初めて犬を飼う時は「賢い犬」は避けるべき?動物行動学者が教える「犬も家族も幸せになる」犬種選びの正解
空前のペットブームが続く一方で、飼い始めた犬を手放す人も後を絶たない。動物保護団体によれば、「吠える」「噛む」「家具を壊す」といった問題行動を理由に、譲渡後に返還されたり、飼育放棄されたりするケースが少なくないという。
しかし、動物行動学を専門とする高倉はるか先生は、「犬が悪いのではなく、犬種の特性と飼い主の生活が合っていないことが多い」と指摘する。
東京大学および大学院で獣医学を学び、在学中にカリフォルニア大学デービス校付属動物病院で行動治療学を学んだ高倉はるか先生の連載。前編「動物行動学の専門家が『飼ってはいけない』一度スイッチが入ると相手が死ぬまで離さない犬たち」では、闘犬を飼う危険性や、大型犬による重大事故のリスクについてうかがった。
こうした事故の原因のすべてが、犬種にあるわけではない。しかし、はるか先生は「犬の行動傾向や本来の特性を理解せずに迎えることが、不幸な結果につながることは少なくない」と指摘する。
動物病院での診療や大学講師などを経て、現在は「ペットと人が楽しく快適に暮らすためのライフスタイルの提案」をライフワークとしているはるか先生に、初めて犬を迎え入れる時、どのように犬を選べばいいのか、犬と人の長い共生の歴史を踏まえ、話を聞いた。
「問題行動」は犬のせいではない
先日、科学誌「ネイチャー」に掲載された2つの研究論文では、犬がこれまで考えられていたよりもはるかに長い間、人間の伴侶であったことを示す証拠が発見されたそうです。最も古いものは約15,800年前のもので、これまで考えられていた犬の起源を約5,000年遡らせることになるそうです。
こうした人と犬の長い関係の中で、人は、牧羊犬、猟犬、番犬、愛玩犬など、犬の役割に合わせて犬種改良してきました。こうした歴史を無視して、犬の「見た目」だけで選んでしまうと、その後の生活の中で不幸なマッチングミスが起こりやすくなります。
飼い主さんから持ち込まれる相談の中で、いわゆる「問題行動」の多くは、犬が本来持っている欲求が満たされないために起きていることがほとんどです。
特に多いのが運動不足です。
例えば、ボーダーコリーは広い農場で牛や羊を追う牧羊犬、ジャックラッセルテリアは野山で獲物を追いかける猟犬として、改良された犬種です。体力があって、長時間走り回っても疲れません。そういう犬に、毎日10分程度の散歩しかさせなかったら、どうなるでしょう。
毎日全力で仕事をしたい犬は、エネルギーが余って、代わりに、家の中でやることはないかと探し始めます。
たとえば、来客に向かって吠える。
これは飼い主さんからすると困った行動になるかもしれませんが、犬は「知らない人が来ましたよ」と群れの仲間(家族)に一生懸命知らせているつもりなのです。
ほかにも、家具を咬んだり、洗濯物で遊んでいるように見えるのも、「飼い主さんのために何かしたい」「仕事がしたい」「自分に反応してほしい」という気持ちの表れなのです。家具を傷つけたり、洗濯物を汚してしまって、飼い主に怒られてもまたやるのも、自分の行動に飼い主が反応したり、気にかけていることが嬉しいから。
怒っているのに、と思うかもしれませんが、犬にとって一番つらいのは、無視されること。怒られる方が、放っておかれるより、ずっとましなのです。
こうした相談を受けるたびに、私は、「犬が悪いのではなく、犬に必要なものが足りていないか考えてみてください」とお伝えしています。
試しに、2時間ほどたっぷり散歩をさせてみてください。へとへとに遊び疲れて、残りの大半は、静かに寝ているはず。犬の問題行動のほとんどは、散歩で体力を使い果たせば、落ち着くのです。
「活発な犬」は飼いやすい?
