世界各地で紛争が勃発し、世界中に不穏な空気が広がっています。日本にとっても他人ごとではないのが、近年勃発が危ぶまれている台湾有事について。現役外交官として活躍する島根玲子さんに、今こそ知っておきたい台湾の最新事情について教えてもらいました。

日本文化や日本語がいまも根づいている台湾

そもそも台湾とはどんな場所でしょうか。東京から飛行機で約4時間、日本の南方に浮かぶ島です。沖縄の与那国島からは、天気がよければ肉眼で見ることができるくらい近いところですので、日本人観光客も多く訪れ、親日的なことで知られています。

面積は九州よりもやや小さいくらい、人口は約2300万人です。台湾は、日清戦争に勝ったことで日本が初めて獲得した植民地です。日本文化や日本語は今でも台湾に根づいていて、李登輝元総統が使っていたことでも有名な「アタマコンクリ」という日本語っぽい言葉が「頭の固いヤツ」という意味で使われています。

ほかにも「運ちゃん(運転手)」、「ベンドン(お弁当)」、「アタマショート(頭おかしい)」など、日本語のような言葉が台湾にはあふれています。

街中で地下シェルターが売られている台湾

そんな台湾の街中を歩くと、小籠包や魯肉飯のおいしそうな香りがするとともに、見慣れない看板を見かけます。それが、地下シェルターの看板です。

台湾では、地下駐車場などが一時的に避難する場所として指定されています。大きなマンションや商業ビルを建設する際には、そのような施設をつけることも義務づけられています。

シェルターに収容できる人数はなんと台湾の人口のおよそ3倍。台湾の人がどれだけ日ごろから危機感を感じているかがわかります。

さらに台湾には兵役があります。2024年には、それまで4か月だった兵役期間が、昔と同じ1年に戻されています。台湾の切迫感がふたたび増していることが表れていますね。

もし台湾でなにか起きたら……

万が一台湾でなにかが起きたら、日本にも飛び火する可能性が高いです。だから、私たち日本人は、台湾で起きる出来事を自分ごととしてとらえなければいけません。

さらに、台湾には2万人を超える日本人が住んでいますので、緊急事態があれば、台湾にいる日本人を無事に救出しなければいけません。

中国から台湾まで、戦闘機であれば7分で到達します。もちろん、台湾侵攻という大きなことにはいろいろ準備も必要ですから、今すぐに始まって7分後には…というわけではありません。

たとえば、ロシアのウクライナ侵攻も、すごく急だったと感じている人も多いかもしれませんが、実際には前の年の秋くらいから、ウクライナとの国境付近にロシア軍が集結するなどの前兆がありました。

しかし、もし中国側が決断したら、そこから事態が動くのは早いでしょう。だから、台湾でなにか起きてから考えるのでは遅いのです。わたしたち日本人としても、普段から台湾に関心を持ち、台湾について考えておくべきなのです。

頼清徳総統とはどんな人物か

台湾の内政を見てみましょう。

台湾には、民進党と国民党という2つの大きな政党があります。国民党は中国生まれの政党なので、「中国とは仲よくしたほうがいい」という考えが強く、その一方で民進党は中国とは距離があり、「台湾は台湾なんだ、中国とは違うんだ」という考え方が強いです。

台湾のトップは、「総統」と呼ばれます。現在の総統は、民進党頼清徳という人です。

彼はもともとお医者さんです。炭鉱労働者の家庭に6人兄弟の5番目として生まれましたが、生後3か月のときに父親を炭鉱の事故で亡くし、母親が女手ひとつで育てました。

母親は教育熱心な人で、幼少期の頼清徳はとにかく勉強しました。一方で野球好きでも有名で、「ミスターベースボール」というあだ名まであるほどです。

11日間のハンストと暴行事件で有名になった頼総統

医者である彼はたくさんの人を助けてきました。しかし、それと同時に、自分自身も救急車のお世話になったことが何度かあります。

まず彼が40歳の時、当時の政府に反対するハンガーストライキ(ハンスト)に参加していた時のことです。ハンストとは、飲まず食わずで座りこみをし、抗議の意思を訴えるものです。

11日間、そんな飲まず食わずのハンストを続けた頼清徳は、失神して倒れます。あわてて駆けつけた救急車のおかげでなんとか命は助かりましたが、重度の脱水症状を起こしており、かなり危険な状態だったといいます。

お医者さんなのに、なんて無謀なことをするのでしょう。しかしこの事件のおかげで、頼清徳の知名度は一気に上がります。

次に彼が救急車のお世話になったのは、44歳のとき。一方通行を逆走する車を注意したところ、逆上した運転手らからバットで殴られたのです。頼清徳は目と頭に重傷を負い、救急車で緊急搬送されました。

このように、爽やかな見た目からは想像もできない波瀾万丈な人生を送る頼総統ですが、彼にはこれまで以上に困難な道が待ち受けていそうなのです。

「ミスターベースボール」は、自らマウンドに立って、これからどのような試合展開を見せるのでしょう。