『伊藤家の晩酌』〜第十八夜1本目/ひやおろしの概念が変わる「酉与右衛門 純米吟醸 秋桜」〜
弱冠23歳で唎酒師の資格を持つ、日本酒大好き娘・伊藤ひいなと、酒を愛する呑んべえにして数多くの雑誌、広告で活躍するカメラマンの父・伊藤徹也による、“伊藤家の晩酌”に潜入! 酒好きながら日本酒経験はゼロに等しいというお父さんへ、日本酒愛にあふれる娘が選ぶおすすめ日本酒とは? 第十八夜のテーマは秋だけのお楽しみ「ひやおろし」。1本目はすっきりとした飲み心地の岩手県のお酒。(photo:Tetsuya Ito illustration:Miki Ito edit&text:Kayo Yabushita)
第十八夜1本目は、小さな花が咲いたような余韻の「酉与右衛門 純米吟醸 秋桜」から。
岩手県花巻市の川村酒造店が手がける「酉与右衛門(よえもん)」。岩手県産の酒米「吟ぎんざ」を使用し、ひと夏、瓶熟成させたまろやかさと吟醸のすっきり感が共存した、さわやかな余韻が楽しめる。
「酉与右衛門 純米吟醸 秋桜」720ml 1496円(税別・ひいな購入時価格)/合資会社川村酒造店
娘・ひいな(以下、ひいな)「今回は秋に飲みたい、ひやおろし特集です!去年の秋もやったから2回目になります」父・徹也(以下、テツヤ)「去年の今頃も、ひやおろし特集やったよね?」ひいな「うん。覚えてる?」テツヤ「どうだろ(笑)?」ひいな「まぁ、詳しくは前の記事を見ていただくとして(笑)。この1年でね、ひやおろしの概念が変わったの」テツヤ「お? 新しい動きがあったっていうこと?」ひいな「ううん。私個人のひやおろしに対する考え方が大きく変わったっていうのが大きいかな」テツヤ「へぇ」ひいな「今まではね、ひやおろしには熟成感があるとか、少し重たい感じっていうイメージがあったんだけど、〈住吉酒販〉で働き始めてから、ひやおろしにもいろいろなタイプがあることを知ったの」テツヤ「なるほど、もっと広がったんだな」ひいな「そう! 私のひやおろしの概念が変わった1本を、まず紹介しようかな」テツヤ「そりゃ楽しみだねぇ」ひいな「岩手県花巻市のお酒です!」テツヤ「コスモスかぁ。秋だねぇ」ひいな「これはとりあえず、飲んでみてもらおうかな。このお酒を初めて飲んだ時、これがひやおろしと聞いてびっくりしたんだよ!」テツヤ「へぇ。そりゃ、期待しちゃうね」ひいな「今回は、器をちょっと秋っぽくしてみたよ」