どの犬にも散歩は必要不可欠なものですが、犬種によって、必要な運動量は違います。ご家族の構成やライフスタイルによっては、ドッグランで何時間も走らせないとならない猟犬や、運動量が多く活発な犬は合わないこともあります。事前に家族でよく話し合えるといいですね。
お子さんがいらっしゃる場合は、年齢によっては、避けた方がいい犬種もあります。まずは、犬種図鑑で考えている犬種の性質などをよく確認してみてください。
図鑑には、「明るい性格」「活発」「元気いっぱい」「大人しくて飼いやすい」などといった言葉が並んでいますが、私は、そうした説明の「裏」も読んだほうがいいと思っています。
例えば、人気ナンバー1のトイプードルの場合。「明るく活発で遊ぶことが大好き。温厚で友好的で、飼い主さんや家族に対する愛情表現も豊か」とあります。
「明るく活発」ということは、運動や刺激を必要とすること。そして「愛情表現豊か」とは、その分関係性を強く求めてくるので、お留守番の時間が長くなれば、ストレスになります。
つまり、朝晩の散歩にしっかり行けるかどうか。日中、家で一緒に過ごせる時間を確保できるかどうか。
昼間は学校や仕事で家族全員が出払い、家に何時間もひとりぽっち、では、犬には辛い生活になるかもしれません。
また、ボーダーコリーは、均整のとれた体で素晴らしい運動能力を発揮します。並外れたスタミナを備えており、頭のよさも全犬種のなかでトップクラス。けれども、人間との関係では、その賢さが必ずしも飼いやすさにつながるわけではありません。
「賢い」とは、飼い主の動向を気にかけ、飼い主のために何かやってやろうと、つねに先回りして考えられるということ。素晴らしい運動能力と並外れたスタミナを持て余せば、大きなストレスになります。
ボーダーコリーを飼うのであれば、1日4時間をめどに散歩をさせる、広いドッグランなどでトレーニングをさせるなど、時間とスペースをたっぷり使っていただきたいと思います。
あまり飼育環境の良くない繁殖業者のところで、檻に閉じ込められたままのボーダーコリーがノイローゼになったり、うつ病になってしまったケースも、決して少なくありません。
広い牧場を駆け回り、牛や羊を統率するために改良されてきた犬です。狭いところに閉じ込められれば、飼い主さんの気を引こうと、次々と新しい問題行動を起こすのは、決して不思議なことではありません。
賢い犬ほど、犬の扱い方に長け、犬との時間をしっかり確保してくれる飼い主さんが必要になるのです。
犬種を選ぶ時には「賢いから飼いやすそう」と考えるのではなく、「その犬に必要な運動や刺激を与えられるだろうか」と考えていただけたらと思います。
子どもがいる家庭は犬種選びを慎重に
小さなお子さんがいる家庭では、犬種選びは慎重にしたいものです。
私の考える「小さなお子さん」とは、だいたい10歳以下くらい。そのころの子どもはまだ、理性より好奇心が勝ってしまい、悪気なく、犬のしっぽを引っ張ったり、部屋の隅に追い詰めたり、嫌がっているのに触り続けたりしてしまうことがあります。
けれども、犬が本当に恐怖を感じたり、追い詰められると、防衛本能から咬んでしまうことも。さらに、そうやって子どもの行動をストップできたという経験が犬にとっての成功体験になれば、「咬めばこの状況から逃れられる」と学習してしまう。
そうなると、その後の関係づくりはずっと難しくなります。
子育て中のご家庭で比較的暮らしやすい犬種としては、ラブラドールレトリバーやゴールデンレトリバー、プードルなどが挙げられます。
うちでは、フラットコーテッドレトリーバー、ラブラドールレトリーバー、ゴールデンレトリーバーなどを飼っていましたが、子どもが小学校4年生くらいまでは、絶対に犬と子どもだけにはさせないよう、気をつけていました。どんなに穏やかで、賢く、忠実な犬でも、犬は生き物です。何がきっかけとなって、状況が一変するか、誰にもわからないのです。
犬種だけで全てが決まるわけではありませんが、犬種ごとの行動傾向というのは確かにあります。柴犬のような日本犬は比較的独立心が強く、過度に構われることを好まない子が多く、一方、チワワのように一見かわいらしく見えても、実は気が強い子が多い犬種も。
犬を選ぶときには、どんな年齢の子どもがいるのか、どれくらい散歩の時間を確保できるのか、犬と過ごす時間は十分に取れるのか、ぜひご家族で話し合っていただけたらと思います。
