理想的な結婚を、適齢期にした沙織、32歳。

誠実で、外見も稼ぎも良い夫と安定した結婚生活を送り、3年になる。

今回は、有名ブロガーの結婚式に出席する。一見華やかに見える彼女たちの実態とは...?

前回 vol.14:「綺麗すぎて、涙が出ちゃう。」最後の砦と言われた女の結婚式




「有名ブロガー」という特殊な職業の女。そんな彼女の結婚式は...?


学生時代からの友人である真奈美は、「ブロガー」という変わった職業をしている。

詳しいことはよく分からないが、とにかく日記のような文章を書くだけで生計が立てられるというのだから、特殊な仕事なのだと思う。

本人の口から聞いたわけではないので不確かではあるが、例えば化粧品などをブログで紹介するだけで数万円単位の収入が入るうえ、その他にも洋服ブランド、美容院、そしてネイルや美容エステなど、記事にするだけですべてが無料で手に入るという。

さらに、真奈美のブログを覗くたび、彼女はかなりの頻度でブランドの展示会や新作発表会などのイベントに参加している。そこにはモデルや有名人も多々おり、私のような普通の主婦から見れば、彼女は華やかな生活自体を仕事にしているような、かなり得な人生を送っているように感じた。

では真奈美がどんな女かと言うと、実は顔の造りもスタイルも標準レベルの女だ。

ファッションセンスが特別優れているわけでもないし、持ち物も派手ではない。そして性格は、良くも悪くもない。本当にただの普通の女なのだ。一体どうして彼女のような女のブログに何万人もの読者がフォローするのだろうか。明確な理由は誰も知らないし、皆首をかしげていた。

ただ、ブログの中で見る真奈美の生活は日々充実したものであり、記事は一日に何度も更新される。そして何よりも、ブログの中の彼女の顔は実物よりも3倍は美しく見えた。かなりの加工をしているのだろう。

「自己プロデュース力がひたすらに高い女なのよ。」

朋子はそう評価していた。



―写真撮影は披露宴のみ許可しています。撮影は自由ですが、ブログやfacebook等のSNSに掲載する場合は事前にお知らせください。また、新郎の写真掲載はNGです。ご了承ください。

そんな真奈美の結婚式の前日には、こんなラインが送られてきた。

今までそう少なくはない数の結婚式に招待されてきたが、こんな案内をされたのは初めてであった。朋子の言う通り、真奈美は自己プロデュースしたブログのイメージを素人に崩されたくないのだろう。そう思った。


ブロガーならではの、凝った演出の結婚式。しかし...?


凝った演出に、凝ったデザインのドレス。しかし...?


結婚式は、表参道近くの邸宅風の式場で開催された。

写真掲載NGの新郎は、なるほど写真映えしない外見をしていた。IT系の会社に勤めているというが、地味なタイプで性格も大人しそうだ。

「新郎がイケメンだったら、写真掲載は大丈夫なのかしらね。」

ククク、と朋子が小声で笑った。

花嫁の真奈美は、鮮やかなブルーのドレスを着たブライズメイド4人に続いて登場した。凝った登場の仕方である。

しかし、彼女は少々奇抜なデザインのウェディングドレスを着ていた。ワンショルダーで、スカート部分は花柄のような模様になっている。正直、真奈美に似合っているかと言えば微妙だ。

「ねぇ、あれも宣伝用か何かのドレスなのかしら。」

私はつい朋子に耳打ちしてしまった。

「当り前じゃない。自分で選べるなら、あんな酷いデザイン絶対に着ないわよ。」

朋子が仕入れた情報によると、この結婚式自体、すべてブログで宣伝するという名目で半ばビジネスのように設定されているらしい。もちろん結婚式にかかる費用もそれぞれに大幅にディスカウントされている。むしろ業者によっては、宣伝費として収入にもなり得るそうだ。

「結婚式となればブログのアクセスも増えるだろうし、真奈美にとっては勝負ドコロなのよ。」

ブロガーというのは、やはり面白い職業である。


不穏な空気が流れ始めた、ブロガー特有の行動


挙式は通常よりスローペースで行われた。理由はプロによる写真撮影のためだ。

新郎が新婦のベールをめくる場面、指輪交換、そして誓いのキスも、シャッターチャンスを逃さないようにといちいち長めの時間がとられた。きっとこれがすべてブログに掲載されるのだろう。