テツヤ「渋いねぇ(笑)」ひいな「私、こういう地味なの好きなんだよね(笑)」テツヤ「ひいなの好みはおっさんみたいだよね。おっさんが言うのもなんですが(笑)」ひいな「うん。それすごい言われる(笑)。この徳利も選んで買ってきたやつだから」テツヤ「なかなかの渋さだよ! ひなびた温泉宿で出てきそうな感じ」ひいな「それ、ほめてるの(笑)?」
ぽってりとしたおちょこが手になじみます。
ひやおろしの概念が変わった一杯、お味は?
口の中に、小さい花が咲きました。
テツヤ&ひいな「乾杯〜!」テツヤ「あぁ〜〜〜」ひいな「これがね、ひやおろしですよ?」テツヤ「すっきりしてない? すごく飲みやすい」ひいな「そう。すっきりしててさ、『秋桜』っていう名前に引っ張られてる感じがすごくあるんだけどね、飲んだ後に、小さい花が咲いてる感じしない?」テツヤ「(笑)。わかる。さわやかな余韻を感じた」
さわやかな余韻にしばらく浸る父娘。
ひいな「キュートなんだよね。キュートなひやおろしって、初めて飲んだ気がする」ひいな「酉与右衛門ってね、冷酒でも、ぬる燗でも、熱燗でもおいしいお酒っていうイメージがあってね。でも、ひやおろしなのに、華やかすぎずかわいらしさがあって、こんなお酒もあるんだ!って驚いて。ひやおろし特集するなら、絶対に紹介しようと思ってたの」テツヤ「毎年出てるのかな?」ひいな「今年初めて知ったから。どうなんだろう」テツヤ「上品な吟醸感があるね」ひいな「お? さすが! 純米吟醸のひやおろしだからさ、純米大吟醸ほどの華やかさはないけど、ちょっと落ち着いた感じというか」テツヤ「うん、ほど良いね」ひいな「和洋中、どんな料理にもいけると思うし、合わせやすいと思う」
「酉与右衛門 純米吟醸 秋桜」に合わせるのは、魚のうまみが溶け出した「キンキの塩煮」
キンキの塩煮には、魚の出汁がたっぷりしみこんだオクラと茄子も合わせて。
テツヤ「このお酒には何を合わせるの?」ひいな「いろいろ迷ったんだけどね、ちょっと酸もあるから、牛タンシチューとかどうかな?と思ったんだけど」テツヤ「いいねぇ」ひいな「前にシチューやったことあったから」テツヤ「あぁ、やったねぇ」ひいな「今回は脂の多い魚にしてみようかなと思って。キンキの塩煮にしてみたよ! 盛りつけも旅館っぽいでしょ?」テツヤ「温泉宿感が増したね(笑)。日本海に面した宿とかのイメージがぴったり」ひいな「このお酒は岩手県の花巻市だけどね(笑)」
キンキのしっとりとした身に、『秋桜』の軽やかさが合います。
花巻の温泉宿の夕食をイメージ!?
テツヤ「これはどうやって食べたらいい?」ひいな「どんなお食事にも合うっていうのが、このお酒の醍醐味みたいなところがあるから、好きなように食べていいよ」テツヤ「なるほど。あっさりしてるね」ひいな「いい感じ?」テツヤ「すごく合ってるよ。このお酒で流すと、本当にバランスがいいねぇ」ひいな「ね。なんか落ち着く感じしない?」テツヤ「うん、わかる。景色が見えてきたよ。花巻の温泉宿が」
土地の気候風土に合わせた米で醸す、我が道を行く酒造り。

ひいな「ちなみに、この川村酒造店がある花巻市石鳥谷町(いしどりやちょう)は南部杜氏の里って言われてて。今はこの石鳥谷町で南部杜氏がいるのはこの酒蔵だけなんだって。南部杜氏組合を立ち上げたのが、ここの初代の川村酉与右衛門さんなんだって。お米は『吟ぎんが』という岩手県の酒造好適米を使ってて」テツヤ「『吟ぎんが』って初めて聞いたよ!」ひいな「ね。岩手県の気候とか風土に合わせた吟醸酒を作るお米なんだって」テツヤ「へぇ。だから、吟醸の吟なんだね。あとは宮沢賢治の銀河鉄道の銀河か」ひいな「そう。お母さんが『出羽燦々』なんだって」テツヤ「え? お米の話?」ひいな「そう。何の話だと思った(笑)?」テツヤ「川村酉与右衛門さんのお母さんかと思った(笑)」ひいな「(笑)」テツヤ「いろいろなお米があるんだねぇ」ひいな「協会7号酵母を使ってるんだけどね、この7号酵母、ちょっと覚えておいてね」テツヤ「OK!」ひいな「この蔵はね、今は我が道を行く酒造りを目指す時代だって言ってて。香りが強いお酒が先行してる時代の中で、香り穏やかな酸味とうまみがリードする酒質を目指してるんだって」テツヤ「へぇ。香りが強いお酒が流行ってるのか」ひいな「うん。吟醸酒のいわゆる吟醸香って言われるのは、カプロン酸エチルの香りなんだけど、よく“カプカプしてる”って言ったりするんだけど、そういうお酒じゃなくて、香りが穏やかでありつつも、ちゃんと料理に合うお酒を作りたいというのをモットーにしてる」

テツヤ「あぁ、確かに。香りが強いお酒って、ごはんと合わせるっていうよりは、ワイングラスで、それ単体で飲むようなお酒だもんね」ひいな「そうだね。純米酒とはちょっと違うかもね」テツヤ「伊藤家としては、やっぱりごはんと合わせておいしいお酒じゃないとね!」ひいな「ね! 食べて飲んでおいしいお酒がやっぱり好きだから」
次回:11月8日(日)更新予定

【ひいなのつぶやき】概念を増やしてくれた「ひやおろし」、ぜひ試してみてください!!!ひいなインスタグラムでも日本酒情報を発信中

