田端〜品川駅間で並走する山手線京浜東北線(写真:tarousite/PIXTA)


東京のような大都市には、実に多くの鉄道路線が通っている。そのため、目的地までのルートも複数通り存在することになる。例えば、渋谷から新橋に向かうなら地下鉄銀座線とJR山手線。新宿から上野ならJR中央線から神田で山手線に乗り換える手もあれば、山手線でぐるりと半周してもOKだ。また、目的地がアメ横など御徒町にも近いならば都営大江戸線の上野御徒町駅を目指すこともできる。

このような“ひとつの目的地と複数のルート”。多くの人は、乗換案内サイトなどを利用して最適なルートを探していることだろう。では、田端〜品川間はどうしているだろうか。

この区間、山手線京浜東北線が完全に並行して走っている。日中は京浜東北線が快速運転をしているが、朝夕はいずれも各駅停車。それも品川駅以外はすべて同じ方向の列車は京浜東北線山手線も同じホームに発着する。時刻表を見ても、田端〜品川間の所要時間はいずれも26〜27分で変わらない。つまり、山手線京浜東北線、どちらに乗ってもほとんど違いはないように思える。



どっちに乗る?聞いてみました


そこで、実際に利用者はどちらを選んでいるのか。それを探るべく、沿線に足を運んで話を聞いてみた。

「先に来た列車に乗る。同時に来た時は…特に深く考えたことがないですね」(御徒町駅/20代男性)
「個人的には青が好きなので、選べと言われたら京浜東北線。でもあまり気にしたことはない」(新橋駅/30代男性)
「昔、横浜に住んでいたことがあるので、身近な印象のある京浜東北線を選びます。が、山手線が早く来たらそっちですね」(新橋駅/40代女性)
山手線は11両編成だし、大宮方面・横浜方面の利用者が乗らないので空いている気がする。だからどちらかと言えば山手線です」(浜松町駅/20代男性)
「いつも利用している上りエスカレーターを降りると京浜東北線のほうが近いから、どちらかというとそっちかな」(新橋駅/30代男性)

多少なりともこだわりを持つ人もいたにはいたが、それとて“強いて言えば”程度のもの。ほとんどが“深く考えたことはない”というお答えだった。乗車するホームも停車駅も所要時間も変わらなければ、「どっちに乗ろうか」と考えるほうがバカバカしいのだ。まあいずれも本数は多いわけで、どちらに乗るべきか悩む暇があったら目の前の列車に飛び乗るべきなのは百も承知。というわけで、山手vs京浜東北の戦いは、これにて終了…。

と、ここで終わっては少々つまらない。というわけで、実際に山手線京浜東北線、条件はどれだけ違うのかを詳しく調べてみた。


本数はどっちが多いのか


まずは、時刻表から見てみよう。

京浜東北線が快速運転を行っている10〜15時台を除いた時間帯で、それぞれの運行本数を比較した。すると、田端から品川へ向かう列車では山手線が229本、京浜東北線が197本となった。

時間帯別で見ると、朝晩のピーク時はほぼ変わらないが、ピークを外れると山手線の運行本数のほうが明らかに多い。特に夜19時台以降では、山手線が21時台まで1時間18本を維持しているのに対して、京浜東北線は15本→13本→13本と本数を減らしている。



本数では山手線京浜東北線に大きく差をつけて勝っている


つまり、多くの利用者が山手・京浜東北の選択のポイントにしている“早く来る方”という点で言えば、本数が多い山手線の方が“便利”ということになる。実感としても、夕方以降17〜18時台の利用が多い人は“どちらも同じくらい乗っている”という感覚、19時台以降の利用が多い人は“山手線中心”という感覚を持っているかもしれない。

ちなみに、さらに詳しくダイヤを見てみると、山手線京浜東北線、並んで“競走”しているような印象もあるが、同じ時刻に同じ駅を発車するダイヤになっているケースは意外と少ない。18時から18時30分までを見ると、いずれも10本ずつ運行しているが、田端駅出発時間はすべて異なっている。

途中駅や品川駅の発車時間が同じ時刻になっている例もあるが、これは1分未満(秒)を丸めているためで、ダイヤが乱れないかぎりは“どちらかが先にホームに到着する”ことになる。“同時”がないならやはり迷う余地なく“来た列車”に飛び乗るべきなのだ。



車両では京浜東北がリード?