そして、不穏な空気が流れ始めたのは挙式後のフラワーシャワーからだった。

フラワーシャワーが終わってからの写真撮影にかける時間が、やたらと長かったのだ。ブライズメイドの4人もどうやらブロガー仲間のようで、納得のいくまで何度も何度も同じような写真を撮り続けている。

これも恐らくブログ掲載用の写真として念入りに撮影しているらしいが、関係のない者たちにとっては集合写真に参加する以外はただの待ちぼうけだった。

「あの5人の撮影はいつまで続くのよ...。そろそろ室内に入れてもらわないと溶けそうだわ。」

朋子の言う通り、皆首筋に汗を掻いていた。夏の炎天下の中、結局私たちは1時間以上も外での写真撮影に付き合わされた。


得だと思っていたブロガーという職業。実は...?


タダより恐いものはない。費用をかけずにコーディネートされた披露宴は...?


披露宴のコーディネートは、とある業者がプロデュースをしたらしいが、質の低いテーマパークのようなセッティングだった。テーマは何故か「シンデレラ」とのことで、会場には水色の風船やDIY風の飾りつけが施されていたが、正直少々安っぽかった。

余興の映像はプロジェクションマッピングが導入されていた。しかし、それは会場の作りやスクリーンと微妙にズレており、担当者が微調整を試みるものの、なかなか上手く行かない。

シャンパンタワーのイベントなども用意されていたが、一つ一つのグラスにシャンパンを注いでいくので酷く時間がかかるという、これもプロとは思えないほどの手際の悪さだった。会場の雰囲気は、どんどんシラけていく。

「やっぱり、タダより恐いものはないのよ。」

注いでからかなりの時間が経過し、温くなったシャンパンを飲みながら朋子が言った。

そして真奈美はお色直しで、やはり水色のドレスを着て入場した。これはスタンダードなデザインで可愛らしかったが、またしてもブライズメイドたちとの撮影に時間を要し、結局披露宴は何だかんだと4時間近くも続いた。

終わる頃にはゲストには結構な疲労が溜まっていたと思われるのだが、何とも皮肉なことに、引出物にはマイナーブランドのアロマオイルが入っていた。これもきっと宣伝用のものだろうが、これで疲れを癒せというメッセージのように思えてしまった。


ブログに掲載された結婚式は、やはり10倍増しでバージョンアップ


―SNS掲載の際は、こちらの写真を使用してください

結婚式の直後、真奈美からはこのようなラインメッセージと共に、プロが撮影した写真が何百枚もアルバムになって送られてきた。ご丁寧に、新郎の顔は既にハートのスタンプで隠されている。この徹底した配慮には尊敬の念を覚えた。

その後気になり彼女のブログを覗いたが、やはりそこで見る結婚式は本来より10倍増しで豪華なものになっていた。プロの写真技術によって、良いものだけが上手く誇張してピックアップされているのだ。奇抜なウェディングドレスも、高度な加工でオシャレなものに見えた。

そして、結婚式場やドレスショップ、パーティ業者、そして引出物のブランドにはすべてリンクが貼られていた。やはりすべて宣伝を兼ねての結婚式だったようである。

ブロガーという職業上、これらを批判する気は特にない。しかし、一生に一度の結婚式に自分の好きなドレスも選べず、また徹底してボロが出ないように配慮をしなければならないなど、ブロガーはさほど楽な商売でもないらしい。

これまでブログで見ていた彼女の華やかな日々も、やはり自己プロデュースの賜物であろうことがよく分かった。

【今日の推定結婚式明細】(最高5つ星)
総額:¥2,590,000

ドレス:¥0 (★★)
飲食代単価:¥1,800,000=単価¥18,000×100人 (★★★)
ウェディングケーキ:¥50,000 (★★★)
装花:¥90,000 (★★★)
引出物:¥450,000=¥4,500×100人 (★★★)
司会:¥0 (★★★)
会場(挙式料、室料、会場装飾・演出、音響照明、ペーパーアイテム、介添え料、お色直し美容費、メイク・ヘアリハーサル含む):¥200,000 (★★)
余興:(★★)
センス:(★★)
※すべての項目にブロガー割引の可能性あり

【指輪】
婚約指輪:¥800,000(★★★)
結婚指輪:¥150,000(★★★)