「自分たちだって大きな校舎を建てたのに…」東大62人の名門女子校・桜蔭学園のタワマン訴訟に冷ややかな声 現地で見えた“意外な現実”
今年の東大合格者数62人。女子校として国内トップの進学実績を誇る桜蔭学園が、隣地のタワーマンション建設を阻止しようと法廷闘争を続けている。「校舎を覗かれる」「教育環境が損なわれる」と訴える桜蔭側だが、現地で取材すると、地域住民からは「自分たちだって大きな校舎を建てたのに」「そこまで言うのはおかしい」といった厳しい声も聞こえてきた。全国的な注目を集める“桜蔭タワマン訴訟”の現場を歩くと、報道だけでは見えてこない複雑な実情が浮かび上がってきた。
【画像】「タワマンができたら校舎を覗き見られる」とも報道されるが、そもそも桜蔭学園の300メートル先にはホテルが
桜蔭学園…名実ともに日本ナンバーワンの女子校
JR水道橋駅を降りて水道橋の交差点に着くと、多くの人々が横断歩道を行き交っていた。東京ドームに商業施設、ホテルなどが密集している観光地だけにインバウンドも多く、平日にもかかわらず賑やかだ。
しかし、大通りから一本入ると、さきほどまでの喧騒が嘘のように静かになるのはさすが文京区といったところか。雑居ビルやマンションが立ち並ぶ中、坂を登っていくと、目当ての建物がそこにはあった。
桜蔭学園――。教育に関心を持つものならば、その名前を聞いたことがない人はいないだろう。女子御三家の一角にして、2026年の東大合格者数は62人。女子校としては2位の女子学院の28人に大差をつけて独走している。
東大に並ぶ難関である医学部への進学実績も多く、名実ともに日本ナンバーワンの女子校であることに疑いの余地はない。今回の訴訟が話題を呼んだのは、桜蔭学園が超有名進学校であることと無関係ではないだろう。
卒業生には「このハゲ~‼」発言のアノ人も
6月4日には、桜蔭出身で現在は参政党所属の豊田真由子議員が衆議院予算委員会で桜蔭タワマン問題を取り上げ、ついに国会マターとなった。
かつて「このハゲ~!!」「ちーがーうーだーろー!」と秘書を罵倒した逸話で全国に名を轟かせた豊田議員だが、桜蔭から東大、ハーバードというエリートコースを歩んでいる。その競争心をむき出しにしたスタイルも、桜蔭の苛烈な競争環境で培ったものなのかもしれない。
さて、ここで裁判の内容をおさらいしよう。事の発端は、桜蔭の隣地に建つマンション「宝生ハイツ」に建替え計画が持ち上がったことだ。
直角をうまく使った瀟洒なデザインは古さを感じさせないが、建てられたのは1979年と確かに古い。近づいて見てみると、外壁はところどころ剥がれていた。
桜蔭が狙ったのはタワマンではなく行政だった
そんな宝生ハイツの建替え話が持ち上がったのは2022年。地上8階建ての物件を20階建てのタワマンにしようというのだから、桜蔭学園をはじめ自治会、近隣の神社などは「寝耳に水だ」として桜蔭が中心になって「本郷一丁目の住環境を守る会」を設立、署名活動を開始した。
桜蔭側が問題視したのが高さだ。もともと、この地域は建築規制があり、高さの制限は46メートル、容積率は400%と定まっていた。
しかし、宝生ハイツ側は一般の人々が自由に通行できる公開空地を設置することで規制緩和を受け、高さ約76メートル、容積率約600%まで引き上げたのだ。
もともと宝生ハイツは忠弥坂という坂の中腹にあり、坂の上にある桜蔭からは見下ろす形になっていた。しかし、タワマン化によりこれが逆転し、桜蔭は見下ろされる立場となる。
宝生ハイツ側との交渉が不調に終わったことを受け、桜蔭側が訴訟に入ったのは2024年。もっとも、民間の再開発を止めるための訴訟は私有財産権に立ち入るため、ハードルが高い。そこで桜蔭が狙ったのが行政だった。
建築規制の緩和許可を差し止めることで建替えを阻止しようという「搦め手」だ。文京区ではかつて、NIPPOが建築していたマンション「ル・サンク小石川後楽園」に対し、近隣住民が都の建築審査会に建築確認を取り消すよう求め、建築中止まで持ち込んだケースがある。その再現を狙ったものだ。
「バルコニーから校舎を覗き見られる」
桜蔭側の主張は3つにまとめられる。1つ目は桜蔭と宝生ハイツの間にある擁壁が工事によって撤去されることで坂の上にある校舎が倒壊する危険性があるというもの。
2つ目は建替えによって日照が損なわれ、教育環境が悪化するというもの。