では、他には選ぶべき“決め手”はないのだろうか。ちょっとマニアックにはなるけれど、続いては“車両”の違いで考えてみよう。

現在の主力車両は山手線がE231系500番台、京浜東北線がE233系1000番代となっている。そもそもE233系はE231系の後継車両として開発・製造された経緯があるから、車両のグレードという点では確実に京浜東北線山手線を上回っていることになる。

なお、山手線では昨年11月末の営業運転初日にトラブルを起こして以来、営業運転を取りやめていた新型車両E235系が3月1日から再び運転を開始するが、ここでは考えないでおくことにする。

まずは走行性能。営業最高速度はいずれも車両の設計最高速度に関わらず90km/hに制限されており、さらに同区間を走るのだから、これを比較しても意味がない。むしろ重要なのは、起動加速度と減速度だ。この起動加速度と減速度は、必ずしも新型のほうが優れているわけではなく、線区の特性などを考慮して決められる。京浜東北線のE233系1000番台では起動加速度2.5km/h/s、減速度が5.0km/h/s。一方の山手線E231系500番台では起動加速度が3.0km/h/s、減速度は4.2km/h/sだ。

車両としてどちらが優れているということではないが、このデータから見れば加速性能は山手線、減速性能は京浜東北線に軍配があがる…ということになる。ほぼ同時に同じ駅を出発すると、まず山手線が先行するが最終的には京浜東北線が追いついて次駅にはほぼ同時に到着…という光景をよく見るのは、こうしたそれぞれの車両の特徴が影響しているのかもしれない。


安全性や耐久性に違い?


ただ、こうした数値は設計上のもので、実際の運行時は乗車率や電圧などの状況に左右されるので、実際には大きな違いがあるわけではない。それに田端〜品川間は駅間距離も短く、有意な差が出るとは思えない。となれば、この走行性能だけでは山手線京浜東北線も、それほど大きな違いがあるとは言えないだろう。

ここまで来ると、もはやどちらも差はないのでは…と思えてくるが、車両の違いはさすがにそれなりの意味を持つ。それは、“安全性”だ。

そもそもE233系はE231系を発展させ、さらに安全性を高めたものとして設計されている。そのため、安全性を考慮すれば、明確にE233系、つまり京浜東北線のほうが優れているのだ。



大差ないとはいえ、安全性や快適性は車両が新しい京浜東北線が上だ


具体的には、まず二重化設計があげられる。E233系以降のJR東日本の車両では、伝送装置や保安装置など主要な機器はいずれも二重化されている。つまり、何かが故障をしてももう片方が生きている限り、車両は走り続けることができるというわけだ。この二重化(冗長化)は航空機などでも採用されており、今や安全設計の基本中の基本だ。

さらに、車体の強度も向上しており、特に側面の衝撃への強度はE231系から約10%も向上している。もちろんそうそう事故が起こるとは思えないが、それでも安全を考慮してどちらかを選ぶなら、迷うことなくE233系の方が優れているということになる。“何かあっても死にたくない”と思うあなたは、ちょっとホームで待つことになっても京浜東北線を選ぶべきなのだ。

さらに細かい点で言えば、縦方向の揺れを軽減する軸ダンパの採用、ホームと車両との段差が約2cmほど低い設計など、E233系には優れている点が少なくない。“後継車両”なのだから当たり前なのだが、安全性や快適性を求める限りは、京浜東北線なのである。



