IT企業とプロスポーツの関係が深まっているわけ(佐野正弘)

ゴールデンウィーク前後にかけて、インターネットやモバイルなどIT関連各社の1〜3月期の決算が発表されました。

その内容を見ますと、やはり新型コロナウイルスの感染が急拡大し、政府が緊急事態宣言を発令して外出自粛が要請されたことの影響が少なからず出ているようです。

新型コロナはプロスポーツだけでなくIT企業の業績にも影響

中でもプラスの影響を受けているのはEコマースやフードデリバリー関連、マイナスの影響を受けているのは広告や、旅行、レストランの予約サービスというのは多くの人がイメージしやすいところかと思います。ですが、各社の業績を見ていきますと、意外な影響を受けている事業がありました。

それはスポーツです。新型コロナウイルスの影響でプロ野球やJリーグがリーグを延期・中断し、Bリーグはシーズン途中で終了してしまうなどプロスポーツは非常に深刻な影響を受けていますが、それがIT企業の業績にも影響するというのは不思議な印象もあります。

▲ディー・エヌ・エーの2020年3月期決算説明会資料より。新型コロナウイルスの影響でプロ野球の開催が伸びていることなどが、同社の業績にも大きく影響するとしている

IT企業とプロスポーツの意外な関係性

ですがここ最近、IT企業とプロスポーツは非常に距離が近い関係にあるのです。なぜならIT企業大手がプロスポーツのスポンサーになるだけでなく、チームを買収して運営に携わったりする動きがここ最近になって増えているからです。

ソフトバンクや楽天、ディー・エヌ・エーがプロ野球などのチームを持っていることは多くの人が知るところでしょうが、ソフトバンクはBリーグ、NTTドコモはJリーグに加え、2020年には卓球のTリーグのトップパートナーにもなっています。

また2019年には、メルカリがJリーグの強豪「鹿島アントラーズ」の運営会社の経営権を取得して大きな話題となりましたし、同年にはミクシィもBリーグの「千葉ジェッツ」運営会社を子会社化しています。

▲NTTドコモは2020年3月に、卓球のプロリーグ「Tリーグ」のトップパートナーになることを発表。Jリーグに続いてのトップパートナー契約となる

ミクシィは他にもJリーグの「FC東京」に出資していますし、サイバーエージェントもJリーグ「FC町田ゼルビア」運営会社の株式の80%を2018年に取得して経営に参画、その手法を巡って議論も起こし話題となりました。

こうした傾向からも、多くのIT関連企業がプロスポーツに関わり、大きな影響力を持つようになったことが理解できるのではないでしょうか。

▲メルカリは2019年7月30日に、鹿島アントラーズ運営会社の61.6%の株式を取得したことを発表。子会社化し同チームの経営に大きく関与することとなった

だからこそ、新型コロナウイルスの影響でプロスポーツの試合ができなくなっていることが、チームなどを持つIT関連各社の業績面に影響を及ぼしている訳なのですが、それにしてもなぜスポーツとは関連性があまり高くないように見えるIT企業が、プロスポーツとの関係を深めているのでしょうか。

スピーツで知名度を高めたIT企業も多い

それには大きく2つの理由があります。1つは他の多くの企業と同様、人気チームのスポンサーとなって企業やブランドの知名度を高めるという狙いであり、まだIT産業が若く企業の知名度が低かった時代には、特にその傾向が強かったといえるでしょう。

例えば、現在のソフトバンクグループに当たるソフトバンクは、2005年に福岡ダイエーホークスの経営権を取得して現在の「福岡ソフトバンクホークス」を設立しています。

このことがインターネットを利用していない層にまでソフトバンクの知名度を大きく高め、その後参入した携帯電話事業での成功にも大きく貢献したのは確かでしょう。

▲ソフトバンクは2005年に福岡ソフトバンクホークスを設立。プロ野球の強豪チームへと育てるとともに、2020年3月の5Gサービス発表時も同チームの選手が登場するなど、同社の知名度向上にも大きく貢献している

また、その少し前となる2004年には、当時のライブドアが経営に苦しんでいた大阪近鉄バファローズの買収を提案。これが敵わなかったことでプロ野球への新規参入を打ち出し、楽天と新規参入を争ったことがワイドショーをもにぎわす大きな話題となりました。