3つ目は規制緩和の前提となっている公開空地のアクセスが悪く、空き地としての機能を果たさないのではないかというものだ。
報道では2つ目の教育環境の悪化について「バルコニーから校舎を覗き見られる」という言葉が大きく取り上げられている。
これは桜蔭側がことさらこの部分を強調しているのではなく、報道機関側による、「高偏差値の女子校と盗撮」という格好のテーマで盛り上げようという意図が感じられる。
さて、実際に現地を訪れると、確かに桜蔭の校舎が擁壁の上に立っていることがわかる。それだけ坂の斜面が急であることの証であり、横浜などではよく見られる光景だ。
「そもそも桜蔭も勝手にデカい建物を建てておいて…」
「擁壁とその上にある校舎が倒壊する恐れがある」という主張の妥当性は判断できないが、地裁判決では顧みられなかったようだ。また、3つ目の公開空地についても、都市部の再開発では珍しいものではない。
2つ目の教育環境の悪化については、至近距離に高い建物を建てられることで圧力を感じるという向きは確かにあるだろう。一方で、付近を歩くとよく分かるが、そもそもこのエリアにおける桜蔭の校舎の存在感はかなり大きい。
特に23年に完成したばかりの「新東館」は周辺の建物に比べても大きく、圧迫感を与えていた。犬の散歩をしていた高齢の男性に話を聞くと、「そもそも桜蔭も勝手にデカい建物を建てておいて、自分たちの隣は嫌だというのは少しワガママなのでは」と吐き捨てた。地域一丸となってタワマンに反対しているというわけではなさそうだ。
ちなみに、盗撮や覗きのリスクについてだが、そもそも桜蔭から直線距離にして300メートルの位置に東京ドームホテルがあり、双眼鏡や望遠カメラを使えば、覗こうと思えばいくらでも覗ける状況にあるということは記しておきたい。
身元がわかる分譲マンションからわざわざ盗撮や覗きをしたいという奇特な人間よりも、不特定多数が利用できるホテルのほうがよほど危険な気がするが、これまで生徒を守るための手立ては打ってきたのだろうか。
桜蔭側の分が悪いワケ
ぱっと見は普通のマンションに見える宝生ハイツだが、その成り立ちはかなり特殊だ。
マンションが建っている場所は元は能楽の流派のひとつで600年以上続く宝生流の宗家に由来する公益社団法人宝生会のもので、もともと「宝生能楽堂」の敷地だった。1979年に建て替える際に分譲マンションと一体化させたという経緯がある。
老朽化したマンションの建替えは住民間での合意形成が難しいことで知られるが、宝生会が一部の土地を持っていることから、通常のマンションに比べてスムーズに進んだという経緯がある。
新しく建つタワマンにも能楽堂を併設する予定で、伝統文化を次世代へと承継させていくために不動産を有効活用していくという姿勢が窺える。桜蔭が「うちは伝統校だ」と上から目線で噛みついたところで、分が悪いと言わざるをえない。
そもそも、学校と不動産事業者が揉めるというのは珍しい話ではない。
カネで解決した雙葉学園のケース
同じく東京の四谷に立地し女子御三家の一つである雙葉学園では2017年、校舎の隣地に三菱地所レジデンスがマンションを建てる計画が持ち上がり、同校との間で騒動となった。
同じく女子御三家の一角で番町に立地する女子学院でも、近隣にある日本テレビ旧本社跡地で高層ビル建設が計画され、現在進行形で紛糾している。都心に立地する伝統校の周辺は土地価格が高騰しており、億ションやオフィスを建てるにはちょうどよいのだ。
桜蔭側は東京地裁の判決を不服として控訴したため、法廷バトルは高裁へと進むことになる。判決がどうなるかは分からないが、当初25年4月としていた着工予定がさらに伸びることは確実な情勢だ。
ちなみに、法廷闘争に頼らずに事態を収束する簡単な手法が一つだけあることはあまり知られていない。前述の雙葉学園のケースでは、マンション建設を阻止するため、学校側が保護者や卒業生、関係者から募金を募り、その土地を購入したのだ。現在、その土地は校庭として活用されている。
今回、法に訴えるという道を選んだ桜蔭だが、高裁で判決をひっくり返すのは容易ではない。資本主義社会において「口は出すがカネは出さない」という姿勢で不動産開発を止めるのはなかなか難しいのも事実。
桜蔭といえば実業界や法曹界、医学会に多数の裕福なOGがいることで知られるが、彼女たちの財布の紐は堅いのだろうか。
文/築地コンフィデンシャル