座れる確率では山手線に軍配


ただ、田端〜品川間の乗車区間は最大でも27分程度。全区間を通して乗るという人はさらに少ないと思われるし、乗車時間は平均でせいぜい10分程度といったところだろう。さらに、山手線は11両編成なのに対して京浜東北線は10両編成。定員も山手線のほうが200名ほど多い。ラッシュアワーはともかく、そうでない時間帯なら山手線のほうが幾分空いている可能性が高いとも言える。

実際に夜間、21〜22時台に何度か利用してみたが、山手線は短い乗車区間(例えば神田〜新橋など)で降りる人が多いのに対して、京浜東北線は長く乗る人が多いという傾向もあった。となれば、定員の多さも相まって、座りたいなら山手線、ということになりそうだ。E233系京浜東北線の乗り心地がわずかにいいとはいっても、座れるなら山手線を選ぶ…というのも悪くない選択だろう。


結局どっちに乗るのが正解?


ここまで、あれこれ要素をあげて比較してみたが、結論としては“たいした差はない”ということ。「大森まで行くのに山手線に乗っちゃった」とか、「駒込で降りるのに京浜東北線に乗った」みたいなミスさえしなければ、“先にホームに入ってくる列車に乗る”。それ以上の正解はないようだ。

ちなみに、似たような区間として埼京線・湘南新宿ラインの大崎〜池袋間がある。ただ、こちらはいずれも同じ線路を走っており、途中での追い抜きはないので文字通り“先に来た列車に乗る”が正解。



埼京線と湘南新宿ラインの大崎〜池袋間は同じ線路を走っているため、先に来た列車に乗るのが正解だ(写真:ニングル/PIXTA)


さらに大宮まで区間を伸ばして考えても、湘南新宿ラインは田端方面へと大きく迂回することもあり、埼京線の快速と比べれば所要時間の差はせいぜい5分程度だ。

また、対私鉄では品川〜横浜間の京急と東海道線がある。こちらはダイヤ上、約1分の差で京急のほうが速く到着する。ただし、運賃はJRのほうが10円お得だ。さらに前後の区間でJRを利用しているなら、わざわざ乗り換えるよりはそのままJRを利用したほうがはるかにメリットはあるだろう(もちろん乗り換え時間のロスもある)。渋谷〜池袋間も地下鉄副都心線と山手線・埼京線・湘南新宿ラインが競合している。

しかし、埼京線と湘南新宿ラインは山手線からかなりホームが離れているし、副都心線はだいぶ地下深く、ハチ公前広場から乗車するまでは10分近くかかってしまう。となれば、その移動時間も考慮すると山手線での移動がもっとも効率的ということになりそうだ。

こうした例と比べてみると、いくら安全性や乗り心地で京浜東北線がいくぶん優れているとはいえ、その差はゼロに近い。となれば、あえてどちらを選ぶかを考える必要はやはりなさそうだ。



東京では「奪い合い」は少ない


ちなみに、関西では、長年私鉄とJRが激しい乗客争奪戦を繰り広げてきた。特に阪急VS新快速。元はといえば、阪急も阪神電鉄に対抗して“阪神急行”として誕生したという経緯もあるし、いたるところで乗客を奪い合ってきたのだ。ただ、その結果として福知山線脱線事故のような悲劇もうんでしまった。

対する東京では、私鉄とJRが並行する路線はそれほど多くなく、あっても乗車率がいずれもかなり高いので“奪い合い”というほどの状況にはなっていない。むしろ、混雑度を軽減するために同一事業者(主にJR)が並行する列車をどんどん走らせているくらいだ(それが山手線京浜東北線であり、さらに言えばまもなく開業1年を迎える上野東京ラインである)。

何しろ上野東京ライン開業前までは、上野〜御徒町間の乗車率は199%。山手線京浜東北線を分けたデータではないので、どちらもこれだけ混雑していたということだ。そう考えれば、ますます“来た方に乗る”、それ以上の答えはない。

そしてその上で、いかに東京の鉄道が運行本数・乗車率とも異常な状況なのか、考えるきっかけにするべきとも言えそうだ。


著者
鼠入 昌史 :ライター

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