その結果、新規参入が認められた楽天は「東北楽天ゴールデンイーグルス」を設立して2005年にプロ野球へと参入、それによって「楽天」のブランドを幅広い層へと広めることに成功しました。

現在では台湾のプロ野球チームを買収したり、スペインの名門サッカーチーム「FCバルセロナ」のスポンサーになったりするなどして、プロスポーツを活用した世界的な知名度向上を推し進めています。

▲楽天も「東北楽天ゴールデンイーグルス」「ヴィッセル神戸」などスポーツ事業に力を入れて知名度を大幅に向上。現在ではFCバルセロナのスポンサードをするなどして世界的知名度の向上を推し進めている

単なるスポンサーという枠を超え、培ったノウハウをプロスポーツに活かす

ですが最近の動きを見ると、プロスポーツチームへの出資や買収が必ずしも知名度のためだけではない様子がうかがえます。その傾向が強まったのは、2011年にディー・エヌ・エーが「横浜ベイスターズ」運営会社の株式譲渡を受け、現在の「横浜DeNAベイスターズ」を立ち上げて以降でしょう。

ディー・エヌ・エーは球団運営への積極関与や、本拠地である横浜スタジアムの買収による球団との一体運営などによって観客数を増やすとともに球団の経営を大きく改善しています。

現在では同球団を主体としたスポーツ事業がディー・エヌ・エーの成長株となっており、2018年にはBリーグの「川崎ブレイブサンダース」を東芝から承継するなど、プロスポーツを事業として拡大する戦略を取るようになったのです。

▲ディー・エヌ・エーは現在の横浜DeNAベイスターズの株式譲渡を受けて以降、横浜スタジアムの経営権を取得するなど球団経営に注力。観客数を順調に増やしスタジアムの拡大を進めるなど、現在は同社の成長事業となっている

ミクシィも同様に、千葉ジェッツの運営会社の子会社化によって経営に積極参与して本拠地となるアリーナを新たに建設するなど、球団経営に力を注ぐことでスポーツをゲームに並ぶエンタテインメント事業の軸へと結び付けようとしている様子がうかがえます。

単なるスポンサーという枠を超え、これまでの事業で培ったノウハウをプロスポーツに取り入れることで、スポーツを本格的な事業育てようという動きが進みつつあるわけです。

スタジアムやアリーナは新事業を実証する場所として活用

もう1つ、最近顕著に見られるのがスポーツチームの本拠地となるスタジアムやアリーナを、新たな事業の実証の場として活用する動きです。

実際、ソフトバンクは福岡ソフトバンクホークスの本拠地である現在の「福岡PayPayドーム」を、5Gの商用開始前には実証実験の場として何度か活用しています。

▲ソフトバンクは福岡ソフトバンクホークスや現在の福岡PayPayドームと協力し、5GやVRなど新サービスの実証実験を推し進めてきている。写真はソフトバンクが2019年に実施した、5Gを活用したマルチアングルVR試合観戦の実証実験より

また楽天は、東北楽天ゴールデンイーグルスの本拠地である「楽天生命パーク宮城」や、同社の傘下企業が運営する「ヴィッセル神戸」の本拠地である「ノエビアスタジアム神戸」で、完全キャッシュレス化を実現した「キャッシュレススタジアム」を実施。

鹿島アントラーズを傘下に収めたメルカリも、買収に当たっては本拠地となる「茨城県立鹿島サッカースタジアム」や、スタジアム周辺地域へのメルペイの導入推進を打ち出すなど、スタジアムをキャッシュレス推進に活用する取り組みを進めている様子がうかがえます。

資金力を持ち勢いのあるIT企業と結び付く動きに期待

こうした動きを見るに、IT企業にとってプロスポーツは知名度だけでなく、事業面でもプラスの影響をもたらす存在となりつつ様子がうかがえます。

プロスポーツチームは従来のスポンサーの撤退などで赤字経営に苦しむところも多く、新型コロナウイルスの影響で試合ができないことが一層苦しい状況を作っていることも確かなだけに、資金力を持ち勢いのあるIT企業と結び付く動きが広がることで、相互にメリットをもたらしプロスポーツ全体の活性化につながることを期待したいところです。

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