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■社員を「監視」するような会社は伸びない

同じことが、大人の社会にも当てはまります。

たとえば社長が、オフィスじゅうにビデオカメラを設置し、社員たちの仕事ぶりを逐一モニターしている、なんてケースがあります。

社長は社員を監視することが最優先の仕事になり、片時も目を離せなくなるでしょう。当然、「高所大局から会社を取り巻く状況を見て、ビジネスの方向性を判断・決定・実行していく」という社長本来の仕事がおろそかになります。

社員のほうは「社長が見ているから、怠けられない」と、仕事にまじめに取り組むかもしれません。

けれども一方で、常に緊張を強いられるため、いらないストレスをいっぱいため込む心配があります。

結果的に、一人ひとりのパフォーマンスは下がりこそすれ、上がることはないのではないでしょうか。

もとより社員を律することは、社長の仕事ではありません。社員がそれぞれ、自分で自分を律して仕事に励むことが重要。監視は不要です。

またSNSは、一歩間違えると、互いを監視することになりかねません。

たとえば自分がLINEを送って、すぐに「既読」がつかなかったり、返事が来なかったりする。それだけでイライラしたり、怒ったりする人がいます。

レスが早いか遅いか――。たったそれだけのことで人間関係がギスギスしてしまうといいます。

また友だち同士で、朝・昼・晩と休む間もなくチャットをし続ける人たちもいます。

互いが「いま、どこで、何をしているか」がわかっていなければ友だちじゃない、とでもいうように。なんと窮屈なことでしょうか。

■「SNSチェック」に歯止めをかける

さらに親子、友人、恋人、仕事関係の人など、さまざまな人間関係でGPSが使われるケースもあります。

大愚元勝『仕事も人間関係もうまくいく離れる力』(三笠書房)

「いま、どこにいるか」を確認することで、相手が自分を裏切るようなことをしていないか、チェックしたいのかもしれません。

こんなふうにSNSを使うと、互いが互いの行動の自由をかなり奪うことになります。そのために「自分を信じられないのか」となって、信頼関係が崩れることさえあります。

SNS自体が悪いとはいいません。非常に便利なコミュニケーションツールです。ただSNSは、24時間・365日、いつでもつながれるものだからこそ、その密な交流からあえて離れていく力が求められるのです。

この「離れる力」を養わないと、ずっとSNSに張り付いているうちに今日が、明日が、一生が終わってしまう、なんてことにもなりかねないのです。

このように、片時も休まず監視する・される社会は、人間関係の距離を縮めるようでいて、そうはなりません。

逆に、人間関係を壊しかねないものです。生きづらくなるだけだということを頭に入れておきましょう。

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大愚 元勝(たいぐ・げんしょう)
佛心宗大叢山福厳寺住職、(株)慈光グループ代表
空手家、セラピスト、社長、作家など複数の顔を持ち「僧にあらず俗にあらず」を体現する異色の僧侶。僧名は大愚(大バカ者=何にもとらわれない自由な境地に達した者の意)。YouTube「大愚和尚の一問一答」はチャンネル登録者数57万人、1.3億回再生された超人気番組。著書に『苦しみの手放し方』(ダイヤモンド社)、『最後にあなたを救う禅語』(扶桑社)、『思いを手放すことば』(KADOKAWA)、『自分という壁』(アスコム)、『愚恋に説法: 恋の病に効く30の処方箋』(小学館)などがある。
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(佛心宗大叢山福厳寺住職、(株)慈光グループ代表 大愚 元勝)